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「わっ!」

下敷きになると思った私は冨岡さんが庇ってくれたおかげで少しの衝撃が腰に響いただけで終わった。

お礼を言おうと上半身を起こしながら冨岡さんを見上げると勢い良く顔をそらされてそのままの勢いで木へ頭をぶつけた。


「いやいやいや何してるんですか!?」

「気にするな」

「気にしますけどね!?」


そのまま気に両手を着いて前屈みにしゃがんでいく冨岡さんに近寄り背中を撫でる。

前にもこんな光景見たことあるななんて感じながら顔を覗き込むとおでこを真っ赤にした冨岡さんが無表情で視線だけ私に寄こした。
心なしか目が潤んでいるような気がしたけど、赤くなっているおでこに私の腹筋が先に屈してしまった。


「ぶっ!!!」

「………」

「ご、ごめんなさい!ついおでこが赤いから…っふふふ可愛くってぶふっ」

「お前は、本当に…」

「え?何か言いました?」


笑い過ぎて出てきた涙を拭いていると不機嫌そうな冨岡さんに、慌てて姿勢を正す。
でも不機嫌そうなのに赤くなった額が可愛くてどうも真面目な雰囲気が作れない。


「……帰るぞ」

「は、はい!」


襲われていた人は逃げていったのか、姿はなかった。
そこに居座られるよりは逃げてもらうほうがこちらとしてもやりやすいのでその人はいい判断をしてくれたと思う。
立ち上がった冨岡さんにつられるように私も歩き出す。


「そうだ、義勇さん。さっきは助けてくれてありがとうございます」

「あまり無茶をしてくれるな」

「はい!でもやっぱり相変わらず水の呼吸はかっこいいですね。流れるように鬼を斬る義勇さんにいつも見とれちゃう」


甘露寺様で表すと、あの姿はきっとキュン!てするやつだと思う。
これを言ったら怒られてしまいそうだけど、つい見惚れてしまう程美しいんだから仕方ない。


「俺も美しいと思う」

「ですよね!義勇さんにとてもお似合いです!」

「月陽の事だ」

「…へ?」

「呼吸もそうだが、何よりお前の真っ直ぐな言葉が美しい」


最後の方はどんどん小さくなって聞き取りにくかったけど、私の耳はきちんと拾えた。
それが嬉しくて嬉しくて、どうしようって気持ちになる。
冨岡さんが褒めてくれた事がとても嬉しい。


「義勇さんも真っ直ぐじゃないですか。でも、褒めてもらえてすごく嬉しいです」

「…そうか」


母さん、父さん。
珠世さん。
私は少しずつ成長してるみたいです。

これからも頑張ろう、そう誓って前を歩く冨岡さんの裾を掴んだ。
どうしたらこの喜びが冨岡さんに伝わるかな。
伝わるといいな。

冨岡さんだって、いつも真っ直ぐな言葉で私を導いてくれてるんですよ。



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