「だぁれがブスじゃ!」

ダンッとテーブルにグラスを叩き付ける名前ちゃんは完全に目が据わっていて酔っ払いのそれでした。じろっと睨んだ先は呆れ顔の彼氏が頬杖をついています。グラスが割れてしまわないか心配なところですが名前ちゃんはもう一度お酒を煽ると空になったグラスを再びダァンッと叩き付けました。

「大体さあ、彼女にブスって言う〜!?言わないよね!?言わないですよ!ほんとはね!なのに!わたしは言われる!何故か!そうわたしがブスだから!わぁかってんだよこっちは!この顔で何年も生きてきてんだからなあ!」
「あんた酔いすぎ…」
「触んなあっ!ブス菌が移るぞ!朔良もわたしみたいになりたくないでしょっ!」

名前ちゃんは朔良くんの手を払い除けると隣にあった芹くんのジョッキを引っ掴みます。

「あっこら、」
「ええいうるさい!芹くんは黙ってろ!」
「はい…」

不運にも隣に座っている芹くんはしゅんと背を丸めて縮こまってしまいます。名前ちゃんの迫力は凄いもので、逆隣の千哉くんは声も出せない様子でした。

「じゃあ朔良は何でブスと付き合ってるわけ!?ブス専ってこと!?超〜〜意味分かんないんですけど!何かとつけてブス!ブスブス!知ってんだよ!わざわざ言ってくんな!それともあれかあ、わざわざ言いたくなるほどのブスかあ!?そこまでブス極めてるって言いたいのか!」
「…」
「おい返事をしろ!」
「…あんたほんとに酔いすぎだって」
「そんなこと言ってんじゃない!!酔ってないし!!!」

名前ちゃんが声を荒げると千哉くんがびくっと肩を浮かせました。可哀想に膝の上で作っている拳は力が入って真っ白です。千哉くんの向かいにいるハルくんはおろおろしますが掛ける言葉が見付かりません。隣の朔良くんの肩をバシッと叩きます。

「ち、ちょっと、名前ちゃんにブスブス言ってたの!?荒れちゃってるじゃない!」
「…」

こそっと耳打ちしてくるハルくんを鬱陶しそうに見つめると朔良くんはため息を吐きました。名前ちゃんはキッと眉を釣り上げます。

「ハルちゃんを見つめるな!やっぱ美人が好きなんじゃん!じゃあそっちと付き合ってればいいだろ!ほんと最低!」
「やだわ名前ちゃん、わたしは男じゃない…」
「ハルちゃんには言ってない!」
「はい…」

しんと重くなっていく空気の中、名前ちゃんは芹くんのジョッキを飲み干しました。名前ちゃんこんなに悪酔いするタイプだったかしら、なんて考えるハルくんに同じく芹くんもぼんやりそう考えながら箸すら動かせません。千哉くんはまだ俯いてぷるぷる震えています。

「ちょっと席を外す」
「逃げんのかあ!?」
「違う、あんたも一緒」

見かねた朔良くんが席を立って名前ちゃんの腕を掴みました。ブスが移るぞ〜なんて言いながらも名前ちゃんは大人しくその後を追い、何度か足を躓かせながらも部屋を出ていきます。

「何だか凄かったわねえ…」
「ああ…あんな名前初めて見た」
「乙女にブスは酷すぎるわよ、あれは朔良ちゃんがいけないわね」
「まあ、そうだな…」

千哉くんが喋れないままでいる中、芹くんとハルくんは新しいお酒を注文するために店員さんを呼び出しました。


****


外に出ると夜風が肌を撫でて少し冷えます。気持ち良さそうに風に当たる名前ちゃんの手首を掴んで朔良くんはその酔っ払いをお店の裏まで連れていきました。余程風が気持ちよかったのか、一瞬で機嫌を取り戻したように目を細めています。しかしこのまま放っておけばいつぶり返すか分かりません。

「あのさ」

朔良くんが口を開くと名前ちゃんは返事をしながら首を傾けます。いつもはしない仕草にどぎまぎしつつ、こんな酔っ払いに言っても無駄かと一瞬でも考えてしまいますが、今言わなければこの荒れもおさまらないのです。朔良くんは名前ちゃんの頬に手を添えます。

「俺あんたのこと可愛いと思ってるから」
「は〜?ブスが?」
「まあ…ブスなとこが可愛いし」
「つまりブス専ってこと?」
「そうは言ってない。あんただから好きなんだよ。可愛いと思って当然だろ」
「好きと可愛いって関係なくない?」
「好きなら可愛いだろ。名前は可愛い」
「ふうん」

名前ちゃんはへらっと笑ってから朔良くんの胸へ頭をくっつけました。ぐりぐりと揺れていて嬉しそうです。なんてちょろいんだと思いながらも酔っ払いで良かったと安堵している朔良くんは名前ちゃんの頭を撫でてやりました。名前ちゃんの腕が朔良くんの背中へ回ります。

「もっかい言って、好き、可愛いって」
「好き、可愛い」
「もっかい」
「好き、可愛い」
「もーっかい」
「好き、可愛い」
「へっへっへ!そうかそうか!」

完全に言わせているだけなのですが名前ちゃんはご機嫌です。気分がいいぞ!なんて高笑っています。

「帰るぞ」
「よっしゃあ!飲み直すぞ〜!」
「何言ってんの、帰るって」
「皆のとこに帰るんでしょ?」
「あー…もう」

このまま戻っても「朔良が可愛いわたしがいなきゃだめ!好きすぎて無理!死ぬ!って言ってた!」なんて話を盛られて皆に言い回すのは目に見えています。前科があります。朔良くんは名前ちゃんが単純なことと言い方さえ気を付ければ言うことをきいてくれることを分かっていたので名前ちゃんの後頭部をぐっと掴んで名前ちゃんの耳に唇をくっつけました。

「俺は早くあんたとふたりっきりになりたい。…だめ?」
「んっふふ、なってあげよう!」
「ん、いい子」

やっぱりちょろい酔っ払い名前ちゃんはにまにま笑いながら朔良くんの腕に絡みつき、さあ帰るぞ!なんて上機嫌です。朔良くんは思わず笑いそうになるのを堪えながら名前ちゃんを支えて帰路につくのでした。


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ブスって言ってくる朔良ちゃんにいつかブチギレるでしょう。
20160618
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