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朝目を覚したら月陽の合わせ目がズレていていつかの朝を思い出した。
今回は驚きつつも起こさないように合わせ目を直し、俺に寄り添う寝顔を見つめる。

普段からそれなりに近い距離には居るが、こうしてまじまじと顔を見つめる事はない。
同じ体制で寝ていたせいか、少し腰を伸ばそうと
月陽の方を向いていた体を仰向けにする。

体の距離が開いた月陽は下がっていた眉を寄せ開いた分の距離を詰めてくる。
そう言えば月陽は一人で寝るといつも早起きをして飯の支度をしてくれていた。

しかし今起きる様子は全く無い。
寝心地がいいのは嬉しいがここまで無防備だと少し心配になる。

いつか月陽と恋仲になる事が出来たのなら、この寝顔を独占できるんだろうか。
そうなれたらいいと思いながら、小さい身体を抱き締める。

細い首筋、腰、あっという間に折れてしまいそうな体格。
抱き締める全てが鬼殺隊と言うにはか弱い身体だと思う。
胡蝶ほど背丈は小さくはないが、やはり女の身体というものは柔く脆い。

細い腰を撫でれば小さく声を出した月陽にクるものがある。
少し半開きの唇に自分のを合わせたらどういう反応をするのだろうかとぼんやり考えた。

俺を拒絶するだろうか。
もう二度とあの笑顔を見せてくれなくなるんだろうか。

そう思うと這っていた手を止めて、その代わりにと額へ唇を落とした。
これで我慢する。額に触れた感触が擽ったかったのか小さく笑った月陽につられて頬が緩むのを感じる。


「俺の気持ちはまだ気付かなくていい。だから今は側に居てくれ」


柱になったら月陽は俺の元から居なくなるんだろう。
だが俺の為にもと柱になるべく頑張る月陽を止める術など持たない。


「…ん、」

「起きたか」

「ぎゆう、さん」


薄く目が開き目があった月陽は俺の名前を呼んで更に寄り添い動きを止めた。


「ぅあああ!ごめんなさい!」

「…煩い」

「っあー」


みるみる目を開いた月陽が体を離す事に少しの寂しさを覚えながら顔を顰めた。
朝から元気なやつだ。


「ごめんなさい、義勇さん。腕、痺れちゃいましたよね」

「いや」

「後で揉みほぐします!」


体を起こし俺の腕を労りながら顔を赤く染める。


「可愛いな」

「え、何か言いました?」

「いや」


つい溢してしまった言葉は月陽に拾われることは無かった。
それでいい。まだこの距離を楽しんでいたいのもあるが、俺との気持ちが交わらない可能性だって十分にある。
臆病者だと心の中で自分を罵った。


「義勇さん、どうかしましたか?」


ふと月陽が俺の頬に手を当て心配そうにのぞき込んできた。
お前を想うと俺の感情は色んな方向へ転んでしまうんだ。なんて言えるわけもなく、当てられた手を片手で包み込みながら首を横に振る。


「もしかして、私鼾かいてました!?」

「何故そうなる」

「眠れなかったのかと思って…」

「そんな事はない」


全く見当違いな月陽の頭を撫で、布団から身を起こした。
今はこの時間を大切に出来ればそれでいい。
多くは求めない。


「昼は食べに行く」

「あっ、そう言えば準備してませんでした!」

「今日はいい」


そう言って掛けてある隊服を手に取り月陽を見ると着替えてくると慌てて部屋を出ていった。


「楽しい、1日だった」


昨日を振り返り、ここ最近忙しなく過ぎていった日を思い出しながらそう思う。
一人の時はそんな事思う暇なんてなかった。
錆兎たちや鱗滝さんに近々報告が出来るといい、そう思って隊服に腕を通した。


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