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「本当に顔がいいんだからやめてください…」
「月陽は俺の顔が嫌いか」
「違います!かっこいいです!」
「…そうか」
照れて半ばやけくそ気味にそう言えばムフフと笑った冨岡さん。
やはり男性はかっこいいと言われて嬉しいものなんだ。あの冨岡さんまで嬉しそうにしている。
しかし義勇さんか、と歩みを再開して考える。
確かに最初と比べたら全然仲良くなったとは思うけど、伊黒様や宇髄様辺りに聞かれたら色々言われそうだし揶揄われそうだな。
後ろを振り返って冨岡さんがついてきているか確認するといつも通り真顔に戻っていた。
「冨岡さんは、名前で呼ばれたいですか?」
確かに冨岡さんで慣れてはいるけど、もしかしたら彼を名前で呼ぶ人って少ないんじゃないかと考えついた私は遠巻きにちょっと聞いてみる。
そう言えば義勇さんでも呼び捨てでもしている人を見たことが無い。
「月陽にだから呼ばれたい」
「あぁっ、もうずるい!分かりました、分かりましたよ!義勇さんって呼ばせてもらいますけど、二人の時だけにさせてもらいます」
「悪くない」
この人天然だとは思っていたが天然たらしと言うものだ。蒼乃さんを思い出して少し同情した。
きっと私が鬼殺隊ではなくただの町娘だったら同じ道を辿っていたかもしれない。
あそこまでくっつき回す事はさすがに出来ないけれど。
それにしても今日はとても平和だ。
「義勇さん」
「あぁ」
「私頑張って柱になりますね」
私は生きると誓った。
珠世さんが助けてくれて、生きる事を教えてくれた。
そして鬼殺隊に入って義勇さんと出会って月の呼吸や体力面、精神面に良い影響を及ぼしてくれている。
だから冨岡さんに少しでも恩返しはしたい。
口に出してもそんなものいらないと言われそうだからあえて言わないけれど。
「義勇さん、帰ったら詰将棋でもしますか」
「出来るのか」
「勉強しました!」
ゆっくりとした歩調で私の後ろをついてきてくれている冨岡さんへ振り返り手を取る。
たまにの平和な日を少しでも笑顔で過ごしたい。
「だから、家まで競争です!」
「!」
私は手ぶらで、冨岡さんは手荷物を持っている。
見た目には私が有利だけど、先に走り出した。あの人は人を抱えて走れるし、実力を知ってるからこそどう考えても結局私には不利である事が火を見るより明らかだ。
「あっ、義勇さん少しは手加減して下さいね!」
「鍛錬と思え」
「ちかっ!えっ、ちょっ…待ってくださーい!」
意外にも本気で勝負に乗ってくれた冨岡さんに結局は置いてきぼりにされた。
無感情、無表情とは言われるけどそんなの知ってる人が限られてるだけ。
さすがに姿の見えなくなりそうな冨岡さんの背中を全集中の呼吸で追い掛けた。
女だろうが勝負事に手加減はなしの冨岡さんだった。
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