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私の日輪刀は地面から生えた髪を切り、鬼と隊士達は山小屋の上に移動している。
やはり十二鬼月の力は計り知れない。


「…どうして私を攻撃しないの」

「君をお嫁さんに迎えたいからさ!愛する人は傷付けない主義でね」

「そんな余裕、すぐに打ち払ってあげる!」


余裕綽々と言った鬼に、私は一先ず彼女達を引き離す事を優先させた。
出来る限り殺したくはない。鬼と彼女達の間に着地して日輪刀を返し峰打ちで弾き飛ばす。
申し訳無いがこれくらいはしないと意識を飛ばせないので、強めに力を込めさせてもらった。


「あーぁ、気絶してしまったか」

「彼女達を騙して何になるの」

「…私はね、美しい女性しか食べたくないんだ。女は恋をすると更に美しくなる。だから、食べる前にたくさんたくさん可愛がってあげるんだヨォ!愛の呪縛をお前にやろう!」

「そうだと思った!」


彼女達を引き離した瞬間、困ったように笑った鬼の頭部が割れ、筋肉が露見している火男の顔をした面が露わになる。

どこかで見たような面ではあるけど、十二鬼月となればこちらも他の事を考えている暇ではない。
あそこまで正体を現したとなれば鬼も攻撃を仕掛けてくるはず。
気を付けなければいけないのは髪だと言っていた。


「人の気持ちを弄ぶな」


刀を使う分、遠距離戦は私にとって不利でしかない。
かと言って不用意に近付けば剣山の如き髪に刺されるか、毒に触れてしまう可能性がある。

一定の距離に立ち、日輪刀を納刀しそのまま鬼へ真っ直ぐ突っ込み柄に手をかけた。


「月の呼吸、伍ノ型!皐月!!」


防壁を作るようにして下から生えた髪を切り、そのまま勢いを殺さず次の型へ体勢を変える。
兎に角このまま動きを奪い、頸を跳ねるしかないと気絶していた彼女達を視界に捉えた。
攻撃は私に集中しているし、栄養として吸収はされなさそうだ。


「捌ノ型、葉月!」

「っ!」

「消えなさい!長月!」


手数の多い葉月で腕や髪を斬り落とし、怯んだ敵の喉元へ一突き入れてやる。
ドロリと溶け出した鬼の首を頸をひと振りで跳ね飛ばす。

さらさらと灰のように消え出す鬼が私に向かって手を伸ばして何かを話していた。
上弦の壱?と言っていたような気がして訪ねたけど、間もなく崩れ落ち跡形もなくなった。

その瞬間、足の力が抜け膝から崩れ落ちる。
どういう事だと足元を見ればさっきの鬼の髪が私に絡まり足が紫に変色していた。


「ぐっ…」


どくんどくんと脈を打つように痛みが増殖する。
何とか呼吸を整えて毒の進行を抑えながら辺りを見渡した。
彼女達は未だに失神しているが、今はまだ夜。
鬼が襲撃してくるかもわからない可能性がある以上私が倒れる訳にはいかない。

刀を支えに気を巡らしていると気絶していた隊士の一人が起き上がった。


「…逗子丸さま」


その隊士は逗子丸の着物が落ちているのを見るとわなわなと震え私に鋭い視線を投げた。
嫌な予感がする、そう思った時腰に下げていた日輪刀を抜きゆっくりとこっちへ近寄ってくる。


「もう罪を犯すのはやめなさい」

「どうせ!どうせ私達は切腹させられるんだ!ならば愛しいあの人の仇を取って死んでやる!!」

「…どうして」


刀を上段に構えこちらに向かって走り出した隊士に心が痛む。
峰打ちで再び気絶させてやりたいが、今の私では力の加減が上手くできる自信がない。
痛みの激しくなる足に鞭を打って立ち上がろうとした時、見慣れた半々羽織が目の前に降り立った。


「こいつに手を出す事は許さん」


そう言って姿を表した冨岡さんは隊士を睨みつけながら私の背中を支えてくれる。
柱の登場により、完全に失速してしまった隊士は地面に尻をついてしまっていた。



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