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「……ゆ、ん」

「ん、」

「義勇さん」


また夢を見ているのか、寝間着に着替えた月陽が俺の側に座って髪を梳いてくれている。
その感触が心地良くてまだ起きたくない俺は寝返りを打って柔らかく微笑んでいる月陽を布団へ引き摺り込む。

前に添い寝をしてもらった時以来の暖かい感触だ。


「月陽」

「は、はい…」

「お前が居ないと寂しい」


夢なのだ、多少言葉にしたって構わないだろう。
硬直した身体を抱き寄せ俺はまた深い眠りに落ちた。


「…え、え?!」


現実だとは気付かずに。








「義勇さん、起きてください!義勇さーん」

「…あぁ」

「もう昼餉出来ましたよ」


襖の向こうで月陽の声がして身体をゆっくり起こした。
帰ってきたのかと、寝間着のまま襖を開けると少し顔の赤い月陽が俺を見つめている。

それに首を傾げると俺の羽織を肩に乗せて強い力で背中を押された。


「顔が赤いな」

「もう、誰のせいですか!」

「?」


何が何だか分からない。
いつの間にか帰ってきた月陽が怒るような事はしていないはずだ。
何度も起こしたということだろうか。だとしても顔を赤くする理由はないはず。


「どうして怒る」

「何でもないです!」

「何かしたなら言え」


誤解が生まれてるのなら拗らせたくはない。
折角帰ってきた月陽の笑顔が見たい。
単調的な感情は寝起きだからなのか分からないが、笑ってほしい。


「お前が笑っている所が見たい」

「…あぁー!義勇さん、そういう所ですっ!」

「駄目だったか?」

「駄目じゃないけど、でも…そういう事他の子にも言ってるんですか?」


予想外な返事に思わず目が覚めた。
俺の羽織を握って口を尖らせる月陽を見て、たった1日しか離れていなかったと言うのに愛しさが増して自分ではどうしょうもなくなる。

逆に言いたい。
お前はどうしてそんなに可愛いんだ。


「俺にはそんな相手居ない」

「…そう、ですか。じゃあ義勇さん、私が居なくて寂しかったですか?」

「……」


俺と月陽の間に変な沈黙が流れる。
これは本音を言っていいのだろうか。何が正解だか分からない。


「私は少し寂しかったです」

「!」

「義勇さん、私居ないと自分の事ずぼらですし。心配です」


困った様に笑った月陽に、望んでいた笑みでは無かったがその気持ちに嬉しくなった。
褒められては居ないのかもしれないが、俺が居ない事で少なくとも月陽に寂しいと思われている事実がどうしようもなく嬉しい気持ちにしてくれる。


「…俺も月陽が居ないと寂しい」


内心舞い上がっている俺の今出来る最大限の返事だ。
そうすると安心するように求めていた笑顔を見せてくれる。


「い、伊黒さん!とってもいい雰囲気だわ!」

「……甘露寺、俺を殴ってくれないか」

「えっ!?どうして?」

「はぁっ!!そ、そうです!今甘露寺様と伊黒様が遊びに来て下さっていて…すみません!」

「…何故お前たちが居る」


居間に誰かの気配があるのは知っていたが折角の雰囲気を台無しにされた俺は伊黒を睨んだ。
甘露寺は月陽と仲良くしたいと言っていたから分かるが伊黒まで顔を出す必要はない。


「ちっ、だから来たくなかったのだ。俺は甘露寺の付き添いで来ただけであってお前の顔を見たかった訳でもなければ家に上がるつもりもなかったんだ。そこの物忘れの激しい女が上がれと言うから…」

「わ、私が突然押し付けちゃったの!前に頂いた手紙読んだら月陽ちゃんに会いに行きたくなってしまって…ごめんなさいね、冨岡さん」

「謝る必要はない」

「そ、そうです!私が勝手に上がって行って欲しいとお願いしちゃったので…」

「いい」


申し訳なさそうに謝る甘露寺と月陽に首を振って謝らなくていいと伝える。
伊黒の言っている事も本当だと言うことは分かっている。
ただ、少しでいいから月陽を独占したい欲が出ただけでそこまで怒ってはいない。


「甘露寺も伊黒も月陽に会いに来てくれたのにすまないな」

「えっ!?」

「?!」

「義勇さん…」


大人気なかったと思ったから謝ったんだがどうして伊黒はそんな宇宙人にでも出会した顔をする。
俺だって悪いと思えば謝るし、二人が遊びに来てくれて嬉しかった月陽の気持ちは汲んでやりたい。それだけだ。





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