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どういう事だ。絶対に口では上手いことを言って何かあった時には隊士を盾に使うと思っていたのに。
膝立ちの体勢のまま今まで見たことの無い光景に絶句する。


「駄目だよ、僕の可愛い子達を傷付けちゃ」

「逗子丸様!腕が!」

「大丈夫、大丈夫だよ。心配させてごめんね」


まるで本当の恋人のように庇った隊士の頭を撫でている。
いや、きっとこれは演技だ。絶対に後であの子たちを食うに決まっている。


「お前達は騙されています!目を覚ましなさい!」

「騙されてたっていい!」

「なっ、」

「私達を囮にするようなろくでなしの隊に居るくらいならば!」


泣き叫ぶようにそう言った隊士は涙を瞳に溜めて私を睨みつける。
鬼は斬り落とされた手を再生させ、変わらず光悦を浮かべた瞳を私へ向けている。動く気配は全く感じられない。


「どうせ月陽さんも女だからと言う理由で囮にされるわ!」

「だったら逗子丸様に女性として扱い大切にされ死んだ方がマシよ!」

「私達を道具として扱う人間の為に死ぬなんて御免ね」


そう言った隊士達の瞳にはまるで私達が鬼へ向ける憎悪のそれに酷く似ていた。
驚きと同時に隊士達の関係性について僅かばかりだが怒りも込み上げる。

柱では無い私達はひとりひとりの実力がまるで足りていない。
だからこそ下の階級程協力し合う事が鬼を討つ為の必須条件となる。


「その指導が行き届いていなかったのは私達上の責任だ!だからと言って鬼側に着くとはお前たちも裏切った事と変わらない!それを理解しているのか」

「っ、」


大きな声で彼女達を怒鳴り付ければ少し怯んだ様子が伺える。
怒るなんて柄ではないのだけど、自分ばかりを悲観し同じ様な事をしている彼女達をどうしても許せなかった。

裏切られたからと言って鬼に付き従っていい訳じゃない。
鬼殺隊として生き、刀を振るってきた私達はこの隊服を身に纏った時点で鬼殺の誓いを立てているのと同じだ。
罪なき人間を食い殺す鬼を許してはならない。
どんなに自分が辛い思いをして逃げ出したくなったとしても、鬼側には決して着いてはいけない。


「貴女達がそちらの鬼の仲間というのならば、私は容赦無く鬼殺の妨害、そして貴女達を裏切り者として扱う。それでもいいと言うのならその鬼と共に葬ってあげましょう」

「ひっ…」

「全く、喧嘩をしたら駄目じゃないか。女の子は楽しそうに想い人の話をしている時が一番可愛らしいのに、勿体無い」

「黙りなさい。私の仲間を誑かした罪は重いぞ、下弦の陸」


長い髪で気付かなかった。
きっと隊士達もそれで気付かなかったんだろう。
長い髪に隠された下弦と陸の文字に。
救援を呼ぼうにもかー君は今し方蝶屋敷へ飛ばしてしまっている。

冨岡さんが近くにいるけど私がここを離れる訳にはいかなかった。
口ではあぁ言ったけど彼女達を守る義務が私にはあるのだから。
生きていた時にきちんとこの罪を裁けばいい。
あれは単なる意思を揺るがせる為の脅しでしかないのだから。


「私は裏切らないよ。安心して?美しい女性よ、君だって同士を斬るのは忍びないだろう」

「私に不安など無い。鬼側に着くなど死んでもありえないんだから。私は私を、私を信じてくれる人達を絶対に裏切らない!」

「強情なんだから。仕方が無い、少しだけお仕置きをしちゃおうかなぁ」


にたりとした笑みを浮かべた鬼に体勢を低くして距離を詰める。
彼女達は私のさっきの発言で完全に腰が引けているから、この速さに追いついて来る事はないはず。
前から突進してくると思ったのか、刀を構えて私に反応したつもりだろうがやはり動きが遅い。
高く飛び上がり完全に逗子丸の後ろを取って頸を狙い呼吸を集中させた。


「月の呼吸、参ノ型・弥生!」


右足で強く踏み込み上半身を捻り勢いを付けながら頸を狙う。
狙ったつもりだった。



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テーマ「人外ファンタジー」
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