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「長月!」


まずは喉を潰さなくてはいけない。
頸は飛ばせずとも声帯の所にある袋のような物を無効化する為に大きく飛び上がってそれを切っ先で斬り下ろす。

少しでいい、長月の型が当たれば溶けて再生不可能にする事が出来る。
声からの攻撃を防げば何とかなると態勢を整えながら着地した瞬間、くらりと脳が揺れた。


「ど、して…」

「声袋を壊しても無駄だよ。私の血鬼術はそれだけじゃないからね」


ニヤリと笑った鬼にふらつく体を何とか支え異様な臭いに気付く。
咄嗟に鼻を抑え鬼から距離を置き、鬼を見上げても視界が歪んで動きを捉えられない。


「風上は私が取ってる。あんたは逃れられない。さぁ、さぁさぁさぁさぁ!!狂い死ね!」

「…断るっ!」

「ギィッ!!」


私に長い爪を突き立てようとした鬼の手を斬り落とすも体が上手く動かず崩れ落ちる。
次の攻撃に備えなくてはいけないのに、体がまるで言う事を聞かない。

立たなくては、刀を構えなくては。
必死に刀を地面に突き刺し態勢を整えようとした時だった。


「死ねぇぇえ!!」

「待て」


突如低く響いた声に私も、私を殺そうとしていた鬼の身体も凍りついた。
そして義勇さんでも伊黒様でもない影がゆっくりと私達の元へ近付いてくる。

雲間から顔を出した月明かりで照らされたのはギョロリとした目が六つの鬼だった。
こんな所でもう一体鬼が来るなんて。

態勢を整えようとしていたはずの刀を持つ手が震え、体は少しも動かない。


「…ほぅ…お前が…月の呼吸を使う鬼殺隊の女か」

「こ、黒死牟様!何故ここに…」

「お前に…話し掛けては…いない」

「っ申し訳、ありません!」


黒死牟と呼ばれた鬼に睨まれた女鬼は平伏すようにして謝っている。
どうしてあの鬼が私の存在を知っているかが分からないが、一つだけ分かったことはあった。

上弦ノ壱。
十二鬼月の中で最も位の高い鬼だ。


「私の…血族ではない…か」

「…わ、私の親族に鬼など居ない!」

「ならば何故…技は違えど…私と同じ呼吸を使う…」

「同じ、呼吸…?」


恐怖を振り切ろうとあえて大きな声を張り上げれば、特に意にも止めない鬼は私の腕を引っ張り持ち上げる。
体全体を見ている複数の目が何を写しているかは知らないけど、凄く嫌な気分になった。


「お前は…誰だ」

「っ、ぐ…」

「誰から…月の呼吸を教わった」

「おし、えるものか…っあ"ぁ!!」


質問ばかりしてくる黒死牟を睨み付ければ、掴まれた腕がみしみしと嫌な音を立てる。


「…お前には興味がある…阿月…後は好きにするといい」

「はっ!」

「っ、離せ!」


いくら藻掻こうとも、刀を突き刺そうとも全く動じない黒死牟に月の呼吸を食らわせようとした瞬間腹に重い一撃をくらい血を吐いた。
肋も何本か折れた音も聞こえる。


「…鬼となれば…全てわかるだろう」

「わ、たしはっ…鬼になんて、ならないっ」

「…威勢の良さだけは褒めて…やる」

「っ…義勇、さん」


遠ざかる意識を何とか保とうと唇を噛んだが、無意味に終わった。


「お前の匂いは…アレと似ている…」


忌々しそうにぽつりと呟いた黒死牟の声を最後に私は意識を飛ばしかけた。


――起きなさい月陽


意識を飛ばす瞬間母さんの声が聞こえた気がして閉じかけていた目を開く。

そして手に持っていた日輪刀で私を抱える黒死牟の腕を斬り落とし、そのまま地面に打ち付けられるように落ちた。
だがお陰で少しだけ正気を取り戻した。


「…無駄な抵抗は止せ」

「私は、生きるって約束したの…強くなるって、約束したの!こんな所で私は死なない!」

「っ!」

「月の呼吸、終ノ型…月詠の舞!」


再び私を捉えようとした黒死牟の両腕を2つの日輪刀で斬り裂き、後ろへ飛んだ。

私の後ろは崖になっている。
少しでも生き残る可能性を選んだ賭けだ。

鬼にされるくらいならば、人として死にたい。
もっと、私に力があったなら。
落ちていく私に手を伸ばす黒死牟を眺めながら私は深い滝壺に落ちた。




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