フェルト


瞳から流れている赤い雫が床へと落ち、どんどん広がっていく。段々、何を思い出そうとしていたのかさえわからなくなってくる。




「もう、”いつも通り”に帰りなさい」

「いつもどおり・・・・」

「貴方は何も忘れてなんていない」

「何も・・・わすれてな・・・い・・・・?」

「そう」





頭がぼーっとしてきた。オレは何も忘れてなんかいない?忘れていないのならどうしてお前を見ているとこんなにも苦しくなるんだ。違うだろう・・・オレは何も忘れていないんだったら、お前の事を、イタリアに居た頃を思い出せるはずなんだ。楽しい事ばかりじゃない筈なんだ。思い出したい・・・オレは忘れたくなんかない。大切なんだ・・・傍に居てあげたいんだ・・・




「・・・・・」

「違う。これは”いつも通り”なんかじゃないっ!オレは知っている・・・お前を・・・この眼の事も・・・過去の事もっ」




手に持っている瞳を思いっきり引っ張った。ぶちっ、ぶちっと音を立てながらその瞳に繋がれている線が切れていく。赤い液体が流れ出しているけれど気にせずオレは瞳に繋がれている線引きちぎった




「そう・・・でも、思い出せていない、そうでしょう?本当に知っているの?思い出せないのに?思い出せないのに知っているの?」

「・・・っ」

「”いつも通り”を否定する事が出来るの?これは”いつも通り”じゃない、と貴方は否定する事が出来るの?」

「それは・・・・」

「忘れなさい・・・そして深く深い眠りへと向かいなさい・・・・さぁ、眠りを覚ます恐怖の記憶で眠るがいいっ!!」





”   ”が声をあげた。
ほら、もうすぐで全てを思い出せそうだ。忘れていた大切な事を。断片的に流れる映像。小さい男の子が泣いている。知っている、オレはこの子を知っている。手に持っている眼を宙に浮かせて女の子と楽しそうに走り回っている男の子。この子もちゃんと知っている。頬を赤く腫らした男の子・・・女の人に叩かれたあの日。女の人・・・あの女の人は・・・・。公園に足を踏み入れた途端にみんな何処かへ行ってしまった。一人ブランコに乗り寂しそうにしている男の子。ただ一緒に遊びたかっただけなのに・・・。止め処なく流れ続ける映像。全てが辛くて悲しいものばかり・・・それでも、忘れてはいけないものなんだ。男の子と男の子が出会った。



「ほら・・・思い出せた--------------」














- 51 -

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -