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部屋についた私は無一郎の事について軽く冨岡さんに説明した。
討伐した帰りにあまね様に会ったこと、お供を願い出て無一郎たちを発見したこと。
それら全て冨岡さんは無言で頷いて聞いてくれた。
「…記憶は失ったが月陽の事は憶えていたのか」
「そのようです」
「それで、時透の兄弟は」
「隠に頼んできちんと火葬して埋めてもらいました」
「それならいい」
それから冨岡さんの任務についての話を聞きながら私は眠ってしまった。
冨岡さんの側はとても落ち着く。
朝目覚めてお互い寄り添って寝ていた事もあり、少々気恥ずかしくあるものの起こさずにそっとしておいてくれた冨岡さんの髪を撫でた。
敷いてあった布団から掛布団だけを冨岡さんに掛けて部屋を静かに出る。
無一郎は起きたかな。
そう思って無一郎の寝ていた部屋の前まで来ると騒ぐ声が聞こえた。
「無一郎!?」
「あぁ、永恋さん!いい所に!」
「月陽」
「わっ」
慌てて部屋の襖を開けるとお館様にお仕えの人達が動こうとする無一郎を必死に止める光景が目の前に広がった。
名前を呼ぶと幼子のように私へ飛び付いてくる。
可愛い。
いや、違う違う!
「無一郎、怪我は?駄目だよ、周りの人に迷惑掛けたら」
「俺こんな人達知らないもん」
「昨日も無一郎を面倒みててくれた人だよ」
「憶えてない」
私にしがみついたまま不機嫌そうに顔を背ける無一郎の頭を撫でながら、肩で息をする給仕の方々にすみませんと謝った。
「時透殿が目が覚めたらお館様がお話をしたいと申していたので、宜しければ永恋殿もご一緒に…」
「分かりました」
「嫌だよ、俺は稽古をしたいんだ」
「…無一郎、君はお館様とあまね様に会わなきゃいけない。今ここに居られるのはお館様たちのお陰なの。きちんとお礼はしなきゃ駄目だよ」
「でも、」
「大丈夫、とても優しい人たちだから。私も一緒に行くよ」
「…分かった」
たまに無一郎は気性が少し荒くなることがある。
ぼんやりした様子の時とは別人の様。あんな事が起きた後だし精神的に不安定になってしまうのはきっと仕方が無い事だと思って、手を引きながらお館様に面会するための部屋へ向かった。
冨岡さんには申し訳無いけどもう少し待ってもらおう。
「お館様、失礼致します。時透無一郎、永恋月陽入ります」
「おや、月陽も来てくれたのか」
「少々ありまして…さぁ無一郎、ご挨拶しようか」
「時透、無一郎…です」
「よく来たね、無一郎。大変だっただろう」
お館様の雰囲気に無一郎も落ち着いたのか、きちんと会話をする事が出来今後の事を話し合った。
無一郎は今後お館様の元で面倒を見てもらい本人の強い希望もあり鬼殺隊に入隊する方針になって面会を終える。
途中から同席してくださったあまね様にも無一郎はきちんとお礼を言う事ができた。
「ねぇねぇ月陽はここに居られないの?」
「うん、私もやらなきゃいけない事があるから」
「……へぇ」
「大丈夫だよ、また会いに来るから」
口を尖らせて抱き着いてくる無一郎の頭を撫でながら笑みが漏れる。
そろそろ私も冨岡さんの元に帰らなきゃいけない。
無一郎を一人にしてしまうのは忍びないけどお館様たちが居るからきっと大丈夫。
「男の所に帰るんでしょ」
「ん?まぁ、合ってはいるけど…冨岡さんはね、水柱だからとっても強いんだよ」
「月陽は?」
「うーん、私は柱候補なだけだから柱の方々よりは弱いかな」
「…なら俺が柱ってやつになればその人と同等になれるんだね」
「そうだね。きっと無一郎ならなれるよ」
「分かった」
無一郎を部屋まで送って給仕の方々の言う事をきちんと聞くよう約束事を書いた紙を渡して、私は冨岡さんが待っているだろう部屋へ戻った。
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