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それから冨岡さんには火の管理をお願いして、私は他の支度を全て済ませた。
味付けもしたし後は煮込むだけだから私もする事がなくなって、竈の前に小さく蹲る冨岡さんの横で同じ体勢を取り揺らめく火を一緒に見つめる。
「火の番は退屈じゃないですか?もう私もやる事終わったので居間で待っていただいて大丈夫ですよ」
「いや、いい」
「そうですか。では私もお供しますね」
段々のご飯の炊き上がる匂いが台所に充満してとてもいい匂いがする。
何だか子供の頃に戻った気分だ。よく小さい頃、母さんに言われて火の番をしていたのを思い出す。
こうして、膝を抱えて小さく蹲ってパチパチと薪の燃える様子をひたすらに見ていた。
「義勇さん、義勇さん。何だか子供の時に戻った気分になりますね」
「そうか」
「私、よく小さい頃こうして火の番していたんです。母さんが隣で野菜を切る音を聞きながら」
懐かしい、そう言って笑えば冨岡さんも小さく笑ってくれた気がした。
それから少しの間火を眺めていた私は、少し冷えて味が染み込んだ煮物をお皿に移し夕餉の準備を開始する。
何を言わずとも盛り合わせた皿を運んでくれる冨岡さんの後ろ姿を見てると、まるで家族の様だと感じた。
「義勇さんて素敵な旦那さんになりますね」
「!?」
「あ、いやその!変な意味ではなくて!何言ってるんだろう私」
「月陽はいつか結婚したいと思うのか」
驚いた顔する冨岡さんに恥ずかしくなってしまった私は笑って照れ隠しする。
でもそれは冨岡さんのせいで意味をなさなくなってしまう。
結婚、か。
「そ、そうですね。いつかはしたいかもしれません。義勇さんは結婚とかって考えてるんですか?」
結婚と言われても恋人すら出来たことのない私には余り現実的には考えられないけど、冨岡さんと生活をしててこんな風なのかと思うと悪いものじゃないのかなとは感じる事がある。
冨岡さんはどうなんだろう。
「こんな日常なら悪くない」
そう言って手を合わせていただきますの仕草をして無言で食事を始める冨岡さんに少しだけ驚いた。
半ば無理やり始まった私と冨岡さんの生活は、お互いにとってそれなりに大切なものに変わっていたんだと思うと何だかすごく嬉しい気持ちになる。
相変わらず口の周りにご飯粒をつけてしまっている冨岡さんにバレないよう小さく笑った。
「私も、そう思います」
聞こえてるかもしれないし、聞こえてないかもしれない。
だけどきっと伝わってる。
そう思って私も両手を合わせていただきますと挨拶をして箸を持った。
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