重たい…。名前ちゃんは体の上に乗っている物体を手で押し退けようとしましたがなかなかそれは離れません。うーんうーんと眉をひそめてじたばたするのですが何としても離れないのです。仕方なく瞼を開けるとカーテンから朝日が差し込んでいて再び目を閉じてしまいそうになりますが、いつもと違う部屋の様子にハッとなり勢いで体を起こします。

「むわっ!…あ?ここ…?」

きょろきょろと見回すと自分の部屋でないことが分かります。ぼうっとしたまま隣を見るとすやすやと気持ち良さそうに寝息を立てている玲音くん。ああそういえば昨日玲音ん家に泊まったんだった、と思い出した名前ちゃんは未だ体の上に乗っている玲音くんの腕を払いのけました。

「ずっと重かったのはお前のせいかっ」

名前ちゃんはムッとしながらもそそくさと布団を出て、顔を洗いに行ってしまいます。寂しくなった布団に取り残された玲音くんはぱたぱたと手を動かしていなくなった温もりを追いながらもすやすや寝息を途絶えさせることはありませんでした。
名前ちゃんが顔を洗って歯みがきが終わり、適当に朝ごはんでも作ろうとフライパンの上に卵を落としたところでぺたぺたと子供のようなたどたどしい足音が聞こえてきました。くああ、と欠伸をしながら頭を掻いている玲音くんです。玲音くんは何度か瞬きをしながら名前ちゃんを見つめていましたが、まだ寝ぼけているのかそのまま名前ちゃんの背中に抱きつきます。

「…おはよ」
「おはよう玲音、朝ごはんそろそろできるから待っててね」
「んー…」
「なあに?」
「ん、んん…」
「だから何?」

お寝ぼけ玲音くんは不機嫌そうに唇を尖らせながら名前ちゃんの項に鼻をくっつけました。ぐりぐりと揺らされると拗ねているのだと分かります。

「玲音どーしたの」
「…やだ」
「何が?」
「朝お前いないの、やだ。起きるまで抱っこしてろ…」
「ああ、なるほど…」

名前ちゃんは火を止めると今度は冷蔵庫を開こうと動きますが、玲音くんも一緒にくっついたままです。甘えられるのは可愛いのですが、四六時中こうだと名前ちゃんは呆れたように笑うしかありません。

「寝てる間ずっと重かったんだけど」
「ん」
「ん、じゃなくて。あと起きたならもう離れて」
「俺はまだ起きてませんー」
「起きてるじゃん、ほらお皿出して」
「やだ」
「子供か!」

子供と言われてムッときたのか玲音くんは不機嫌そうにやっと名前ちゃんから手を離すとさっさと椅子に座って唇を尖らせてしまいます。結局手伝わないんかい!と心の中で大きく突っ込んだ名前ちゃんは玲音くんの機嫌が直るように手早く用意をしていきました。


****


「くああ〜…つっかれたぁ」
「いや玲音何もしてないでしょ…」

放課後。朝ごはんで機嫌を直した玲音は名前ちゃんと一緒に真面目に登校すると、珍しいことに大人しく放課後まで学校にいたのです。ずっと眠っていただけなのですが本人は寝過ぎて脳が働いていないのか大きな欠伸をしながら背を伸ばしました。

「おい名前、早く練習行こうぜ」
「今日はどっちだっけ?久遠先輩ん家?」
「そう」
「じゃあ先行ってて、わたしまだ日誌が残ってるから」
「はあ?」

玲音くんの眉がぴくっと上がります。

「じゃあ待ってる」
「いいよ時間かかるし、先行ってて」
「やだ」
「やじゃなくて、ほんとに待たせちゃうから」
「待ってるからいい」
「玲音ー?」
「やだ、早く終わらせろ」

手伝いもしない玲音くんはぷいっとそっぽを向いてしまいました。一旦こうなると絶対に言うことをきかない玲音くんは名前ちゃんの隣に座ります。日誌を適当にするわけにはいかないので玲音くんを待たせたくないのですが、早くしないと玲音くんが練習にすら行ってくれないのです。

「もう…何でそんなにワガママなの」
「うるせえ、手ぇ動かせよ」

足を組んで偉そうな玲音くんは、キングの名前がよく似合っていました。


****


デジャブだなあ、なんて名前ちゃんは思いました。明日までに生徒会に提出する資料を書き進める名前ちゃんとそれをつまらなそうに唇を尖らせて見つめる玲音くん。まるで日誌を書いているときと同じ光景です。

「なあそれいつ終わる?」
「家でも急かすつもり?」
「ここは俺の家なんだから俺の思い通りにならなきゃおかしいだろ」
「はいはい」

名前ちゃんが手を止めることなくため息を吐くと玲音くんは面白くなさそうにテーブルに突っ伏します。

「…眠い」
「おやすみ」
「おやすみって何だよ、お前も一緒に寝んの」
「まだ終わらないから先寝ていいよ」
「は?それじゃ泊まりに来させた意味がないだろ」
「何で2日連続で泊まりに来なきゃいけないの」
「お前が朝俺のことほっといたからだろ」
「まさか全部が思い通りになるまで帰してくれないの…?」

名前ちゃんは心底嫌そうに眉を歪めますが玲音くんは大して気にした様子もなく「当たり前だろ」と笑いました。当たり前なんだ…と名前ちゃんは息を飲みます。

「でもほんとに待たせちゃうから玲音は先に寝てて?ね?すぐ行くから」
「すぐなら待っててもいいだろ」
「いいから寝てなさい」
「やだ」
「やだじゃない」
「やだ」
「もー…、寝てる間抱っこしててあげるから」

玲音くんの眉がぴくっと上がります。頬が分かりやすく染まるのが分かりました。ちょっと考えるように視線を泳がせたと思ったら、おい、と玲音くんは名前ちゃんのおでこにデコピンを食らわせます。

「っいた!何するの!」
「言っとくけど、俺がお前のこと抱っこしてやってるだけだからな」

そんな嬉しそうな表情でそんなことを言っても説得力がありませんし、抱っこをねだるのはいつも玲音くんから、ちゃんと腕を回さないと「抱っこ!」と拗ねてくるので完全に玲音くんがしたくてしてもらってるのですが、反論するのもめんどくさい名前ちゃんは苦笑いを返します。

「はいはい、それでいいからもう寝てね」
「やだ」
「もうー…」

振り回される名前ちゃんはついにボールペンを置き、玲音くんをきつく叱ってやろうと玲音くんを睨みますが、玲音くんは自分の方を向いてくれたのが嬉しいのかにまぁっと笑顔になると、名前ちゃんの唇に自分のを一瞬重ねました。動きが早すぎて抵抗すらできなかった名前ちゃんはワンテンポ遅れて顔を赤らめます。

「ち、ちょっと!」
「顔真っ赤、まだ慣れねえのかよ」

玲音くんがからかうように笑うと今度は名前ちゃんが拗ねる番です。もう知らないっと顔を背けてツンツンしてしまいました。玲音くんはムムゥと唇を尖らせて名前ちゃんの肩にぴとっと体を寄せます。

「なあ、だって、お前は一緒に寝たくねえの?」
「べつに」
「明日から俺また仕事で忙しくなるし…会えるときくらい一緒にいてえじゃん」
「…」

普段あまり気持ちを素直話さず、でもワガママばかりで振り回す玲音くんがこうしてストレートに思っていることを言うのは珍しいので名前ちゃんは肩を揺らしました。そりゃいたいけど、と玲音くんを振り返ります。

「だって玲音疲れてるでしょ?早く寝てくれなきゃ困るんだもん…」
「そう思うなら早くそれ終わらせろ」
「それでも待たせちゃうから」
「いいんだって!」

玲音くんが名前ちゃんの背中へ手を回し、肩口に顔を埋めました。ぎゅうう、と力強く、でも宝物を扱うように優しく玲音くんの腕が心地好くて名前ちゃんも思わず手を回してしまいます。

「お前が抱っこしてくれたら別にいい、疲れてない」
「玲音…」
「だから早く終わらせて一緒に寝るぞ。…ほんとはいろいろしてえけど抱っこでいいっつってんだからワガママ言うな」

玲音くんはぼそぼそ本音を吐き出します。いつもワガママばかりの玲音くん。それでも一応名前ちゃんを思って我慢していることもあるようです。名前ちゃんはいとおしい気持ちになって玲音くんの頭を撫でますが、玲音くんは気持ち良さそうに擦り寄るだけで「子供扱いはやめろ!」なんて言ってきませんでした。

「ありがと玲音、じゃあもう少し待っててくれる?」
「ん」

玲音くんは名前ちゃんの肩口に頭をぐりぐり押し付けてきて、嬉しいときの玲音くんの癖に名前ちゃんはさらににやりとしてしまいます。可愛い彼氏のために名前ちゃんは早く書類を書き上げようと体を離します。玲音くんも名残惜しそうではありましたが離れてそれからはじっと待っててくれました。
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