「ただいま」
「聞こえなかったのか?俺はまだ足りないと言ったんだ」
「…」
「聞こえなかったのか?俺はまだ足りないと言ったんだ!」

帰ってきた忍さんが無表情のままゆっくりと出ていこうとする。

「待って!忍さんおかえりなさい!」
「急用を思い出したから今夜は自分の家に帰るとしよう…」
「待ってください!すみませんでした!」

玄関のドアを引っ掴んで必死に止めると、忍さんは困ったようにわたしを見下ろした。別にからかおうとしてるわけじゃなくてさっきの忍さんがすっごくすっごくかっこよかったから台詞を拝借しただけなのに。

「名前までバカにするのか?」

忍さんが呆れたようにため息をつく。そういえば青井有紀とやらに煽られていたのを思い出した。違うよ忍さん、わたしは、あの忍さんのこと本当にかっこいいと思ってるから、あの男とは違うんだよ!必死に抗議しようとしたけど忍さんは機嫌が悪そうにわたしを押し退けてリビングへ行ってしまう。慌ててそれを追い掛けたけど忍さんは眉間に皺を寄せたままだ。

「はあ…」
「あ、あの…忍さん」
「うん?」
「さっきの、かっこよかったです!」
「…もうその話はいい」

うう、不機嫌。違うのに、かっこいいってことを伝えたいだけなのに、本当なのに、青井有紀のせいで!会ったこともない忍さんの大事なメンバーを心の中でボロクソに憎み、忍さんが腰掛けるソファの前に立ってみた。忍さんこっち向いてもくれない…。

「忍さん…」
「…」

いつも優しい忍さんがムスッとしてだんまりを決め込んでいる。寂しくて、忍さん、ってもう一回呼んだけどそれにも返事は返ってこない。どうしようもなくて自分の体重を右足に左足にと交互に掛けていたら、忍さんが突然わたしの手首をぐいっと掴んできた。

「へ、ああ…」

びっくりして情けない声を出すと、忍さんがそのままわたしを引き寄せてソファへ倒す。上に被さってきた忍さんが部屋の電気の明かりを遮ってわたしに影を落とした。

「し、忍さん?」

忍さんの大きな手がわたしに伸びてきて、唇を親指と人差し指で摘ままれた。んぐ、と声が出る。忍さんは少し照れたように笑った。

「もうやめなさい。十分だ」
「んん、ん」

十分じゃない!忍さん誤解したままだし!
またもや抗議しようと喉を使っても唇を封じられてるから声も出せない。困って忍さんを見上げても忍さんは手を離そうともしてくれなかった。

「んん、んぐう」
「どうした」
「んんう、ん、んん」

これじゃ何も伝わらない。諦めて唇から力を抜いたら忍さんが可笑しそうに口元を緩ませて、やっと手を離してくれる。さあ抗議を、と思えば今度は忍さんの唇がわたしの唇に押し付けられて、また言葉を封じられた。

「っ、む」
「…」

忍さんのあったかい唇。ただ触れてるだけなのに幸せな気持ちになって、好きが溢れてきちゃう。いつもみたいに優しいキスで、わたしの髪を撫でながら啄むように何度も唇を合わせた。忍さんの唇気持ちいい。

「しの、ぶさ…、」

とろん、と瞼が重くなる。気持ちよくてもっとねだろうとしたら忍さんがまた可笑しそうに口元を緩ませる。

「名前」
「は、い」
「その…有り難うな」
「はい、?」

何のこと、と思ったら途端に忍さんの顔が赤くなって、ふいっと逸らされてしまった。え、な、なに、その反応。さっきまでムスッとしてて、わたしが褒めようとしたら邪魔してきて、まさか、忍さん怒ってたんじゃなくて、照れてたんじゃ。こちらも釣られて顔が赤くなる。

「し、忍さん、かっこいいです!」
「だから、十分だと言っただろう」
「だってかっこいいから!」

慌ててわたしを黙らせようとする忍さんにまたどうしようもなくときめく。かっこよくて可愛くて、困っちゃうなあ。

「ねえ忍さん、良かったらたまにはわたしにもああいう忍さんやってくれませんか?」
「断る」
「ええっ、そんな…」

俺はまだ足りない、なんて忍さんに言われたら……妄想だけでドキドキする。言われたくて忍さんを見上げたら忍さんは困ったように頭を撫でた。

「そんな目をするのはやめなさい」
「でも…」
「俺は名前に優しくしたいんだよ」

忍さんはどうしたらいいのか分からないように困っていて可愛い。そんなこと言われたら、あ、そうですか、と引き下がるしかない。本当に全部かっこよくて困る。

「もう忍さんは…好きです」
「何だ急に」
「急じゃないです、今日ずっとかっこよかったから…。忍さん好き」
「あまりそういうことを言うんじゃない」

忍さんはまたわたしから目を逸らす。照れてる照れてる。忍さんはいつも無表情だから感情が読み取りにくいけど今日は随分照れてるんだと思う。可愛い。

「忍さん、もっとこっち…」
「…」
「抱き締めてくれませんか?」

可愛い忍さんが見たくて両腕を広げて見せると、忍さんは何故か眼鏡を外して、え、な、なんで、そんな目を。

「全く…どうなっても文句を言うなよ」
「え、あ、あれ?」

忍さんはわたしに体重を掛けないように腕を付きながら上に乗って、さっきより深いキスをしてくる。滅多にしない大人のキス。

「ん、うぁ…ん、」
「…、」
「っふ、ん…」

舌で咥内を混ぜて熱を与えられる。必死に息継ぎをしながら応えると忍さんの手がわたしの服の裾から入ってきて、思わずビクッと身を捩った。

「ふ、あっ!?し、忍さん、何を…っ」
「文句を言うなと言ったはずだ」
「や、で、でも…」

こんなこと、したことないのに。忍さんはいつもより熱っぽい目でわたしを見下ろしながらわたしの腰を優しく撫でる。

「…こわいか?」
「い、いえ…」

自分でもびっくりするくらい細い声が出た。今日の忍さん何だかめちゃくちゃかっこよくて大人っぽくて、色気がすごい。その熱っぽい目が近づいてきてまた唇が引き寄せられるように重なった。少し湿っていて気持ちいい。今日はこのまま忍さんに任せちゃおう、と体の力を抜くと、忍さんはそれに気づいたようにわたしの服を脱がせていった。

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Twitterの忍さん、ドキドキしました。
20160831
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