2


「コッチダ」


義勇さんとかー君の案内に従い半日。
休憩を挟んだりしたけど、とても長い道のりだった。
ここからもう一つ山を超える予定らしく着くのは明日の朝になりそう。


「かー君、もしかして今日は野宿だったりする?」

「サッサト歩ケ」

「この冷たい感じ凄い懐かしいね」


義勇さんは黙々と歩いているけど、私の事を気に掛けてたまに後ろを振り返ってくれる。
かー君の返事的に野宿か夜通し歩くかの2択になりそう。


「月陽、少し走れるか」

「えっ、はい!」

「なら山を越えた町で少し休息を取る」

「分かりました。かー君、最短距離頼むよ」

「了解シタ」


山で夜を過ごすくらいなら少しばかり体力を削ってでも町で休みたい。
山は虫が出るからそこで野宿するより断然マシだ。前は山小屋の状態が良かったから助かったものの、大体どこの山小屋は廃れていて汚い。

山に入り、木の枝へ飛び移った義勇さんに続いて枝と枝を走り抜ける。
私は水の呼吸を取得している訳ではないから義勇さんの様に流れるようには進めないけど何とかついていくくらいは出来た。

多分、同じ場所を選んで飛ぶ私の事を考えて少しでも安定した枝を足場にしてくれている気がする。
着地に失敗しそうになっても強めにしなる程度で、折れたりしないのはそのお陰だと思う。

山の中腹まで来れば私も慣れてきたから重心の置き方や体の使い方も分かって最初よりは楽になった。

それに気付いたのか義勇さんが速度を上げる。
私に合わせなければきっとあっと言う間に下山していたんだろうと思うけど、今は移動に集中しなくちゃ。

かー君も予想外の速さなのかいつもより翼を羽ばたく回数が多い。

やはり私に柱はまだまだだな、と下山した時に思った。


「よくついて来た」

「義勇さんやっぱり流石ですね…」

「その内慣れる」


少し呼吸の乱れる私に、いつも通りの義勇さん。
もっと上手く呼吸を使えれば義勇さんのようになるのだろうか。

悔しいけど頭を撫でてくれた義勇さんの手が優しいものだからまた今度近くの山で鍛錬してみようと思う。


「ここを少し行けば町だったな」

「ソウダ」

「そこへ着いたら藤の家で風呂を借りるといい」

「はい」


頬に汚れがついていたのか親指で拭ってくれると再び背中を向けて町の方向へ歩き出す。
山を駆けて来たから私の足元も義勇さんの足元も汚れている。
藤の家に入る前に土を落とさなきゃなと思いつつ義勇さんの後を追った。

お風呂を借りたらまた出発しなきゃいけない。
折角綺麗にしたのに汚れてしまうのは慣れたけど、やっぱり少々勿体無いなと思ってしまう。

藤の家にお邪魔して、休憩を取りながら先にお風呂に入った義勇さんが出てくるのを待つ。
出して頂いたお茶を飲み、羽織についた汚れを濡れた布で軽く拭って時間を過ごす。


「月陽、入るぞ」

「え!?伊黒様?」


一言声を掛けて襖を開けた先に伊黒様の姿。
何故ここにと思ったけど伊黒様も任務があってここに居たのだすぐに思い直して、崩していた足を直して姿勢を正す。


「楽にしていい。冨岡は」

「えと、お風呂です」

「そうか。では少しお前に話がある」

「話しですか?」


邪魔するぞと部屋へ身体を部屋に入れ私の目の前に座った伊黒様は大きく綺麗な瞳を瞬かせる。
何の話だろうと汚れを拭き取っていた布をそばに置き私も見つめ返した。


「不本意だが俺もお前たちの任務に同行することになった。全くもって心底不本意だがな」

「柱が二人も?下弦の鬼ではないのですか?」

「先程俺に入った情報だと、大量の鬼がこの町へ押し寄せてきてるという。下弦の鬼だけならばお前くらいの者が一人で充分だろうが、多方面から50を越える軍勢とならば流石にお前と冨岡では不利だろう」

「な、何でそんな量の鬼が…」


伊黒様の口から聞かされた事実に思わず顔が引きつる。
何だその軍勢は。これから戦でも始める気なのかという規模だぞ。
そんな私の表情を見ていたのか、立てた膝に肘を付いて重い溜め息をついた伊黒様に頭を軽く叩かれた。


「討伐対象であったその下弦の鬼が何かしたからだろうな。小癪な下弦如きが雑魚をおびき寄せ何を企んで居るのかは知らんが非常に不愉快極まりない。特に冨岡が一緒というのが気に食わん」

「そこは伊黒様我慢して下さいよ。しかし集まる鬼の範囲が広過ぎて一体一体に異能の能力を使っている訳でもなさそうですね…この町に何かあるのでしょうか」

「それはこれから調査する予定だ。町民を避難させる為に隠も追加で何人かこちらへ呼び寄せている」

「流石は伊黒様!」

「喧しい、騒ぐな。俺は当たり前の事を、当たり前にしただけだ。折角さっさと帰り土産を買って帰ろうと思っていたのにこれでは買い物どころでは無い」


忌々しそうに悪態をつく伊黒様の脳内にはきっと蜜璃さんが居るんだろうなと思って思わず笑みが溢れた。



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