夜11時。痛くて痛くてフローリングをのたうち回っていたら今日は帰ってこないかと思っていた芹くんがお仕事から帰って来た。打ち合わせやら撮影やらで大忙しの中、昨日からずっとこの調子のわたしを見兼ねてお薬を買ってきてくれたそう。買い物袋から手際よく薬を取り出してお水を用意してくれる芹くんに免じて一緒にゴムを買ってきたことは気付かなかった振りをしてあげる。ただでさえ底無し性欲の芹くんが生理終わるまでの数日間きちんと待っててくれるのだから感謝するべきだ。

「痛い…」
「まあすぐには効かないからな…寝る準備できてるか?」
「うん…」
「じゃあ今日も一緒に寝よう。シャワーだけ浴びたいからあと15分待てるか?」
「いいよ、もう少しゆっくりしてきて」
「俺がお前を抱き枕にしたいって言ってんの。大人しく芹さんに抱かれるのを待ってなさい」
「はい…」

うんいい子、と微笑んで芹くんはさっさと浴室へ向かっていった。芹くんはどこまでも優しい。忙しいときはお家でもずっとお仕事をしてるから、今の時期も本当はお仕事を進めたいはず。それなのに自分がしたいから〜、なんてわたしのワガママをわたしに言わせないで聞いてくれる芹くん。本当にわたしにはもったいないくらいのいい人で、愛されてるなあ、大事にされてるなあと実感する。芹くんは短い髪をかるくドライヤーかけて、それでも10分くらいで戻ってきてくれた。優しさにときめく一方だよ…。

「よーし、寝るぞ!」
「うん…」

元気な芹くん。昨日ほど酷い痛みではないから会話はできるものの、まだなるべく動きたくないしずくんずくんと響く鈍痛が消えることはない。ベッドに寝転ぶのもスローペースになる。

「っはあ…」
「痛いか?」
「うん、痛い…痛いよ芹くん…」
「痛いよなあ、よしよし」

芹くんが優しくわたしを抱き寄せる。痛い、痛い、と昨日より素直に言葉にすることで芹くんをもっと困らせちゃうのは分かっていたけど声に出さずにはいられない。痛くて、苦しいよお。芹くんがわたしの背中をトン、トン、って優しく叩く。

「つらいよな、痛いな」
「うん、痛い…痛いよ…」
「よしよし、もう少ししたら薬効いてくるからな」

心地好い温度とリズム。鈍痛のせいで眠れる気はしてないけど眠気があるのは確かで、芹くんから与えられる刺激で瞼が重くなっていく。芹くんも、寝ちゃう、かなあ。

「芹くん、もう寝る?」
「お前が寝るまで寝ないよ」
「でも、わたし寝れないかも」
「それならそれでもいいよ。だから目ぇ閉じてな」
「え…でも」
「俺のことはいいから目ぇ閉じてろって。少しでも休まるだろ?」

芹くんはいつもわたしを第一に考えてくれる。芹くん寝ちゃうのかな、なんて考えてしまったワガママなわたしを見透かすように、欲しい言葉をそのまま、いや、期待以上で返してくれる。芹くんの言うとおりに目を閉じると、芹くんはわたしの背中に触れたままふふっと笑った。

「そうそう、いい子だな」

子供扱いされるのはくすぐったいけど、こう弱っているときに子供扱いされるのは何て心地好いんだろう。またきゅうんと胸をときめかせるけど芹くんにそんなことが伝わるはずがない。芹くんの大きな手が、トン、トン、とわたしを夢の中へと導いていく。

「おやすみ、名前」

芹くんの優しい声がわたしのすぐ傍で響いた。返事をしようと思うけど口が動かせず、もう意識は半分夢の中だった。ちゅ、とおでこにやわらかい感触がして、それを何か理解するより先にわたしは意識を手放す。芹くんの優しい手は、いつまでわたしに触れていてくれたんだろう。おやすみ、大好きな芹くん、いつもありがとう。

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甘やかしすぎだというほど甘やかしてきます。メンヘラホイホイの芹さん。
20160707
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