※主人公視点

「名前、今週の日曜、暇か?」
「えっ?」

やっと念願の初デート。誘ってきた青峰くんは自分の項に手を当てながら照れ臭そうな顔をしていた。きゅうううん。当然のごとく私は二つ返事でオッケーして日曜日は2人っきりで出かけることに。どきどきするなあ、何着てこう。青峰くんは私服までかっこいいんだろうなあ。
そんなことを考えて胸を高鳴らせていたのははっきり覚えている。




(( 初デート ))




ミーンミンミンミンミーン…

蝉の声が煩い。じりじりと肌を焦がす炎天下で彼の目はきらきらと光っていた。

日曜日、やっとこの日がきたと嬉しく思っていたのに。

「っしゃー!捕るぞー!」
「捕るって何を!?こんなことだろうとは思ってたけどね!?」

必死に日焼け止めクリームを塗る私。ああもう焼ける。青峰くんの肌が焦げているのは地黒なんかじゃなくて毎年こうやって焦げに来てるからなんじゃないの?
彼は、真顔で私に言い放った。

「ケイヴ・クレイフィッシュ」

何この呪文。
私は冷ややかな視線を送ることしかできなかった。

「けいぶくれ…え?何?」
「見てりゃ分かる」

早速というように青峰くんはズボンの裾を捲り上げる。太陽の光を浴びて綺麗に輝いている川の中に入ろうとしているのだと予想はつく。つくけど、何してるのこの人。

「青峰くーん…、今日初デートだよねぇ?」

日焼け止めクリームを塗り終えた私は青峰くんに向かって呟いた。青峰くんはきょとんってした顔でこっちを見たあと、無邪気な笑顔をこぼす。

「ああ、だから絶対捕まえてやるよ!」

要らないなんて言えない笑顔。きらきらしてて可愛い。青峰くんのそんな笑顔初めて見た。きゅんって胸が鳴って、じゃぶじゃぶと川の中に入っていく青峰くんを見つめた。
それにしてもケイヴ・クレイフィッシュって何よ。携帯で検索してみた。

“アメリカの真っ暗な洞窟の中に棲息。色は白くて目は退化しているが175年も生きると言われている長寿のザリガニ”

もう、青峰くん何考えてるの、ほんとばか。つまりケイヴ・クレイフィッシュなんて日本にいないし、そんな簡単に見つかるようなザリガニでもない。青峰くんがザリガニ捕るの大好きって知ってたけど、それにしてもこれはばか。ばかすぎて泣けてくる。初デートにザリガニって。

「青峰く…、」

話し掛けようとして顔を上げると青峰くんはザリガニを片手にこちらを向いた。

「ん?」

きらきらした目。本当に楽しそう。ちょっと前までこんな目でバスケしてたなあ、と懐かしく思う。今は興奮しすぎてぎらぎらした目でバスケしてるけど。
そう思いながらうっとりと青峰くんを眺めていたら、急に何を思ったのか川をじゃぶじゃぶと歩いて私の方へやってくる。

「ほら」
「え?ぎゃーー!!!」

ひょい、とザリガニを近づけられ、思わず後ずさる。ひょいじゃない、ばか!じろっと睨んだら青峰くんは首を傾げた。

「あれ?ザリガニ欲しかったんじゃねえのか?」
「言ってないでしょ、そんなこと!」
「いや、目が訴えてた」

青峰くん無邪気で可愛いな、の目をそんな風に解釈されていたなんて。げんなりと口を開く。とりあえず目の前でぎちぎちとハサミを動かすザリガニを何とかしてほしい。

「私は、青峰くんのが欲しいよ」

はあ、とため息を漏らす。何で初デートにザリガニなんかプレゼントされなきゃならないんだろう。そりゃあさ、青峰くんはザリガニ貰えば嬉しいかもしれないけど、私は違うもん。女の子のこと何も分かってない。青峰くんが欲しいもの=私の欲しいものじゃないのに。
もやもやしてたら私の目の前に影が落ちる。

「、っ」

言葉が出なかった。どうしたのって聞く前に唇を塞がれた。青峰くんの顔が近すぎて、ぼやけてよく見えない。でもばかな私だって分かる、今私達、ちゅーしてるんだ。

「…、ん、む」

ちゅ、ちゅ、と啄むように口づけられる。角度を変えて何度も何度も。やばい、どうやって息したっけ。くらくらする、あ、だめ、青峰くん大好き。

「んっ!?」

突然、私の耳に響く低音。青峰くんが声を上げた。びっくりして目を開けると、青峰くんは私の肩を掴んで唇を離し、視線を手元に落とす。

「いってぇええ!」
「、うわ」

私も一緒になって手元を見たら、青峰くんの手、ザリガニに挟まれてる。必死にぶんぶん手を振る青峰くんが面白くて、ちょっとだけ可愛くて。

「ぷ、あははは!」
「…てめー、何笑ってんだよ」

涙目な青峰くんも可愛い。ああもう最悪、かっこわるいって言ってやりたいのに、可愛い。

「初デートなのに川に連れてって彼女そっちのけでザリガニに夢中の彼氏とか最悪。やっといい雰囲気になったらザリガニに邪魔されるし。今日は散々だよ、ほんと」

文句を言ってやると青峰くんは少しだけ唇を尖らせた。反省はしているんだろうけど、何その顔、すごく自信に溢れてる。

「けど、お前も楽しそうじゃねえか」

尖った口はどこへやら。もうニヤリと不敵な笑みを浮かべている。どっから出てくるの、その自信。青峰くんってどや顔以外できないわけ?
青峰くんの大きな手が私の頭にぽんと置かれた。うわ、何するの、まさかその手でザリガニなんか掴んでないよね、なんて言う暇もなく、次の青峰くんの言葉に思わず口が開いた。

「お前もザリガニ好きだったんだな」
「は、」

えええええ何言ってるのこの人!?意味分かんない。だから自分の好きなもの=私の好きなものにしないでくれない!?そもそも青峰くんそんなにザリガニ好きなの!?
ははーんとどや顔の青峰くん。もう私頭痛い。こんなばかな彼氏をもつなんて。やっぱり私、黄瀬くんにしとくんだった、なんてぼんやり思った。

「青峰くん、ばかすぎ」
「なんだと」
「次は普通のデートだよ」
「じゃあケイヴ・クレイフィッシュはどうするんだよ?」
「そんなの一生捕れないです」

ぴしゃりと言い放つと青峰くんはムムッと眉を顰めた。

「んだよ、夢がねえな。だから貧乳なのかお前」
「女の子の胸には脂肪がついてるだけで夢や希望なんて詰まってません」
「…かわいくねー」

青峰くんはさらに不機嫌そう。

「来週またここに集合だからな」
「は、何で…」
「俺といたら夢と希望が詰まって、その乏しい胸も成長するだろうよ」

だから、な、ケイヴ・クレイフィッシュを一緒に探そう。
そういう青峰くんはやっぱり目が綺麗。私よりザリガニが好きみたいな顔。小学生みたい。

「…ばかじゃないの」
「ザリガニとおっぱいには男の夢と希望が詰まってんだ!」
「はーあ、」

深くため息をついたら青峰くんは私の顔を心配そうに覗き込んできた。あ、嘘、チラッと顔見たら安定のどや顔だった。何でどや顔されながら覗き込まれなきゃなんないの。少しは心配してよ。もう、ほんと、やな男。

「ふふ、仕方ないなぁ」

こうやって許すから調子乗るのに、やっぱり恋ってずるい。好きだと何でも許したくなる。さすがに私よりザリガニを愛してるとか言われたら別れるけどさ。青峰くんはにやにやして私の胸をきゅ、と掴んだ。

「1ヶ月でワンカップ増やそうぜ」
「そんな育たないし、そんなペースじゃ爆乳になるよ」
「ばーか、でかけりゃでかい方がいいんだよ、俺は」

助けてください。誰かこの人どうにかして。
それすら笑って許しちゃう私は青峰くんにハマりまくってるんだろうなあ。


END
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先日ザリガニ特集番組を見て、これは青峰くんで書かなければと思い立ちました。が、こんなに難しいなんて(笑)青峰くんがまだ掴めていません(笑)どや顔ってことしか分かりませんでしたが、また挑戦してみます。名前様、お付き合いありがとうございました。
20120722
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