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「残りおおよそ10体!」
「了解です!皆さん絶対に離れない様に協力して必ず仕留めてください!」
村田さんの声に全員が反応をしたのを耳と目で確認する。
今の所きちんと指揮通りに動いてくれている。後はこの陣形を崩しかねない鬼が来ないかどうかだ。
村田さんも善戦してくれている。
「大型の鬼だ!」
「村田さん、そっちは私が!他の人の援護をお願いします」
第二波では無いと思うけど、ここまで撹乱した鬼は珍しい。
動きもおかしければ、全ての鬼が焦点の合わない目をしているのがおかしい。
「参ノ型、弥生」
とりあえず今私がすることは原因究明では無く鬼を倒す事だ。
気になる点はいくつもあるけど、図体だけの鬼ならなんてことは無い。
太い足を斬り払い態勢の崩れた所で頸を跳ねる。
「さ、流石永恋さん!」
「気を抜かないで!目の前の鬼に集中しなさい!」
「はい!」
振り向きついでに隊士が苦戦していた鬼の足を斬り、援護する。
最近は義勇さんとの任務が多かったから援護する側の実地訓練になっていいとは思うけど、もうこんな事は勘弁願いたい。
空を飛んでいるかー君へ目配せすると、私の意図を読んでくれたのか鬼の追撃を確認しに行ってくれた。
私が倒したので一体、村田さんも一体倒してくれていたから残り八体。
恐らく二組が当たっている鬼もすぐ倒せるだろう、
後は目視で確認できる六体の鬼。
「ここは一気に叩きます。鬼を撃破したら一度私の後ろへ!」
「了解しました!」
狂ったように私達へ手を伸ばす鬼を薙ぎ払い、隊士達の完了という合図で一度鞘に収め集中する。
私がもう抵抗しないと思ったのか一斉に鬼が襲い掛かってくるのを見ながら出来る限りぎりぎりまでおびき寄せた。
「全集中、月の呼吸 拾壱ノ型 霜月」
6体の鬼へ向かい斬撃を飛ばす。
この型はとても体力を使うから出来る限り使いたくはないけれど、今回ばかりは仕方がない。
斬った所から霜が張り、凍っていく鬼が次々と砕け消えていく。
最後の1体が砕け散るのを見守って日輪刀を納めた。
「ふーっ…」
「す、凄い…」
「綺麗です!」
口々に私を賞賛する声が聞こえて、何だか照れくさくなって困った様に笑うしかなかった。
とりあえずは誰も重度の怪我をしていないようだ。
後はかー君からの情報を貰うだけ。
そう思った時、私の横を黒い何かが横切った。
何かと振り返れば血塗れになったかー君の姿で、背後から背筋の凍るような声が聞こえる。
「まずい!皆、下がって!」
「え…?」
「見ィつけた」
「急いで耳を塞ぎなさい!」
近場に居た村田さんの頭を脇に抱えて耳を塞がせ、呆けた顔でこっちを見る隊士に叫んだ。
反応したのが3人、残りの一人は耳から血を吹き出し倒れる。
振り向いて鬼の目を見れば下弦の捌と書いてあった。
きっとこの鬼の血鬼術で先程の鬼たちはここに集められたのだと理解すると同時に、見つけたとはどういう事なのだろうと思う。
私を見て言っていたのだから、標的は私なのだろうけど。
「村田さん、お願いがあります」
「な、何だ?」
「倒れた隊士を抱え、残りの人たちも連れて逃げて下さい。アレの声自体が恐らく血鬼術です」
私より背の高い村田さんを抱えながら小さな声で指示を出す。
驚いた顔で私を見ているけど、この様子では他の人達を庇いながら戦える相手ではない。
下弦の伍だとしても、聴覚に異常をきたす血鬼術はとても厄介だ。
耳は脳にも繋がっている。
下手をすれば死んでしまう可能性がある以上、この場にいる私以外の隊士を下げなくてはいけない。
「何を言って…」
「では言葉を変えましょう。救援を、柱達を呼んできてください。私一人では手に負えない可能性があります。だから、お願い」
「…分かった。必ず生きて待ってろよ!あんたを失えば冨岡が今度こそ狂ってしまうかもしれないから」
「え?」
「すぐ戻ってくる!」
村田さんは今義勇さんを呼び捨てにした。
もしかして知り合いだったのだろうか。何も知らない隊士が義勇さんを呼び捨てにする訳がない。
走り出した村田さんが隊士を背負って撤退していくのを横目で見ながら、兎に角意識を目の前の鬼に集中させる。
「お前が月の呼吸とやらを使う女だね」
「それが何だと言うの」
「嗚呼忌々しい。あのお方と同じ剣技を使うなんて…」
「あのお方?」
「口惜しや…口惜シヤ…お前など脳味噌をぐちゃぐちゃにしてやる!!!」
「ぐっ…」
翼の生えた女型の鬼は私を怨むように睨み大声で叫んだ。
なんの事か全く分からないけど、標的は私ただ一人のようで村田さんたちを追う気配も無い。
大きな絶叫に、両手で耳を塞いだのにも関わらず鼓膜が痛い。
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