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私が返事を書き終わるまで待ってくれていた甘露寺様の烏は手紙を持って飛び立っていった。
伝令とかなかったんだろうかとも思うけど、大概伊黒様が側に居るだろうし大丈夫だろうと勝手に自己解釈しておく。
そのまま別の紙に字を書いたりして冨岡さんと遊んだ。
冨岡さんの字はなんと言うか男らしい字でした。
「見てください、義勇さん!」
「…俺の名前か」
「頑張って丁寧に書きました!」
ドヤ顔で新しい紙に冨岡義勇と書いて見せた。
ふとその文字を見つめる冨岡さんが雰囲気で笑ったような気がしたから顔を見ようとしたら、既に彼の視線は新しい紙に移っていて少し残念な気持ちになる。
「…出来た」
「私の名前!」
書きにくかったのか、何なのか分からないけど所々墨が滲んだ私の名前を書いた紙を今度は冨岡さんが見せてくれた。
誰かに名前を書いてもらうというのもなかなか良いものかもしれないと、渡された紙を見つめる。
「ふふ、何かいいですね」
皺にならないようにその紙を抱き締めて笑うと冨岡さんも小さく頷いてくれた。
ここ最近は小物の鬼しか出没していない為、比較的平和な日を過ごしている。
勿論お互い鍛錬は忘れずしんどいものをこなしてはいるけど、休む時はしっかり休んでいるのでなんてことは無い。
冨岡さんもたまに私がやり始めた事を一緒にやってくれるし、ご飯の手伝いもしてくれる。
夫婦ってこんな感じなのだろうかとふと思って冨岡さんを見ると私を見つめる瞳と目があった。
「…?」
ただ無言で見つめられた私は考えていた事も相まって少し照れてしまいながら首を傾げると、勢い良く顔をそらされる。
な、何事…
「……(可愛い)」
「あの、義勇さん?」
「厠へ行く」
「えっ?あ、はい!お気を付けて…?」
静かに立ち上がった冨岡さんは私が名前を書いた紙を持ってそのまま居間から居なくなってしまった。
取り残された私はただただ首を傾げるしかなくて、ふと手元にある自分の名前が書かれた紙が視界に入る。
「…そうだ、これは大切にしまっておこうかな」
その紙を手に取り立ち上がる。
両親がつけてくれた私の大切な名前。
それを冨岡さんが書いてくれたと思うとなぜだかもっと大切に思えてくる。
どうしてそんな気持ちになるのかも分からないまま、いつの間にか私物の増えた部屋の小物入れにしまった。
「さて、夕餉の準備をしますか!」
一つ手を叩いて気持ちを切り替え、隊服から私服に着替える。
割烹着を着て髪の毛を整えながら食事の準備を始めた。
今日は山芋が沢山あるし煮物にしてしまおう。
冨岡さんは意外とご飯をたくさん食べてくれるし、作り甲斐があって食事の準備はとても楽しい。
最近巷で聞いた音楽を口ずさみながらお米を洗って竈に火をつける。
きちんと火がつくまでに山芋の皮を剥いて挽肉を炒めた。
味噌汁は茄子とわかめでいいだろうか。
住まわせてもらう代わりにと家事を請け負ったが、比較的私は家事が好きな方だから苦に感じない。
珠世さんのお屋敷で料理は教えてもらったからそれなりにも作れる。
作れるけど、記憶にある母さんや珠世さんのご飯はとても美味しくて今の私では到底及ばないなと思う。
「楽しそうだな」
「義勇さん。ええ、楽しいですよ」
「…手伝う」
「いいんですか?」
いつの間にか私の後ろに立っていた冨岡さんに驚く事なく受け入れるなんて月日を感じるなと思った。
こうして冨岡さんはたまに家事の手伝いをしてくれる。
「何をすればいい」
「…その前に近くないですか?」
「別に」
後ろに立った冨岡さんは私の体を包み込むように手元をのぞき込んできて、流石に突っ込ませてもらった。
この人の距離感てどうなってるんだろうかと度々思う。
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