3


全力で疾走し、帰ってからはお茶請けを出して詰将棋。
結局何一つ冨岡さんには勝てなかった。


「むーっ!」


夜、管轄の見回りを冨岡さんと二人でしながら私は頬を膨らませていた。
勝負事に負けるのは嫌いなのか一切手は抜かれなかった、と思う。

綺麗な星空の下、鬼など居なければもう少しゆっくり眺められるのにと空を見上げた。


「義勇さん」

「なんだ」

「見回りか終わったら最後にもう一度勝負しませんか?」


任務中ではあるのだけど、完敗という事実が私の心に火をつけた。
この見回りが終わり次第だが、最後に勝ちたくて冨岡さんに詰め寄りながら1を表すよう人差し指を立てた。


「何がしたい」

「あっち向いてホイです!」

「……」

くだらないという顔をしても私はめげない。
なにかひとつでもいいから勝ちたいのだ。どうしても!

私の気迫に押されてか、冨岡さんはちょっと考えてから仕方ないなと承諾してくれた。
それからは見回りの間きちんと仕事をしましたとも。

今回特に鬼と遭遇も居るような痕跡もなく仕事の終わりを告げる朝日が登る。


「さて、冨岡さん」

「…一つ提案がある」

「何でしょう」

「勝った者に褒美があるのはどうだ」

「分かりました!では負けた方は勝った方の言う事を一つだけ聞くというのはどうですか?」

「いいだろう」


この提案をした瞬間、冨岡さんの目が鋭くなったのに気付かなかった私はこの時点で負けていたのだろう。
じゃんけんをして、私が勝ちせーので指を左に向けた。対する冨岡さんは下を向いている。
何度かそのやり取りをした後、冨岡さんがじゃんけんに勝った。

掛け声は私の担当。


「あっち向いてホイっ!」


結果冨岡さんの指は上を指し、私は上を向いている。
勝敗が決してしまった。
私は隊服が汚れるのも気にせず地面に崩れ落ちた。


「まっ、負けました…義勇さん、何か1つ言う事を聞きましょう」

「今日寝る時側に居ろ」

「はい?」

「手は出さない」


崩れ落ちた私を見下ろした冨岡さんからの命令が下る。
側に居ろと言う事はどういう事なのか。
有無を言わせぬ圧力に思わず呆けた返事をしてしまったが冨岡さんの真意は分からない。


「そ、それはちょっと…」

「何でもと言った」

「いや、でも」


これ以上話す事はないと私に背を向けた冨岡さんは家の方角へ歩いていく。
なかなかの早歩きだ。
私は急いで立ち上がりその背中を追う。

家へ帰る道中、いくら冨岡さんに話し掛けても無視が続いた。
どうやら絶対的な意思を持って発言を撤回する様子はなさそうだったので、家についた私は仕方なく汚れを落とす為にお風呂を準備する。


「義勇さんてば寂しいのかな」


ぽつりと独り言を言ったところで返事はない。
手は出さないと言った以上間違ってもそういう事にはならないと思う程には冨岡さんを信用してはいるけど、それとこれとは訳が違う。

前に一度同じ部屋に寝泊りしたことはあったけど、私の看病の為だ。
腑に落ちない気持ちのまま、湯を上がった冨岡さんの後にお風呂へ入った。




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