ファンシー


手に持っていた眼を宙に浮かべる。もう赤い液体は出ていなかった。




「総太」


瞳に向かって声を掛ければふわりと真っ黒な空間に総太が現れた。忘れてはいけない大切なこと。だけど、違うんだ。



「お前は総太じゃない・・・そうだろう?」




総太はにこりと笑みを浮かべたかと思えば女の人に変わっていた。何処か総太と似ている顔立ち。総太と同じ・・・?




「第三の眼・・・・」



女の人は優しく微笑みながらそっとオレの髪を撫でる。雰囲気まで総太に似ていると思えばその人は「総太のお母さんだもの」と言った。あぁ、どうりで似ているわけだ・・・。そう思いながら宙に浮いている第三の眼を見つめる。



「貴方の心に触れ描いた幻想世界」

「幻想世界?夢か何かか?」

「幻想は幻想。嘘も本当も無い。偽りも真実も無い。貴方が嘘、偽りだと思えばこの幻想は嘘であり、偽りである。貴方が本当、真実であると思えばこの幻想は本当であり、真実である。それが幻想というもの・・・貴方の心に触れそれを基盤として作り上げた幻想。貴方がここで起こっていた”いつも通り”を否定すればそれは偽りとなり望んでいなかったものとなる。ここで起こっていた”いつも通り”を肯定すれば真実となり、望んでいたものとなる。私は貴方の心と思考を探りたかっただけ・・・あの子を貴方に任せても大丈夫かどうかを知りたかっただけ」

「答えなんて決まっているだろう・・・・」

「そうね、貴方の心の回答は最初からただ一つだけだった」










隣に誰かの気配を感じて目を開ければ、総太が眠っていた。小さく笑みを零し優しく髪を撫でてやる。さっきのは夢なのか幻想なのか。総太の母さんは幻想だと言っていた。でも、きっとそのこともオレが夢だといってしまえばあれは夢になるのだろう。幻想だといってしまえば幻想になる。正直、どちらでも良かった。お前の母さんに認められたって事でいいのかな。そう思いながら優しく頬に口付けを落とした。


「んっ・・・」

「おやすみ、総太」



擦り寄ってきた総太を抱きしめながら瞳を閉ざした-------------



ハートフェルトファンシー END
















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