2
「さて、帰りましょうか!」
「急な指令がある」
「え!」
結局私達は家に帰らずここから少し離れた村に出没中するという鬼を討ちに反対方向へ向かう事になる。
淡々と必要最低限の情報を話してくれる冨岡さんの声を聞きながら歩を進めた。
「箱に人を詰める鬼ですか」
「あぁ」
「うーん、何か嫌な予感」
その鬼は血鬼術を使う異形の鬼で一応丙の隊士が既に数人向かったらしいけど帰ってきたのはたった一人で、その話によると仲間は次々と箱のようなものに囚われそのまま圧縮するように小さく形状を変えたらしい。
随分と酷い血鬼術だと思った。
生きたまま箱へ詰められ圧迫死させるなんて、食べる事を目的とする鬼ではないのだろうか。
「付近の藤の家で休み次第その鬼の棲家へ行く」
「了解です」
今日は一睡もしていないせいか、少し重たい瞼を擦って近場の藤の家へ向かった。
眠そうな私に気付いていてくれたのか、休憩を取らせてくれると言うので有難く辿り着いた藤の家で横になる。
普段ならこんな事はないのだけど、今日は月に一度のアレ日なのだ。
普段胡蝶様から頂いている痛み止めを飲んでいるのに今回なかなか忙しくて貰いに行けなかったから、下腹部の鈍い痛みが今日一日ひたすら続いている。
「かー君、これを胡蝶様に届けてもらえるかな」
「ワカッタ」
「よーろーしーくー」
寝そべったまま失礼ながら痛み止めを所望する要件だけを書いた手紙をかー君に渡して、痛むお腹を庇うように小さく蹲って目を閉じる。
前にこんなもの止めてしまいたいと胡蝶様に言ったら笑顔でお説教されたのを思い出す。
この前冨岡さんと結婚したいかの話をしたけど、確かにあれは本音ではある。
あるけど、正直任務で動いている時や、長期に渡って張り込みしている時にとても邪魔なんだよね。
経血と言うのは海綿を取り替えなければ大惨事になるから。
「とりあえず寝よ…」
次第に降りてくる瞼に逆らわずそのまま目を閉じた。
起きた時には痛みが無くなっている事を祈って。
「月陽、起きろ」
優しく髪の毛を払われて起こされる。
目を開けたら私の側に座った冨岡さんが居た。
寝る前よりは良くなった腹痛にゆっくり身を起こしながら目を擦る。
「すいません、義勇さん。寝過ぎてしまいましたか」
「いや」
「良かった。ちょっと顔を洗ってきますね」
「体調が良くないのか」
まだぼんやりする頭を冷水で覚醒させるために洗面所をお借りしようと立ち上がると冨岡さんに手を掴まれた。
じっと見つめてくる冨岡さんに流石に月一のアレなんでーとは言えない。
大丈夫ですと頭を振れば掴まれた手を離された。
そのまま部屋を出て顔を洗ってきた時にはまた腹痛が酷くなっていたけど、そんな事で休んで入られないと顔を叩いて気合を入れる。
日輪刀を2本差し、義勇さんから貰った簪と首飾りがあるのを確認して靴を履く。
先に玄関で待っていた冨岡さんは私の姿を確認すると先を行くよう歩き出した。
鬼の棲家がある場所へ近づく程に腹痛は増す一方で、全く良くなる気配はない。
冨岡さんにバレないようため息をついた。
こんな時男の人はいいなとつくづく思う。
←→