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「探れるか」
「はい、勿論です」
鬼の棲家に二人で踏み込めばそこはすでにもぬけの殻だった。
一応全ての部屋も隙間も見たけど、私達がここに来る事を予見して場所を変えたのかもしれない。
「壱ノ型、睦月」
神経を集中させ鬼を探すと、人影が鬼に襲われてる場面が見えた。
「義勇さんこっちです!人が居る!」
「分かった」
多分あれは一般人だ。
斧らしき物を持っていたからもしかしたらこの辺の木こりかもしれない。
一斉に走り出した私は冨岡さんを案内するように先頭を走る。
もしあの鬼が報告にあった異形ならばあの人は今とても危ない状況だ。
暫く駆け抜けると目の前に食われそうな人が視界に入る。
「…水の呼吸、壱ノ型水面斬り」
大きく跳躍した冨岡さんに任せて私は腰を抜かす人を庇うように目の前へ飛び込んだ。
一人ならこんな事はしないけれど、今の私には冨岡さんが居る。
流れる水の様に横へ日輪刀を振るった冨岡さんが鬼の首を飛ばす。
相変わらず水の呼吸は綺麗だなと思いながら、後ろに座り込んだ男の人へ手を貸そうと振り返った。
しかし少し離れた場所にもう一体の鬼がこちらに手を伸ばし何かの術を使おうとしているのが視界に入り、申し訳ないと思いながらその人を突き飛ばす。
「危ない!」
「月陽!」
刀を身体の前に構え衝撃に備えようとしていた私を冨岡さんが庇うように抱き寄せて斬撃を放ったその瞬間目の前が真っ白な空間に包まれた。
目の前には顔ギリギリまで近付いた冨岡さんのご尊顔。
「…っ、ごめんなさい!」
「怪我はないか」
「勿論、ですけど…」
「鬼の頸は刎ねた。暫くすればこれも消える」
それまで耐えろと言う事なんだろう。
私の脚の間に冨岡さんが居て、狭いのか顔を少しだけど顰めている。
どう考えても凄く恥ずかしい体勢になっていて、何ていうか…その、挿入される前見たいな気分になる。
顔を両手で隠したいけど狭いこの空間では身動き1つ取れないから、目の前で冨岡さんに見られる事になるのだ。
厭らしい女だと思われたらどうしよう。残された抵抗手段は目を閉じる事しかない。
「…うぅ、恥ずかしい」
「……………」
「ぎ、義勇さん?」
「何も考えるな何も言うな何も見るな」
「ちょ!?」
いつもぼんやりした冨岡さんの瞳は僅かに見開かれて呼吸を荒くしている。
見慣れない冨岡さんに思わず身動ぎすると、私の顔の両側に着いていた片方の手が腰を掴む。
「動くな」
「ご、ごめんなさい!」
「っ、は…」
何だかとても苦しそうな冨岡さんの息が耳に掛かって腰がゾクリと震える。
お願い早く血鬼術解けて下さい。私の心臓が持たない。
それに、この体勢アレが来てる私にはとてもきつい!
これが解けて落ちた時に下着が丸見えになったらもう私羞恥心で生きていけないかもしれない。
仮に生きていても冨岡さんの側に居られなくなる。
「んん」
「くっ…」
頸を刎ねた筈なのに空間がまた少し狭くなる。
もしかしたら時間差で縮まるのだろうか。
更に密着する体にくぐもった声が出てしまうけど、仕方ない事だと思う。
冨岡さんの体に胸が圧迫されて少し苦しい。
「っ、は…義勇さ、苦しっ…」
「…………」
「だって…!」
「月陽…」
少しでも圧迫感を無くしたくて足を動かすと、冨岡さんが艷のある声で私の名前を呼びながら腰を押し付けてきた。
どうしたのだろうと顔を見たくても私の首筋に顔を埋める冨岡さんの表情は見えない。
きっと冨岡さんも苦しいのだろう、大丈夫ですかと声を掛けようとした瞬間今まであった空間が一瞬で無くなり二人して地面に落ちた。
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