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「ところでしのぶちゃんは?そういう方はいらっしゃらないのかしら」
「私は別に…」
困った様に笑って首を振るしのぶさんはやっぱり美しい。
「しのぶさんは男女共に部下から高嶺の花として憧れの的ですよ!もちろん蜜璃さんもですが、私の周りもお二人に恋心を抱いて散っていく隊士は幾人も見てきましたから」
「そうですか。好意を持って頂けるのはありがたい事ではありますね」
「そうよね!」
「それで?月陽さんは冨岡さんの事をどう思っているんです?」
そして結局流れが私に戻ってきてしまった。
折角話題を反らしたと言うのに、しのぶさんは隙がない。
店員さんが持ってきてくれたお茶を一度啜り義勇さんの事を思い浮かべる。
もうこれはきちんと答えないと何度も聞かれるやつな気がするから。
「…義勇さんは、とてもいい人です。何だかんだと私を見てくれているし、ここ最近すごく優しいし。でも言葉数が少な過ぎて周りの反応というものはもう少し気にして欲しいですね」
「最後の事は私も激しく同意します」
「で、でも冨岡さんはお顔も素敵よね!」
私の言葉にしのぶさんが頷くと、蜜璃さんが補助するように前のめりで迫ってきた。
美しい豊満な蜜璃さんの谷間をちらと見ながら私は頷く。
顔がいいのは元から認めてるので。
「そうですね…本人は自覚されてない様ですけど、そのお陰で私に被害があるのは勘弁願いたいと思います」
「何かあったんですか?」
「やっぱり冨岡さんはモテるのね!」
「えぇ、この前なんか藤の家の若い娘にそれはもう熱烈な好意を向けられていましたよ」
「随分な物好きのお嬢さんがいらっしゃったのですね」
「あはは…」
驚いた様にしのぶさんが手で口元を覆った。
本人不在ながら相変わらずの揶揄いっぷりに苦笑が出てしまった。
どんなことをしたらしのぶさんにここまで言われるようになるんですか義勇さん。
「一目惚れなんて素敵!私もしてみたいわ!ギューンって来るようなぐわわーんってしちゃうような燃える恋!」
「蜜璃さんはもう十分素敵な方が居ると思います、私は」
「うーん、一目惚れですか。私には縁のない話ではありますけど、参考程度にはお聞きしたいですね」
「私もした事がないので」
「えぇっ、二人とも好きな人とかは?」
「「居たこと無いです」」
しのぶさんと声を揃えてしまった。
何故かその後しのぶさんがあぁと言って含み笑いしていたけど何故だろう。
私にそれを問う度胸は無いから流させてもらったのだけど。
「恋の好きが私にはいまいち分からなくて…」
「甘露寺さんは家族や友人ではない好きを自覚された事は?」
「そうね…その人の事を考えると胸がふわふわーって、キュンキュンってしたわ。その人が自分以外の女の子と仲良くしてたらギュッて心臓が絞められたように痛むの」
ちょっと擬音が多すぎて私には少し理解が出来なかったけど、しのぶさんはにこにこと笑ってその話を聞いている。
でもほんの少しだけだけど、なんとなく分かった部分もあった。
「おや、少し収穫はありましたか?」
「えっ?」
「私は冨岡さんでなく、月陽さんがもう少しご自分の気持ちに気付いてあげなくてはいけないと思いますよ」
「私の気持ち、ですか?」
しのぶさんが微笑みながら、手元の甘味を口に入れる。
私の気持ちって何だろう。
「そうね、それは私も思うわ!」
「う、うーん?」
「あんなに分かりづらいと言われる冨岡さんがあそこまでしているのに、いつまでも気付いてもらえないままでは不憫で仕方ありませんから」
「や、やっぱり!やっぱりしのぶちゃんもそう思うのね」
「えぇ。見ていてそれはそれは愉快ですけども」
二人の会話に結局ついて行けなかった私はひたすら甘味を食べながら首を傾げただけだった。
しのぶさんが義勇さんの事を不憫に思うなんて余程の事な気がするけど…
それからはお互いの近況報告やあそこの甘味処が美味しいなど雑談をして解散になった。
「とても楽しかったです。お誘い頂いてありがとうございました!」
「またお話しましょうね!」
「次は何処にするか考えておきましょう」
そう話してそれぞれの帰る方向へ足を向けた。
今日は本当に楽しかったなぁ。そう思いながら歩いていると目の前から見慣れた姿が見えた。
「義勇さん!迎えに来てくれたんですか?」
「あぁ」
「ありがとうございます。これ、義勇さんにお土産です」
「きな粉餅か」
「はい、とても美味しかったので」
手に持っていた紙袋を広げて見せると小さく義勇さんが微笑んでくれた。
しのぶさんや蜜璃さんと話した事を義勇さんにお話しながら二人で帰路につく。
所々死んだ目をした義勇さんの顔を見て、しのぶさん達が話した事が理解出来ているらしかったので訳を聞いたけど結局答えて貰えなかった。
Next.
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