「あの…どんなことでもしていただけるんですよね…」
「まぁ…」

さっきから視線を合わせてもらえない銀さんは何を依頼されるのか分からず喉を鳴らしました。入ってきてからずっとこの調子です。喉の奥から絞り出したような声は何とか聞き取れるのですが、床に落としたまま上がらない視線と膝の上で落ち着かない手悪戯を見ているとよほど緊張しているようで恐怖すら覚えます。オイオイ、とんでもない依頼じゃねえだろうな、と銀さんは内心焦りながらも今までこなしてきた依頼を思い出して自分を落ち着かせました。

「あの…ですね」

ソファに浅く腰掛けている女の子がやっと言葉を繋ぐと銀さんは釣られてソファに浅く腰をかけ直しました。手汗がじんわり滲んできます。

「こんなことを頼むのはどうかと思うのですが、でも、どうしても…」
「大丈夫大丈夫、何でもやりますよ」
「あ、ありがとうございます…あの…」

女の子は焦ったように唇を舐めます。

「わたしと、デートしていただけませんか」
「はっ?」




(( 糖分過剰摂取 ))




少しの間だけ彼氏みたいに接してほしいと言われ、軽く事情を聞いてから銀さんは快く引き受けました。依頼主の名前は名前ちゃんというそうです。ふうん、名前ちゃんね、と呼ぶとびくっと大きく肩を揺らしたので相当緊張が伝わります。銀さんはその初々しい反応に悪い気はしません。先月は何とか誤魔化せたお給料を今月も払わないでいたら出ていってしまった新八くんは今日は不在ですし、神楽ちゃんも定晴を連れてどこかへ行ってしまっています。銀さんはこの依頼を独り占めしてしまおうと企んで立ち上がりました。慌てて一緒に立ち上がる名前ちゃんを見てやはり悪い気はしない銀さん。じゃあ行くか、と言うとやっと一瞬視線が絡みました。カァッと赤面して逸らされた視線を見て銀さんは笑います。

「名前ちゃん緊張しすぎ、よっぽど男慣れしてないんだ」
「あっいや…そういうわけでは…」
「敬語いいよ。今から彼氏彼女になるんだろ?」

銀さんは玄関に向かい、名前ちゃんが後を追います。よっこらしょと漏らして座るといつものようにブーツを履きました。

「ぎ、銀時さん」
「ん?」
「あの…嫌じゃないんですか…」

銀さんが立ち上がると名前ちゃんは慌てて後を追うように草履を履きます。外に出ると銀さんは小さく笑いながら鍵を掛けました。

「嫌じゃねーよ。こんな美人が相手なら嬉しい依頼だ」
「びっ、ぎ、銀時さんっ」
「ほら行こう」

銀さんは名前ちゃんの手を取ると名前ちゃんは分かりやすく慌てました。ま、待ってください、これは、どういう、と途切れ途切れに言葉を漏らしていますが、銀さんはその手を引いて歩き出しました。

「はー、寒いな」
「えっあのっ、ぎ、銀時さん、」
「何、彼氏とは手を繋がない派?」
「そういう、わけじゃ…」
「名前ちゃんもほら、敬語禁止ね。今日は恋人なんだから」
「でも…は、はい、頑張るね…」

何これ、超楽しい。自分の一言で直ぐに顔が赤くなる名前ちゃんを見て銀さんはやる気満々です。下手にキャバクラへ行くより初々しい反応をしてくれる女の子を相手してる方がよっぽど楽しいのです。おじさんらしい思考ですが、相手の名前ちゃんはたまったものではありません。

「で、どこ行きたいんだ?」
「ファミレスに行きたいな…」
「ファミレス?そんなところでいいのか?」
「う、うん。お願いします」
「そんな畏まらなくていいって」
「ありがとう、銀時さん」

銀さんは足を止めると、ニヤッと笑いながら名前ちゃんを振り返ります。道の隅っこを遠慮がちに歩いていた名前ちゃんも立ち止まって銀さんを見上げると、銀さんは名前ちゃんの耳許に唇を寄せます。

「銀時。呼んでみな」
「へっ!?銀時さんっ、」
「プクク…」

耳許でぐっと低くなる声を聞いて名前ちゃんは思わず銀さんと距離を取りながら声を引っくり返します。反応を楽しむおじさんもとい銀さんは堪えきれない笑いを漏らして肩を揺らしました。

「反応いいねぇ、名前ちゃんは」
「からかわないでくださいっ」
「悪いって、でも呼び捨てしてほしいのはほんと。彼氏にしてくれるんだろ?」
「それは……無理です…」

名前ちゃんの視線は地面へ落ちていきました。きゅっと唇を噛んで赤くなっている様はとっても愛らしいですが、少々からかいすぎたかもしれないですね。銀さんは名前ちゃんの頭にぽんっと手を置くと、誤魔化すように笑顔を見せます。

「じゃあ銀ちゃんからだな!」
「銀、ちゃん…?」
「万事屋銀ちゃんってことで」
「じゃあ、それで…」

まだ視線が合いません。名前ちゃんの耳が真っ赤なのでますます加虐心が煽られましたが銀さんは何も言わずに歩き出しました。どんなに可愛い反応を見せられても名前ちゃんは依頼主さんであり、銀さんだけが楽しんではいけません。こんな依頼をするくらい男性慣れしてないのに男性について更に変な印象を付けても可哀想だと思い止まり、手を引くと名前ちゃんもまた歩き出します。

「ファミレスで何食いたいの?」
「それは着いてから考える…」
「ふうん、決まってるのかと思った」
「何で?」
「そりゃ行きたがるから。ま、俺は決まってるけどな!」
「ふふ…」

名前ちゃんが小さく笑ったので銀さんは嬉しくなります。何で笑ったのか分かりませんが、初めて見た笑顔に謎の達成感を感じました。もっと彼氏役に徹して喜ばせてやりたいなあと思うのですが、何せ初対面、名前ちゃんの笑いのツボや喜ぶポイントはまだ分かりません。話題だって探り探りです。

「名前ちゃんはいくつなの?俺と結構離れてる?」
「わたしは…、」

こういう調子で質問をしてその答えに対してリアクションを返すだけになってしまいますが、なるべく会話は繋げるようにしました。名前ちゃんは緊張からなのかあまり笑いませんし、それほど口数が多い方でもありませんでしたが、話さなければいけないというような義務感を感じる気まずさは訪れませんでした。しばらく歩いているとファミレスに着きます。

「銀ちゃん、手を…離してもいい?」
「ん?あぁ」

ぱっと手を離すと何だか少しだけ寂しいような気がしました。温もりが離れてつい手を視線で追ってしまっていると、名前ちゃんはファミレスのドアを引いて開けます。銀さんはハッとしてドアを固定してあげて、名前ちゃんは小さくお礼を行って中に入りました。店員さんが、いらっしゃいませ、とすぐに近寄ってきました。

「何名様ですか?…あっ」

店員さんは名前ちゃんと視線が合うと笑顔を溢します。銀さんは首を傾げました。名前ちゃんは愛想笑いを向けながら「ふたりです」と返します。

「おふたり様ですね、それでは奥のソファー席へどうぞ」
「ありがとうございます」

名前ちゃんが進み、銀さんも後を追いました。窓側のソファー席に名前ちゃんが腰を下ろすので、銀さんもその向かいに腰を下ろします。店員さんはにやにやしながらメニューを差し出し、銀さんの顔を見つめているのです。

「ご注文御決まりになりましたら呼び鈴で御呼びください」
「はい」
「ふふ、失礼致します」

銀さんはじぃっと名前ちゃんを見つめます。にこにこと見せていた笑顔がスッと消え、銀さんの視線に気付いたようです。笑ってる顔可愛かったのにな、なんて思いながら銀さんは頬杖をつきました。

「何、知り合い?」
「え?」
「さっきの店員、仲良さそうだったけど」
「あぁ…そう、だね」
「ん?」
「う、ううん、それより何食べるの?」

名前ちゃんが視線を逸らしたので、逃げられた、と銀さんは感じます。こう見えて人の感情には敏感なので隠すなら放っておくかと考えた銀さん。メニューを開き、読んだふりをします。

「おし、決まった!」
「ええっ、早いね」
「言っただろ、頼むもの決まってるって」
「そうだった。わたしも…決まった!」
「もっとゆっくり選んでいいのに」
「ううん、よく知ってるから」

ピンポーン、と呼び鈴を鳴らす名前ちゃんを見て銀さんは再度首を傾げます。よく知ってるってどういうことだ? 店員さんがすぐ注文を取りに来ました。

「はい、御伺いします」
「ええっと、とろとろ卵とチーズのオムライスをひとつと、」
「チョコプリンのキングブラウニーサンデーひとつ」
「以上で宜しいですか?」
「はい」
「畏まりました。只今お冷やをお持ちします」

店員さんが去っていったのを見て銀さんはまた頬杖つきます。

「よく知ってるって、名前ちゃんもよくここに食べに来るの?」
「えっ、いや、うんまあ、そういうことかな」
「ふうん。全部食べた?何がオススメ?」
「大体は…。ここのクラブサンドはすごく美味しいよ。ファミレスでサンドイッチなんてって思うかもしれないけど絶対びっくりするから是非食べてみて!」
「へえ、そうなんだ」
「それからこの、野菜のスープご飯もすごい美味しいの。寒い日はこれで暖まるんだ」
「幸せそうだな」
「え?」
「何でもねーよ」

メニューの話をしている名前ちゃんは目がキラキラ輝いていて、先程まで口数が少なかったとは思えないくらい説明してくれます。余程ここのご飯が好きなのでしょう、じゃあこれは、これは、と質問を重ねると名前ちゃんは嬉しそうにオススメしてくれます。甘いものの話になると銀さんもそこそこメニューに詳しく、これはここが良かった、これはプリンが白かった、なんて言い合いました。たまに笑ってくれるようになって銀さんは嬉しくなります。店員さんがお冷やを置きに来たとき以外ふたりの会話は弾みました。

「御待たせしました」

大盛り上がりを見せているうちに料理が運ばれてきました。デミグラスソースのかかったとろとろのオムライスと、ひとり分の量ではなさそうな大きなパフェ。各々の目の前に置かれますが、名前ちゃんは銀さんにストップをかけます。

「待って!口の中が甘くなる前にこっちを一口食べませんか!」
「え、いいの?」
「オムライスが一番のオススメだよ!チーズが絡んでとろとろで本当に美味しいの!」

名前ちゃんはシルバーボックスからスプーンを取り出すと銀さんに差し出しますが、銀さんは興奮気味の名前ちゃんに微笑みかけると、ぱかっと大きく口を開きました。へっ、と名前ちゃんの情けない声が漏れます。

「美味しそうなオムライス、名前ちゃんのあーんでもっと美味しく食べたいなぁ」
「えっ、え、」
「食べさせてくれるよなぁ?彼女だもんなぁ?」

微笑みがどんどん悪魔の表情になっていきます。にやにやと目を細める銀さんは固まってしまった名前ちゃんを舐めるように見つめ、圧力をかけました。名前ちゃんの視線がちろちろ泳ぎます。

「あ、あのですね銀ちゃん、こういう公の場ではそんなこと、しちゃだめなんだよ…」
「だめって誰が決めたのぉ〜?そんな決まりあまりにも切ない、悲しくて銀さん泣いちゃうな〜」
「え、えっと…」
「ということで、はい」

ぱかっ。大きな口を開けるので名前ちゃんはウウッと眉を下げ、それからキョロキョロと回りを見渡します。近くの席は空いてますし、店員さんもいません。名前ちゃんは渋々オムライスにスプーンを入れると、とろっと伸びるチーズが切れるのを待ってから銀さんの口へ突っ込みました。あまりの勢いに銀さんは口を押さえます。

「待っ、アツッ!は、はふ、アッッツ!えっ、何、ふーふーはしてくれないの?はふ、熱くて味分かんないんだけど…アッツ!」
「ごめんっ、大丈夫!?」
「うんまあ美味しい気がしたし、大丈夫…」

銀さんは舌を外気に触れさせるために出しますが、ヒリヒリが止まないので水を流しました。その様子を見てすっかりしゅんとしてしまった名前ちゃん。せっかく心を開いてくれたのにこれではいけません。

「あー…、その、名前ちゃんもこれ食べてみる?」
「大丈夫です、味知ってますから…」
「あ、ソウ…」

すっかり敬語に戻ってしまいました。もぐもぐとオムライスを静かに食べ始める名前ちゃんを見て銀さんも少しだけ落ち込みます。笑ってくれてたのにな、と思うとどうにかしたくなるのです。

「名前ちゃん」
「はい」
「それ、俺と間接キスだな」
「はい」
「うん」
「…、間接キス?」

名前ちゃんはワンテンポ置いてから自分の使っているスプーンを見つめ、気付いたようにシルバーボックスに視線を遣ります。未使用のスプーンがきちんとシルバーボックスに入っていました。名前ちゃんはゆっくり銀さんに向き直ると、銀さんは口許を緩ませながら名前ちゃんを見つめていました。

「ぎ、銀ちゃん…これは…!」
「いいじゃあん、俺ら恋人だろ」
「違うんですそんなつもりは!」

名前ちゃんのお顔はまっかっか、銀さんは耐えきれず吹き出しました。笑われた名前ちゃんはあわあわと焦りますが、銀さんは自分の口許を押さえてクックッと喉を鳴らします。銀さんのことを意識しまくって緊張していたわりにはあっさりスプーンを共有してしまうなんて面白い子です。

「銀ちゃんっ、いつまで笑ってるの」
「くく、わり、だってお前ほんと面白ぇ…」
「もう…怒りますよ」
「怒る名前ちゃんも可愛いよ」
「からかうのはやめて!」
「ハイハイ」

銀さんは名前ちゃんの顔をじっと見つめます。今度はからかおうと意地悪そうに細められた目ではありません。名前ちゃんもそれに気づいてじっと見つめ返します。

「なぁ、名前」
「えっ」
「…って呼んでもいい?」
「いい、けど」
「もっと名前のこと知りたい」
「銀ちゃん…、」
「いろいろ聞いてもい?」

銀さんは優しく口許を緩め、視線を絡ませてきました。穏やかで、でもどこか情熱的な視線に名前ちゃんはドキッとします。こくりと頷いて見せると、銀さんは小さく笑ってからスプーンを持ち直し、パフェをつつきました。

「どこから聞こうかなー」

銀さんは楽しそうに笑いながら生クリームを掬います。何を聞かれるのか身構えてしまう名前ちゃんはなかなか手が進みませんでしたが、その後の質問はテンポ良く答えられるようなものばかりで、ふたりは食べ終わるまでたくさんの会話を繰り広げました。



レジに立ち呼び鈴を押すと、ありがとうございます、と小走りにレジ来る店員さん。伝票を渡すとそれを読み込み、店員さんが金額を読み上げました。名前ちゃんがお財布を開くと銀さんがそれを手で制し、自分のお財布からお会計をしてしまいます。

「えっ銀ちゃん」
「いいから」

思わず銀さんを見上げていると、店員さんは小さく微笑んでからレシートを渡してきます。

「こちら2円のお返しとレシートです。いい彼氏さんですね、苗字さん」
「えっ!」
「そういえばもう再来週のシフト出ましたけど見ていきます?」
「えっ、あ、また今度で大丈夫です…」
「そうですか。じゃあまた火曜日宜しくお願いしますね。彼氏さんもまた是非来て下さい」
「あぁ、はい、ごちそーさまでした…」

ドアを押してあげると名前ちゃんは気まずそうにそそくさと外に出ていってしまいました。ふうん、ここで働いてんのか。銀さんは名前ちゃんに続いて外へ出ます。

「さ、次はどこ行くかー」

外で立ち止まっている名前ちゃんの手を取って握ると、名前ちゃんはビクッと肩を揺らして銀さんを見上げます。少し怯えたような表情、銀さんは名前ちゃんの気持ちが読めません。

「…どーした」
「引かないの…?」
「え?」
「わたしがここで働いてること。銀ちゃんたまに食べに来てくれてたから、それで知って、こんな依頼を…」
「あぁ何、俺のこと前から知ってたの」
「やっぱり、引くよね…」

名前ちゃんは視線を落として横髪を耳に掛けます。銀さんはまた合わなくなった視線に小さく息を吐き、名前ちゃんの頭をぐしゃぐしゃ撫でました。びっくりした名前ちゃんはそのまま固まります。

「バーカ引かねえよ!言ったろ、こんな美人に依頼されるなんて嬉しいことだって。前から知ってて俺を選んでくれたなんて尚更だよ」
「銀ちゃん…」
「でも俺のでっかいパフェ見て驚かなかったの、そういうことだったんだな」

ニィッと笑うと名前ちゃんは眉を下げ、すっかり目に涙を溜めてしまいました。泣かれるのは少々苦手な銀さんは焦ります。

「ど、どうしたの名前ちゃあん、ほら言ってごらん、おじさんなんにも怖くないよ〜!そうだ、クレープ買ってあげよっか!ネッ!」
「さっき、呼び捨てにするって言ったぁ…」
「え?」
「ちゃん付けに、戻しちゃうの…?」

名前ちゃんはぐすぐす肩を震わせながら銀さんを見上げます。涙の膜が張っていてキラキラ輝く瞳に、銀さんが心臓がギュンッとなりました。

「あ、あれ嘘でしょ、何ギュンッて…どういうこと…」
「銀ちゃん」
「はっ、はいっ」

胸の辺りをきゅっと握って自分の心臓を落ち着かせようとしますが、名前ちゃんはそれには気づきません。

「今日は付き合ってくれてありがとうございました…、少しの間でしたが、た、楽しかったです…っうっ」
「ええ〜、泣かないで!ネッ!俺もすっごい楽しかったです!ていうかまだファミレスしか行ってないけどこれでいいの!?」
「1回でいいから、っ、銀ちゃんと食べてみたいと、思ってたから…」
「ああ〜!そうなんだ!うん!?えっ、そうなの!?男慣れしてないから頼んだ依頼じゃなくて!?」
「違います、わたし、銀ちゃんの、ことっ、」

名前ちゃんの涙がついにぼろっと落ちた瞬間、銀さんは名前ちゃんの唇へ人差し指を押し付けました。言葉の先を塞ぐように触れただけなのに、想像以上にふにっとしていてまた心臓が鳴ります。銀さんはバクバクと煩い心臓をどうにか落ち着かせようとしますが、その術がないのです。

「なぁ、名前。おじさんいい歳してはしゃいじゃうんだけど…」
「え…?」
「もっと名前のこと知りたくなってきた。1日だけじゃ全然足りない」
「そ、それは…」
「だから俺からも依頼してい?…来週も俺とデートしてくれませんか」
「えっ、銀ちゃん、」
「だめ?だめでも頼む…、なぁ」

銀さんは名前ちゃんの頬に手を添えます。すっかり赤くなっている名前ちゃんの頬。こんなにも好意を剥き出しにされると銀さんだって照れてしまいます。

「でも、そんな、」
「今日のお代は俺の依頼代ってことにしてくんない?どうしてもだめ?」
「だめじゃ、ないです。わたしは嬉しいけど銀ちゃんが、」
「俺が頼んでるんだっつの」

な?だめか?なんて切なげに眉を寄せられると名前ちゃんはどうしていいか分からなくなってしまいました。銀さんとデートできたのも夢みたいなのに、来週もなんて。頭がぐるぐる回ってきてしまいます。

「あ、あの…、宜しくお願いします、銀ちゃん…!」
「はー…、良かった。じゃあまた来週な。万事屋の番号は分かるよな?都合いい時間分かったら電話して」
「うん、そうするね。楽しみ…」

名前ちゃんが幸せそうに目を細めたのを見て、銀さんはふにゃっとしたようなぎゅうっとしたような得も言われない感情に動揺します。心臓がとにかく煩く、手汗が滲んできました。オイオイ嘘だろ、俺白夜叉だぞ、何甘酸っぱい恋愛始めようとしちゃってんの〜。銀さんは自分を宥めようとしますが、心臓は熱くなった血液をせかせかと全身に届けようと必死に動いています。

「じゃあ行くね、今日は本当にありがとう。また来週…」
「おう、じゃあな」

気を付けないと声が引っくり返りそうです。名前ちゃんが背を向けて歩き出すと、引き止めたいような、まだ足りないような、そんな気がします。でも、だからこその来週の約束です。銀さんは思わず名前ちゃんに近付いて手首を掴むと、驚いて銀さんを見上げる名前ちゃんを静かに見つめました。

「来週は、銀時って呼んで」
「えっ」
「心の準備しとけよ」

それだけ告げて手首を離すと、名前ちゃんはその場に縫い付けられたように動かずに真っ赤な顔で銀さんを見上げるばかり。気恥ずかしくなって銀さんから背を向けて万事屋へ歩き出します。銀さんは名前ちゃんの手の温もりを思い出すように自分の手のひらを撫で、来週への期待を膨らませて口許を緩めるのでした。


END
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大好きなフォロワーさんへ。数億年ぶりに書いた銀魂なのでキャラ崩壊してないか不安です。お誕生日おめでとうございます。
20170128
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