「マルコ、少しだけいい?」 「アンジェロ・・・」 木陰からこちらに歩み寄ってきたアンジェロ。何処か浮かない表情を浮かべている。早く総太を家に連れて帰りたいんだけど、と思いながら頷けばアンジェロはそっと総太とジャンルカの髪を撫でた。 「ジャンルカの事なんだ」 「・・・」 「総太とジャンルカに一緒に帰ろうって声を掛けようとして此処に来たんだ。その時にはもうジャンルカは総太を抱きしめていた。でもなんだか様子がおかしかったから声を掛けようとしたんだ。そしたら頭の中に映像が断片的に流れ込んで来て・・・・」 「?」 「総太の能力の事、実は僕も知っているんだ。多分それだと思う。ジャンルカの無意識の中にある記憶の断片が総太の中に流れ込んできて・・・強く抱きしめられ過ぎて上手に力をコントロールできなっていて近くに居た僕にまでもその映像を見せてしまったんだと思う」 切なそうに瞳を細めるアンジェロの頭を撫でそっと息を吐き出す。アンジェロは躊躇いがちに話し出した。何年も前からジャンルカが母親とあまりうまくいっていないこと。何度も変わる”お父さん”。母親から愛を感じなくなったジャンルカ。父親なんて別に居なくたって良かった。自分のお父さんはただ一人だけ。何度も変わるお父さんは父親なんかじゃない。母親から愛いされなくなったジャンルカはナンパでそれを埋めようとした。とにかく愛されたかったし愛したかった。一時のそれで構わなかった。寂しいと感じた時にその寂しさが埋まればよかった。だけど総太が来てからそれは変わった。初めはなかなか受け入れられなかった総太を無意識に求めてしまっていた。 「ジャンルカは総太に母性を感じていたのか?」 「たぶん・・・きっとここ最近ジャンルカの機嫌が少し悪かったのもそれだと思う」 「?」 「マルコにお母さんを独占されてると思っていたんじゃない?それこそ無意識に。無意識ほど厄介なものはないんだ。意識の基盤は無意識だからね」 なんだか難しいことをいうアンジェロに苦笑いしながら総太を背に乗せる。アンジェロを見ればどうやらブラージに電話をしているらしい。にこりと笑みを浮かべて手を振ってくるから手を振る代わりにやんわりと微笑みその場を後にした。背中に”何か”を感じながら--------------- ハルトマンの妖怪少年 END |