「つむちゃん」
「なに」

短い言葉で返されて言葉に詰まる。さっきからずっとこの調子でむすっと唇を尖らせているものだから何と声を掛けていいのか分からなかった。こうも機嫌を損ねているつむちゃんに話し掛けても大体逆ギレされるので放っておきたい気も、する。でもここはびしっと、だめなことはだめと言ってあげるのがわたしの役目だろうと勝手に年上ぶろうとしたわたしを見透かすようにつむちゃんがこちらをジロッと睨んだ。

「説教なら聞かねーから」

ですよね。
困ったように眉を下げるとつむちゃんはまたそっぽを向いてしまう。でも、つむちゃんはいけないことをしたのに、このまま甘やかしていいものか。わたしは深く息を吐いた。

「ねえ、久遠先輩、」
「だから説教は聞きたくない」

つむちゃんが苛々した声を上げる。その目付きのせいか最初はこの声を聞いただけでびびり倒してたけど彼女様を舐めてもらっては困る。わたしだってさすがに慣れたしもう怖くない。ちょっとしか。

「だって殴るのは良くなかったでしょ」
「…」
「急にあんなことされたら久遠先輩もびっくりするよ」

つむちゃんから言葉は返ってこない。一方的に責め立てているようで居心地が悪くなり、つむちゃんをじっと見つめて言葉を待ってみることにした。そもそもつむちゃんが久遠先輩に怒っている理由は分かっているのだ。その件に関しては9割方わたしが悪い。

「つむちゃん」

もう一度名前を呼ぶとつむちゃんはどうしていいのか分からないといった様子でこちらに視線を寄越した。泳がしている視線から、とっくに反省はしているのだと察したけど一応つむちゃんの言葉を待つ。

「…あいつ、触ってた」
「うん」

やっぱりそれが原因か、と少し罪悪感。これはわたしから謝った方がいい気もする。

「人の女にべたべた触るとかありえねーだろ、しかも俺がいないところでさ」
「う、うん。でもつむちゃん、」
「あんたが触らせてたんでしょ。分かってる。でもやだ」

つむちゃんは行き場のない苛立ちを抑えられないような鋭い目をしていた。それでいて、どうすればいいか分からないというようにわたしに助けを求めてくるところが少し可愛い。

「久遠先輩、ああいうの上手いんだよ」
「何、あんた俺をますます怒らせたいわけ?」
「じゃなくて、普段と雰囲気変えたらつむちゃんに褒めてもらえると思って。…ごめん、わたしが浅はかだった」

しゅんと下を向くと、つむちゃんの肩が揺れた。心底困ったように視線を揺らし、言葉を探しているみたい。つむちゃんはまだ唇を尖らせたままだけど、少し乱暴にわたしの手を握ってくる。

「それも分かってる。今日のあんためちゃくちゃ可愛いよ。だから余計ムカつくの。そんなことしなくても可愛いのに、俺以外の男に髪触らせてアレンジしてもらって、それで、…ムカつくんだよ」

つむちゃんの声が弱々しく力を無くしていく。それから、かわいいよ、ともう一度小さく漏らした。それだけで心臓がぎゅうってなって、嬉しい反面めちゃくちゃ反省する。つむちゃんはヤキモチ妬きさんだって知ってたのに、ヘアアレンジしてもらってる最中は全然そんなこと考えてなかった。わたしは自分のことばっかりだ。

「ごめんね、つむちゃん」

握られた手に力を込めるとつむちゃんが、ん、と返事をする。唇は尖ったまま、まだ許しきれてないようだった。拗ねているような、困っているような、微妙な表情が可愛い。

「…あんたさ、アップにしてるとすげー可愛いし、やばいかも。俺結構ドキドキする」
「え、え」
「でも俺とデートするときだけにして。それ以外はだめ。もったいなくて見せてらんねーよ。分かった?」
「え、あ、うん」
「何だよそれ、ほんとに分かってんだろーな」

つむちゃんはわたしの手を引いて自分の方へ抱き寄せると、普段曝されていないわたしの項を優しくなぞった。ぞわぞわする。

「ここ、見せらんないようにしてやる」
「つむ、ちゃ」
「あんたが悪いんだよ」

そう言うとつむちゃんはわたしの首筋に唇を這わせ、ぢゅ、と音を立てた。チリッと感じた痛みに反応が遅れる。

「ち、ちょっと、っ」
「いいから大人しくしてな。これで許すっつってんの」

つむちゃんは痕を付けた場所を舌でなぞり、やっと満足そうに顔を上げる。

「1週間くらいで消えるかもしんないけど、それまで隠してなきゃいられないようにした。まあどうしてもアップにしたいなら俺の女ってしるし、見せ付けてもいいけどな?」

つむちゃんはそのままわたしを抱き締め、わたしの後ろで揺れる髪に指を絡ませた。年下のくせになんて生意気な、と思いつつもそんな年下にドキドキすることしかできない。もう、ばか、なんて弱々しく呟いてつむちゃんの肩口へ額をつけると、つむちゃんは、でもさあ、と愉しそうに口端を歪ませる。

「あいついつも名前の頭撫でてきてうざかったから、今日ちょっとすっきりした」
「こらつむちゃん!」
「はは、いいだろ少しくらい」

つむちゃんのこういう子供っぽいところも可愛くて強く叱れない。もうっ、と形だけ怒ったように見せると、つむちゃんはもう一度わたしにはにかみ、大事そうにわたしの頬を両手で包んでキスをした。
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久遠先輩は「あいつ思いっきりしやがって〜!」と笑ってくれてると思います。
20160715
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