5
着いた。
着いてしまった。
冨岡様の家に。
とりあえず戸を優しく叩いてみる。
「冨岡様、月陽と申します。お館様からの指示ににて参りました」
そしてとりあえず名乗ってみる。
そう言えば名前なんてこの前名乗っただろうか。と言うか名乗った所で覚えていらっしゃるのだろうか。
返事が無い時間が経ち、不安が徐々に大きくなってくる。
「これ拒否されてる…?」
「何か用か」
「いえ、冨岡様に用事がありまして…」
「何の用だ」
「あ、それは冨岡様御本人に」
「俺が冨岡だが」
戸に頭を預け項垂れていたら背後から話し掛けられた。
あれ、この人気配無かったな。とか思いながら質問される事に答えているとその人は私が今訪ねていた人だと言った。
まるで壊れた玩具のように振り向く私に、この前とお変わりない姿の冨岡様が無表情でこっちを見ている。
「あひぃ!申し訳ありません!!」
「……」
「そ、その!お館様から指令を頂き冨岡様のお屋敷に参じた次第でございます!」
頭を深く下げ、非礼を詫たが何とも格好の悪い感じが拭いきれない。
お、終わった…なんの返事も頂いていないがこんな鈍くさい隊士を連れ歩きたくもないだろう。
私だったら丁寧にお断りするかもしれない。
「…入れ」
「そうですよね!すみません、帰ります!え!?」
「二度は言わん」
「も、申し訳ありません!お邪魔します!」
表情の変わらぬまま屋敷へ入っていく姿を見届けて一先ず帰ろうと思ったが、耳に入った許可の言葉に思わず飛び退いた。
少し面倒くさそうなお顔をされていたがご挨拶をして、敷居をまたがせて頂く。
いや、まさか許可が出ると思わなかったんだ。ほんとに。
Next.
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