乱れた息遣いのまま彼の腕に抱かれ、湿ったお互いの肌を触れ合わせる。熱を纏ったシーツが嫌に熱くて、彼の腕もそれ以上に熱い。こんなときに何をすればいいのか分からない彼女は彼に甘えることも求めることもできず、ただ与えられた熱を受け止めながら彼の反応を窺った。視線が合った瞬間、嬉しそうに目が細まる。

「はは…っ」
「玲音?」
「きんっちょーーーーした!」

彼が急に大きな声を出すものだから彼女はビクッと小さく肩を揺らし、幾度か瞬きを繰り返してその後に続く彼の言葉を待った。

「な、なに」
「好きな女抱くのって、めちゃくちゃ緊張すんだな…」

彼の声が低く掠れている。彼女の顔に掛かる横髪を耳に掛けながら愛おしそうに再び目を細めた彼は穏やかな表情をしていて、先程まで獣のようにぎらついた視線を送ってきた者とは思えなかった。あれほど熱っぽい瞳を見たのも、この穏やかな瞳を見たのも初めてな彼女は幼い頃から傍に居ても知らなかった表情があったものだなあと感心し、それに胸を高鳴らせる。

「わたしも緊張した…」
「ん、頑張ってくれてありがと」

彼の大きな掌が頭を撫で、この掌も昔に比べて一回りも二回りも大きくなっていたので何だか擽ったい。体に感じる僅かな痛みなど吹き飛んでしまいそうだ。

「なあ、気持ち良かった?」
「へ、え?」
「俺上手くできてたか分かんねえし、すげえがっついたかも…」

反省している、というように尖らせた唇からもやはり先程の色気はなく、年相応の男の子だ。ここから汗を伝わせながら腰を遣う妖艶な姿は想像できない。彼女が思わず口端を震わせると、おい、と彼の拗ねた声が投げられた。

「何笑ってんだよ」
「ふふ、玲音が可愛くて」
「俺は可愛くねっつの」
「可愛いよ」

頭を撫でようとするとその手を掴まれる。

「俺、かっこよくなかった…?」

不安そうに揺れるオッドアイ。如何なる時も自信に満ちている彼の寂しそうな表情を見るのはこれが初めてではなかったが珍しいことには変わりない。彼女は身を寄せて彼の胸板へと顔をくっ付けた。

「かっこよかったよ、大丈夫」
「んー…」
「ほんとだよ。すごくドキドキした」
「良かった…」

ほっとしたような顔で眉を下げると彼女の手を離し、代わりに背中へ腕を回す。息遣いは落ち着いてきたものの肌は湿っていて重なると気持ちいい。何も身に付けていない胸が、とくん、とくん、と一定の心音がリズムを刻んでいた。彼女の頭を撫でると汗ばんでいるために濡れていて、自分のせいで乱れた髪に口許の緩みを抑えられなかった。

「なあ、…好き」
「うん」
「お前は言わねえの?」
「さっきたくさん言ったじゃん」
「別に何回言ってもいいだろ」

体を重ねながら何度も交わした言葉を欲しがる彼は相変わらず彼女の頭を撫でている。

「可愛いね玲音」
「だーから、可愛いのはお前!俺はかっこいいんだっつの」
「だって、」
「うるせーな、早く好きって言え!」

しょっちゅう喧嘩をしているのにこんなときまで喧嘩腰で彼女は耐えきれずに笑った。百瀬つむぎともこの調子で喧嘩ばかりなのでバンド練習の様子を思い出したのだ。彼は何に笑っているのか理解出来ないようで、ムッと眉を上げると彼女の頬を持ち上げる。

「お前まだ余裕みたいじゃねえか」
「えっ、なに、」

言葉を繋ごうとしている彼女の唇を無理矢理塞ぎ、幾度も犯した口内に舌を捩じ込んだ。口の中が熱くて、この小さな口から濡れた声が漏れていたのを思い出して彼は堪らなく舌を絡めていく。彼女も求めるように舌を動かして彼のそれを受け入れていた。

「んっ…ん」
「、ふ」

ぬめる舌で唾液を絡め合うように擦り、愛撫をする。口腔をゆっくり辿るそれは、歯列を、内壁を、粘膜を嬲り、口端の僅かな隙間から厭らしい水音を溢した。呼吸も貪るような激しく熱いキスに肩を震わせていると彼の手がそっと彼女の胸に触れる。

「っ…、ふ、う」

触れている掌は動かさず親指だけ頂を擦るように動かす彼にびくんと大袈裟に腰を引かせると、彼は唇から舌を抜き取って弧を描かせながら濡れた唇を光らせた。にやぁ、と何かを企んでいる悪戯っ子のようで彼女は息を飲む。

「ち、ちょっと待ってれお、んあっ」
「シてるときは言ってくれるんだろ?好きって」

親指が彼女を責め立てるように小刻みに動く。熱が収まりきっていない身体は素直に快感を受け入れてしまって小さな刺激も目敏く拾い、彼女は首を横に振った。彼の親指が爪を立てる。

「や、あ、あ…っ」
「やじゃねえんだよ、ほら」

促すように耳にキスを落とされた。彼の吐息交じりの声が、なあ、ほら、と鼓膜を揺さぶる。腰に響く低い声に彼女は彼の胸板を必死に押し返した。

「す、すきぃ…っすきだから、っ」
「かーわいい。そんなん聞いたらますます止まんねえだろ」
「なっ、ちゃんと言っ、」
「うるせ」

反論する唇を再び塞ぎながら彼は体を起こして彼女に覆い被さった。舌を出し入れするような動きを繰り返して、手は胸を刺激する。

「はぁ…っ、好きだ」

彼の熱を帯びた声を聴いて、彼女はやっと観念したように身体から力を抜いた。それが分かったのか彼は唇を胸へ移動させる。その後も熱の籠ったままのシーツの上でもう一度体を重ね合い、ギシッ、ギシッ、とベッドを甘く鳴かせるのだった。


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終わった後もしばらくは甘えて好き好き言い合いたい派だと可愛いなという妄想です。
20160623
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