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「何を気色の悪い笑みを浮かべている月陽」

「いえいえ、早く蜜璃さんと会いたいのだろうなと思いまして」

「…お前にも毒味の土産をやろうと思っていたが辞めよう。よし辞めよう」

「ごめんなさい!何ですかそれ早く言ってくださいよ!食べる、食べさせて下さい!」


懐からチラリと見えたどら焼きに思わず伊黒様の腕を掴んだ。
待って私どら焼きとっても好きなんです!


「…落ち着け、分かった。やるから、っ」

「あぶっ」

「この馬鹿が!この至近距離で飛びついてくる奴があるか!」


伊黒様の案外細くてがっちりした腕を揺さぶっていたら頭に拳骨をくらった。
少しだけ顔を赤くして怒ってる伊黒様は珍しいけど、拳骨はきちんと手加減されていた事が有り難い。


「全く、いいかその小さい脳味噌によく叩き込んでおけ。お前は甘露寺に渡す前の味見係だ、今後一切俺に飛びついてくるような事があれば味見係はクビだ」

「まだ1回しかしてないのにですか!?」

「学習したのならもう二度としない事だな。分かったか」

「了解です!」


ぷんぷんと怒りながら私にどら焼きを押し付けるように渡してくれた伊黒様へ敬礼する。
いただきますと両手を合わせて包を開け一口入れるとふんわりと広がる甘さに、さっき山を越えてきた事もこれから何体もの鬼を相手にしなきゃいけない事も忘れて幸せな気分になった。

中にはぎっちりと餡が詰められている。
味わう様によく噛んでいると目の前の伊黒様が笑った気がした。


「どうだ」

「すごく美味しいです!生地はふわっとして、中の餡はじんわり程よい甘さがゆっくり広がってくる…蜜璃さんが喜ぶ事間違いなしです!」

「ならば良い。余り長居しては冨岡に出会す。俺は自分の部屋へ帰るが、さっき言ったことは冨岡にも共有しておけ。どら焼きを食べたからと忘れるなよ」

「ふぉーふぁいひあひは!」

「……ふ、お前の型を直接見るのは初めてだ。どんなものか俺にも見せてみろ。失望させるなよ」

「ふぁい!」


小さく笑った伊黒様に元気よく返事をすると満足のいく反応だったのかそのまま部屋を出て行った。
入れ違いくらいにほかほかした義勇さんが部屋へ帰ってくる。

因みに義勇さんの意向で私たち二人で一つの部屋だ。


「…今、伊黒が居たか?」

「はい。今回の任務の事で伊黒様から伝言がありまして」

「なんだ」

「ここに50近い数の鬼が多方面からこちらに向かってるそうです。そこで義勇さん、伊黒様と私の三人を基本に癸の隊士達を指揮して事に当たれとの事です。隠は既に伊黒様が応援を呼び、町民の方々の避難は任せていいと仰っていました」

「50…」

「どういう事か今は調査中だそうです」


まるで戦ですね、と言えば無言で頷かれた。
これはもう風呂とか入ってる場合ではなさそうだけど、私も指揮する立場として泥だらけと言う訳にもいかない。


「身なりを整えて来ますね」

「…あぁ」


きっと義勇さんも今頭の中で作戦を立てているのだろう。
私も隊士達を無駄死にさせないよう上手くやらなきゃいけない。今回は単体での討伐では無い。

泥の落ちた羽織を持って部屋を出た。



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