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家についてみたら何もかも燃えていた。
「父さん…母さん…?」
買ってきた贈り物を落とした。
耳をすませばまだ父と母の声が聞こえる。まだ、まだ間に合う。
誰がやったんだ、そんな疑問を飲み込んで外に汲んであった水を体に浴びて刀を手にした。
「参之型、弥生!!」
崩れ落ちかけた戸を壊す。
大丈夫、また建て直せばいい。命さえあればいくらでもやり直せる。
弥生は月の光を纏った一閃。
辺りを一瞬光が照らした瞬間父と母と、もう一人の誰かを映し出した。
「月陽!っ、ぐ…う…」
「…つきひ…あぁ、早く…逃げ、て…」
「な、何…あなたはだれ…?」
「おぉ!もう一人、若い童が居たか」
目の前に広がった光景に熱さも忘れ絶句した。
母は手と足が欠損した状態で倒れ、父は人とは言い難い何かに首を掴まれた状態で腹から臓物がずるりと垂れていた。
体が震える。
カタカタ、と刀にその振動が伝わり情けない音を上げている。
誰なんだ、アレは何なんだ。
「はやく…逃げなさい!!はやっ…」
「黙れ女ぁ!!」
「朝陽!!!!」
残っていた腕を伸ばし私に話しかけた母の頭が、ぐしゃりと音を立てて原型を失くした。
父から聞いたこともないような絶叫が耳に届くのに、私は母だったモノから目を逸らせない。
声を出して母を呼びたいのにまるで声帯を失ったかのように掠れた空気しか出せなかった。
「は、っ…あ"っ…」
「女の肝は特に美味い。体だけは残しておいてやる!」
「貴様っ、貴様ァァァァァ!!!!」
「男に興味は無い。さぁ、死ね」
ナニかが腕を振り上げ父の心臓を狙い長い爪を携えた手を見た瞬間、思考が止まった。
震えていた手もいつの間か止まって、景色がゆっくり動く。
ゆっくり、息を吸った。
「月の呼吸 玖ノ型、長月」
一歩強く踏み込み、突きの構えを取ってそのままそれに向かっていた。
体が勝手に動いていた。
白刃の刀身はそれの喉を貫き、その拍子に父は床へ落される。
すぐに側に寄り添い父の開いた腹を素手で抑えた。
血が止まらない、医者を呼ばなきゃ、でもここから医者のいる町は先程行った隣町にしか居ない。
7歳の自分では父を担げない。
技の反動なのか、踏み込んだ方の足が震え痛みを訴えている。
「月陽…」
「父さん、しゃべらないで!血が止まらないの!」
「美しい、技だった」
「そ、そんなのどうでもいい!今は父さんをっ…」
血色の悪い父の腕が私の体を抱き寄せた。
後ろでぐちゅりと嫌な音が聞こえる。しまった、アレが死んだか確認をしていない。
父の腕の中でゆっくり振り返ろうとしたら、もっと強く抱きしめられ振り返る事もできない。
どちゃっ、と粘着質な音が聞こえた後背後の気配は全く動かなくなった。
後に、漆ノ型は鬼の体を溶かし再生をさせない技だと知った。
Next.
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