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お風呂に入った後、そわそわしながら義勇さんの帰りを待つ。
こんな風に義勇さんを待った事がないから、何をしてても落ち着かない。

居間を無駄に掃除したり、義勇さんが洗ってくれていた食器を棚に戻したりするけど結局駄目だった。


ふと人の気配がして顔を上げる。
義勇さんだと思って玄関へ駆け出すと、丁度扉を開けたところだった。


「義勇さん、おかえりなさい!」

「あぁ」


こんなにも当たり前のやり取りが、好きと言う感情を自覚しただけで嬉しいなんて思わなかった。

草鞋を脱いだ義勇さんが私に寄ってきて優しく抱きしめてくれる。


「ぎ、義勇さ…」

「どうした」

「どきどきして、死にそうです」


いつもいい香りのする義勇さんが私の心臓を早める。
途端に近くなった距離に若干照れくさくもある私が義勇さんの顔を見上げると、困った様に笑う義勇さんが居た。


「俺もだ」

「うぅ…と、とりあえず部屋へ行きましょう?着替えないと」

「そうだな」


名残惜しい気もしたけど、お互いに離れて私は居間へ行き義勇さんは着替えに自分の部屋へ分かれた。

とりあえずお茶をいれて、いつもの場所に用意しておいた夜食を置く。
おにぎりとお漬物だけど。

色々準備していたら、着替えを済ませた義勇さんが居間へ入ってきた。


「…用意してくれていたのか」

「小腹が空いているかなと思って」


肯定するように頷いた義勇さんはてちてちと自分の位置に座ったので、私も向かい合ったいつもの場所へ腰を下ろす。

話そうとは言ったものの、何を話したらいいか正直分からない。
とりあえず食事されるようだし、頬を膨らませておにぎりを食べる義勇さんを眺めた。


「美味かった」

「いえ、簡単なものですみません」

「そんな事はない」


両手を合わせてご馳走様をしたのを見て食器を貰って片付ける。
一皿だけだし、ついでに洗ってしまおうと洗剤を手に取った瞬間後ろから温かい体温が私の体を包み込んだ。

誰かは分かっている。
分かってはいるけど不意打ちはやめて頂きたい。
食器を割ってしまうところだった。


「ちょ、義勇さん…」

「月陽に嫌われたかと思った」

「えっ!?あ…ごめんなさい」

「もう気にしてない」


そう言う割には私を抱き締める腕は強まるばかりで、少し息苦しくなり身動ぎしながら蛇口から出る水を止めた。
食器を洗うのは後でいい。
今はきちんと義勇さんと向き合わなくちゃいけない時だ。

胸の辺りで交差する義勇さんの腕を抱きしめ返しながら、出掛ける前で伝えられなかった言葉を言おうと決意する。


「最初は、どうしたらいいか分かりませんでした。でも、今日の帰り道に思ったんです。今まで私にしてくれた色々な事、何より義勇さんの気持ちがとても嬉しいって」

「…そうか」

「今まで気付かなかったけど、義勇さんが私に笑い掛けてくれると心臓がぎゅってなるんです。義勇さんが手を繋いでくれると、側に居てくれると凄く…落ち着くんです」


話し出したら意外にもたくさんの言葉が溢れた。
考えてなかった事さえ口に出ていた。

私も気付いていなかっただけで、前から義勇さんの事を好きだったんだ。


「月陽」

「あっ、ご…ごめんなさい。何か止まらなくて」


名前を呼ばれ、向き合うように身体を反転させられた私は義勇さんの顔が見れなくて両手で自分の顔を覆い視界を遮った。
私の腰に回っていた義勇さんの腕が離れ、次は手首を掴まれる。


「顔が見たい」

「や、やだっ!今凄く恥ずかしい顔してるので!」

「なら俺もそうだ。お前を大切にしたいと、少しずつ距離を縮めていけばいいと思っていたのに、月陽を前にすると我慢が出来なかった。他の男と仲良くされると苛立ってしまうし、勝負事に勝っただけなのに添い寝をしてくれと頼んでしまった」


俺のが余程恥ずかしい男だ、と言った義勇さんに顔を覆っていた手を思わず退けてしまっていた。
開けた視界には照れを隠すように片手で口を隠しながら視線を反らした義勇さんが、少しだけ頬を染めている。

蜜璃さんではないけれど、キュンと心がなった気がした。



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