(( 蕩けていく理性 ))




「ち、やく…っ」

唇が舌でなぞられた後わたしの背後でガチャンと鍵が掛かる音がした。ホッとした緩みからか唇の力が抜けて、そこへ千哉くんの舌が唇を割って入ってくる。舌が熱い。息継ぎの合間に千哉くん、ともう一度漏らしたけどわたしの抵抗なんてお構い無しに千哉くんがわたしの頭の裏に手を回してきたから、諦めて千哉くんのシャツを握った。千哉くんの熱がわたしの舌をなぞり、歯列をなぞり、粘膜をなぞり、口腔全体を犯される。

「ん、う…っ」
「はぁ…っ名前さん…」
「んん、ん」

舌と舌が擦れるときの、ぬるぬるした感触にはまだ慣れない。熱の籠った舌で口の中を這われると気持ちいいし、千哉くんも気持ち良さそうに息を吐く。最近の千哉くんはわたしに男の人としての顔をたくさん見せてくれるようになった。

「ん…っん」

角度を変えてさらに深く、根元をしゃぶるように貪るキス。初めは千哉くんとこんなキスをするなんて想像もつかなかったけど、今ではかなりの回数を重ねている。全然慣れないわたしを置いて千哉くんはする度に上手くなっていく気がして、もう足に力が入らなくなっていくわたしを支えるように千哉くんがわたしの足の間に自分の足を割り込ませて腰を抱いてくれた。

「んあ、ふ、は…っ」

やっと唇が離れ、千哉くんは最後に軽くリップ音を残していった。千哉くんの目が男らしい。

「ち、千哉くん…アイス溶けちゃうよ…」
「すみません…家までずっと我慢してましたから、着いた瞬間抑えられなくて…」
「も、もう…」
「はしたなかった、ですね…すみません」

千哉くんは申し訳なさそうに眉を下げ、わたしの頬を手で包む。まだ物欲しそうな顔をしてるけどそんなこと指摘したら真っ赤になって拗ねちゃうんだろうなあ。でも、と千哉くんが言葉を続ける。

「名前さんが可愛いからいけないんですよ」
「わたしのせいなの?」
「そ、そうです。あなたのせい…」

照れた表情はさっきと違って年下らしくて可愛らしい。ちらちら視線を泳がしながらわたしの反応を窺ってくる。

「分かったよ。ほら、アイスを入れないと」
「はい」

千哉くんから袋を貰うと、冷凍庫の中にアイスを詰めていった。ここ最近はふたりしてアイスにハマっていて、いろんな味を半分こするのがわたし達の楽しみだった。千哉くんはそんなわたしに合わせてしゃがむと、首筋にちゅうっと濡れた音をさせる。

「っひゃ!…千哉くん、いきなり、」
「あ、すみません、手伝おうとしただけなんですけど…」
「もう…またわたしのせい?」
「そうです…あなたといると僕は…」

自分がしたことなのに千哉くんは驚いた様子で手の甲で顔を隠す。真っ赤な顔が隠れきれてなくて可愛い。バカ芹に毒されたのかも、最悪、なんて毒を吐きながら耳まで赤くしている。

「ふふ、千哉くん可愛い」
「なっ…名前さんまで僕をからかうんですか!?」
「ごめんごめん、だって可愛くてさ」
「もう、知りません。僕は男なのに…」
「あー、ごめんって、そういうつもりで言ったんじゃないんだけど…」

アイスを詰め終わって冷凍庫を閉めると、不満そうな目をしている千哉くんと目が合う。

「ほら、部屋に行こう。千哉くんの男らしいとこはちゃんと知ってるからさ、もっと見せて?」
「な、あ、なに、を!」
「作業してる千哉くんを見るの、わたし好きだよ。真剣な顔が男らしいしさ」
「え、ああ、そ、そういう…本当にあなたの言葉は心臓に悪い…!」

千哉くんは拗ねたように部屋に行ってしまって、何を怒ってるのかは分からないけどわたしも後に続いた。千哉くんの部屋は安心する。居心地がいいっていうか、千哉くんの空間に招かれてる気がして心地好い。千哉くんがヘッドフォンを手に取ったのを見てわたしはソファに腰掛けた。千哉くんの作業が捗りますように。横顔が綺麗で、本当に整ってる顔だなあとまじまじ見てしまう。

「かっこいいなあ…」

ぽつりと漏れた声はヘッドフォンをした千哉くんに届いてなくて安心した。




日が暮れてきたので適当に冷蔵庫にあるもので食事を作ると、それをいつものように千哉くんが美味しそうに頬張ってくれる。友達だった頃に比べると千哉くんはいろんな表情を見せてくれるようになった。目を細めて本当に喜んでくれるような表情を見てると胸がきゅうってするし作りがいがある。いろんなものを作ってあげたくなっちゃう。

「ご馳走さまでした」
「ふふ、お粗末さまでした」
「何笑ってるんですか?」
「あ、いや、ううん」

可愛くて、なんて伝えたらまた機嫌を損ねるかもしれないから慌てて首を横に振った。千哉くんは不思議そうに首を傾げるけどバレるわけにはいかない。食器を片そうとすると千哉くんが溜め息を漏らす。

「どうしたの?」
「いや…今すごく幸せだなと思ったんです」
「えっ?」
「急に変なことを言ってすみません。あなたがこうして毎日ごはんを作ってくれて、隣にいてくれたら僕はとても幸せだと思うんです」

千哉くんは優しい笑顔を浮かべてわたしを見つめてくる。穏やかな表情からそんなつもりじゃないのは伝わってくるけど、それってプロポーズみたいに聞こえるよ…。焦って横髪を耳に掛ける。

「そ、そうだね。わたしも千哉くんと毎日一緒にいられたら幸せだと思う」
「…大胆なことを言いますね」
「え!?ち、千哉くんから言ってきたんじゃ…」
「ふふ、そうでした」

千哉くんは嬉しそうに笑ってわたしに手を伸ばしてきた。わたしも千哉くんに触れられるようにおずおずと頭を差し出し、それを撫でられる。あったかくて大きい手に安心する。千哉くんは年下だけど子供扱いされるのは擽ったくて幸せ。

「甘えたがりですね、名前さんは」
「うん…だめ?」
「だめじゃないですよ。僕もあなたにもっと触れたいです」
「千哉くん…」

どちらからともなくキスをする。啄むように何度も重ね、千哉くんがわたしの肩を抱き寄せた。ちゅ、ちゅう、と可愛らしいリップ音に反して千哉くんはわたしの顎を手で引いて口を開かせると、すっかり欲情した様子で舌を入れてくる。可愛い千哉くんも好きだけどかっこいい千哉くんも好きで、心臓がもたない。舌先が触れ、小刻みにちろちろ動かされた。

「んふっ、ぅ」

自分でも分かりやすいくらいにびくんっと肩が跳ねて千哉くんの服を引っ張ると、千哉くんが両手でわたしの頬を包んで上を向かせるようにぐいっと引いてくる。素直に従うとさらに舌先で遊ばれて部屋に僅かに水音が響いた。恥ずかしいのに千哉くんは丁寧に愛撫を続けて、絡まる唾液を吸引する。ぢゅく、なんて千哉くんに似合わず下品な音を立てた後に千哉くんの喉が鳴り、唾液を飲まれることに一層顔が熱くなった。年下にいけないことをさせているような、男の人にリードされているような、微妙な気持ちになる。千哉くんの指が頬から降りてきて項を指の腹でなぞられた。

「っふ、う」

煽るように首を指が伝い、千哉くんにしがみつくことしかできない。そうしているうちに千哉くんの舌がわたしの舌の裏を舐め、ぞわぞわ脳の芯が蕩けるようなキスを続けられる。いっそこのまま溶かしてほしくて、やめたくなくて、もっと欲しくて、でもその先が分からなくて。千哉くんの唇が名残惜しそうにわたしから離れていく。

「っ…名前さん」
「ふ、あ…」
「なんて顔をしてるんです…」

千哉くんがわたしの唇を拭って濡れた指を舐める。煽情的で心臓に悪い。かっこいい千哉くんをこれ以上見てたらどうにかなっちゃいそう。

「ちやくん、ちやくん…、」
「煽らないでください…あなたのせいで本当に歯止めがきかなくなります」

千哉くんがわたしの腰に手を滑らせて、それにぴくんと反応して息が漏れた。千哉くんは一瞬驚いたような顔をしたけどすぐにわたしを抱き寄せて顔を隠すように肩口に顔を埋めてしまう。

「本当に…あなたのせいなんですから」

千哉くんはもう一度、そうわたしを責めた。



END
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無自覚だけどキス以上のことがしたい千哉くん。触れたくて仕方ないって感じが可愛いです。早くしてください。名前様、お付き合いありがとうございました。
20160611
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