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「それじゃあまたね、無一郎」

「月陽は帰るの?」

「うん、帰るよ」

「そっか。じゃあ今度僕の部屋にお泊まり来てよ」

「お泊り?いいよー」


無一郎を屋敷まで送り届けたら、私の袖を掴まれて引き止められた。
言葉を聞く限り寂しがってくれているのかと思うと顔が緩んだ。


「約束ね」

「うん!それじゃあまたね。無理し過ぎちゃ駄目だよ」

「うん」


名残り惜しいけれどおやすみ、と言って無一郎と別れて義勇さんの屋敷へ帰る。

帰ったらきちんと話したい。
でも、私は何を話せばいいのだろう。

俯きそうになった時、首の後ろでしゃらんと優しい音がなる。

好きだと言われてから、今までの義勇さんの意味不明な行動が何となく理解出来た。
伊黒様に首筋を見られた時や遊郭での潜入、いつも私を心配してくれてくれてた。
蒼乃さんの時も病み上がりなのに迎えに来てくれて、この前の勝負の時とかも。

いつからかは分からないけど、それらが私を想ってくれて行動してくれていたのだと思うとどうしようもなく照れ臭いし、嬉しい。


「…嬉しい、んだ。私、義勇さんに想って貰える事が」


その呟きに返事をしてくれるかのように簪がもう一度鳴った。
そう思ったら、義勇さんに会いたくなってきた。
ぎくしゃくしてしまった事を怒っていないだろうか、愛想は尽かされていないだろうか。


会いたい。
会ってきちんと話したい。


「義勇さん」


ねぇ、私も貴方が大好きです。
もっと貴方と共に居たい。

無一郎の住んでいる屋敷からは少し遠いけど、そんな事気にならなかった。
息が上がって呼吸が乱れそうになるのだってどうだっていい。


勢い良く義勇さんの屋敷の戸を開くと、これから見回りなのか隊服に身を包み右手を中途半端に上げた状態で目の前に立っていた。
息を荒くしている私に驚いた顔をしている義勇さんに関係ないと抱き着く。

良かった、ぎりぎり会えた。

無言で抱きついた私に固まる義勇さんに、首筋へ回していた腕を強めて更に密着する。
全力で帰ってきたから汗もかいたし、服も綺麗じゃないけどそんな事気にしてられなかった。


「……どうした」

「義勇さん、私も好きです」

「…!」

「恋愛ってした事がなかったから自分の気持ちが分からなくて、ぎくしゃくしてしまってごめんなさい」

「それは本当か」


恐る恐る抱きしめ返してくれた義勇さんに黙って頷く。
すると少しだけ体を離され真っ赤になった私の顔を見つめるよう顎を支えられた。


「は、恥ずかしいから見ないで下さい…」

「……とりあえず、見回りに行ってくる。少し休め」

「え、あ…はい」

「帰ってきたら、ゆっくり話そう」


急に任務を優先させられた事に少しだけ不安が募ったけど、目を細めて笑った義勇さんにまた心臓がぎゅってなった。
前髪を避けられ、義勇さんの少しだけカサついた唇が安心させるように触れていってくると一言残して歩き出す。


「義勇さん、行ってらっしゃい!私、起きて待ってます!」

「あぁ」


まだ頬の熱も冷めないまま遠くなっていく義勇さんの背中に手を振って見送った。
どうしてだろう、いつもの倍顔が良く見えるのはこの恋を自覚してしまったからだろうか。

とりあえず口付けされた額を抑えながら風呂を沸かして体の汚れを落とした。



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