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朝日がそれなりに登り、今は6時頃だろうか。
私は寝間着姿に枕を持って冨岡さんの私室の前に立っていた。
そう言えば冨岡さんの私室に入るのは今回が初めてで、何とも言えない緊張が走る。
悩み過ぎて頭を抱えたくなった私が襖の前で蹲りかけた瞬間目の前の閉ざされた空間が開けた。


「入れ」

「…オジャマシマス」


一言告げて冨岡さんの部屋に入れば布団が一組敷いてあった。
いや、二組ある訳が無いってことくらい分かっていたけどいざそれを目の前にするとやはり不安になってくる。

気にした様子のない冨岡さんは私の体が全て部屋に入ったのを見ると逃げ道などないと言うように襖を静かに閉めた。


「寝るぞ」

「あの、義勇さん。結婚前の男女がやはり同じ布団に入るのはどうかと…」

「結婚すればいいのか」

「いえ、そういう訳じゃないですけどね?」

「ならさっさとしろ」


枕を抱え最後の足掻きを見せる私の腕を冨岡さんが掴み軽く布団に投げられた。
もう少し方法ありませんでした?なんて思いながら距離の近くなる冨岡さんに鼓動が早くなる。

上半身だけ起こした私を一瞥すると、冨岡さんは掛け布団を足元から手繰り寄せながら空いている手で私を引き寄せた。


「わ、わ!」

「黙っていろ」


所謂腕枕された状態で私の体を抱え込んだ冨岡さんは身動いだ体に力を込めてくる。
抑えつけられ動けなくなった私は茹で上がりそうな熱と羞恥心にただただ顔を染めて天井を見つめるしか出来なくされてしまった。


「と、とみとみとみ冨岡さん」

「……名前」

「義勇、さん…私これ死にそうです」

「死なん」

「なにゆえ、こんな事を…」


どうにかこうにか照れを誤魔化す為に冨岡さんへ質問を投げかけるが、既に眠そうな彼は擦り寄るように私の頭へ頬をつける。
正直あの小屋で起きたアレ以上に密着度が高い。
私をどうする気なんだこの人。


「何で、こんな事に…」

「煩い」


恐らく私の望む返事は来ないと分かり、自問自答をし始めるが眉間にシワを寄せた冨岡さんに更に抱き寄せられ仰向けになっていたはずの顔は筋肉質な胸板に額をつけさせられている。
ヒュ、とおかしな呼吸を取ってしまい咽た私の背中を撫でる手からはいやらしさなど全く感じない。
感じないが冨岡さんの優しい香りに包まれてそれどころではない。

一層の事失神してしまいたいと思っていると、背中を撫でていた手はとんとんと一定の速度で優しく叩かれ始めた。
二人で1つの布団に入っているからか、いつもより温まるのも早いし緊張している筈なのに眠気が襲ってくる。


「ぎゆ、さん」


眠気に抗いたくて冨岡さんの名前を呼んでも返ってくるのは、一定の間隔で背中を叩いてくれる音だけ。
まるで子供を寝かしつけるようだと思いながらも、瞼が徐々に落ちてくる。

さっきまで自分の寝間着を握り締めていた手は自然と冨岡さんの寝間着を掴んでいた。

絶対寝れないと思っていたのに、私は誰かが隣にいる安心感と温もりに意識を手放しそうになる。


「おやすみ」


普段の冨岡さんらしくもない優しい声を最後に今度こそ私は意識を手放した。



Next.

以下後書き
平和な日常だけど、夢主ちゃんにもう少しドキドキして欲しくて最後は罰ゲーム添い寝にさせてもらいました。キリ



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