“今響ヶ山高校と練習試合していますよ”
黒子からメールをもらったので来てみたのだが、まさかこんなことになっているとは思っていなかった。

「あー、最悪」

来なきゃ良かった、なんて呟いてみてももう遅い。そこは女の子達で溢れていた。




(( 浮気性の彼 ))




──スパァッ
またシュートが決まった。スリーポイントがあそこまで綺麗に入ればとても気持ちが良い。きらきら汗を光らせる彼もとても素敵で、髪を掻き上げる仕草や汗を拭う仕草、仲間とのハイタッチなど、全てが絵になる。それを女の子達が放っておくはずがない。

「キャー!!黄瀬くんかっこいいー!!!」
「黄瀬くん頑張ってぇー!!!」

黄色い声援が飛び交う。これでは相手チームが堪ったものではない。

(誰か止めさせてくれないわけ…)

ぶすっと唇を尖らせながらそう思った瞬間、彼はファンの女の子達にニコリと微笑みかけた。さすがはモデル、そんな笑顔もとびきり素敵で。

「「きゃあああああああ!!!!!」」

これ以上ないくらい盛り上がる会場。何ファン煽ってんだよ、と先輩に怒られて苦笑いを見せる彼がここからでもよく見える。たかが練習試合なのにファンは興奮しきっていた。

「黄瀬くん最近ますますかっこよくなったよねー!」
「あと優しくなったっていうか!」
「黄瀬くんの彼女になれたら幸せだろうなぁ…」

そんな言葉を口にするファンにギリリと奥歯を鳴らした。幸せどころか彼がモテすぎて毎日不安で押し潰されそうだというのに。

(彼女は私だっつーの!)

心の中であっかんべーすると、彼女は体育館を出ていった。




水道場まで来ると、華奢な男の子がこちらへペコリと頭を下げた。

「どうも」
「あ、テツくん」
「すごいですね」
「え?あぁ、あれね」

久しぶりに会ったというのに大した挨拶もなく黒子は体育館を眺めていた。

「ファンじゃなくて、黄瀬くんですよ」
「涼太?」
「はい、すごく成長しています。また強くなったんですね」
「ふーん」

興味なさそうに呟くと苦く笑われる。バスケに興味なさそうな態度が全面的に見えてしまっているからだ。

「相変わらずバスケに興味ないんですね、苗字さん」
「まあね。興味あるのは涼太のことだけだし」

バスケやってるときの涼太は1番かっこいいと思うけどね、と呟いたら黒子はふふと口元を緩めた。

「だからファンが増えちゃうんですけどね」
「うるさいなあ、もう」

ファンができるのは仕方ないことだと思うが、独占したい気持ちもあるのだから何とも言えない。彼女は体育館へ視線を戻した。




「きゃー黄瀬くん!!!お疲れー!!!!」

136対86、圧勝だった。
1番近くの女の子からタオルを受け取った彼は体育館の入り口から顔を出している彼女と黒子にやっと気がつく。

「黒子っち、名前!来てくれてたんスか!」

ブンブンと手を振りながら走ってくる姿はまさに犬。黒子はため息をついて彼を見上げた。

「彼女のタオルより他の子のタオルですか」
「え?あ、」

きゅう、と握っている彼女の手にはタオルが見え、彼は完全に動きを止める。

「いいよテツくん、別に涼太になんか渡そうと思ってなかったし」
「うわあああごめんッス!だって俺、名前が来てくれるなんて思ってなくて…」
「へー、私が来ないときはいつも別の女の子からタオルもらってたってわけ」
「ち、違うッス!いや違くもな…あわわわ黒子っちー!助けてくださいよ!」
「いやです」

黒子の目にはメラメラと“リア充爆発”の文字が燃え上がっていた。どうやら彼女の肩を持つようだ。彼もそれを察してしょぼんと眉を下げた。

「そんな浮気を責めるような言い方しないでくださいよ…タオルもらっただけじゃないッスかぁ…」
「タオルは浮気に入るのよ」
「ええっ!?俺浮気しまくっちゃったじゃないッスか!?」
「あと他の女の子に笑顔見せるのも禁止。あれも立派な浮気だからね」
「えええっ、そうだったんスか!?俺もうモデルできないッスよ!」
「ってゆーか、涼太はもう生きてることすらアウト」
「えええええっ!?どういう意味ッスかぁ!!!」

きゃんきゃんと吠える犬のように叫ぶ彼。そんな2人のやり取りを聞いて黒子は視線を床に落とした。

「聞いているだけで恥ずかしいです。でも黄瀬くんには素直に妬いてると言わなければ伝わらないと思いますよ」
「ちょっ、テツくっ…」
「へ?妬いてる、ッスか…?」
「妬いてない、ばか」

カァッと顔が赤くなる彼女を見て、つられて彼も赤面した。お互い何となく目が合わせられずチラチラと視線を泳がす。

「え、えっと…あの……」
「何よ」
「何に妬いてるッスか?」
「…………」

それでも彼は鈍感だった。あれほど試合中に騒がれたことももう忘れているような口調で。

「あんたほんとばかなんじゃないの?」
「え、え、何スか」
「小さい頃から騒がれてたからもう何とも思わないってわけ?それともモデル始めてからよくあることになったから慣れたってわけ?」
「名前、」
「ああもう!何でこんな男がモテるのよ!」

うがあ、と叫ぶと黒子が小さく笑った。テツくんの笑顔久々に見たなぁなんてぼんやり思いながら彼に背を向けて帰ろうとする。

「ちょ、名前!?どこ行くッスか!?」
「もう帰んのよっ」
「え、えと、名前、」
「ついてこないでばか!」

彼女の後を追うべきなのか言うことを聞いて追わないべきなのか、うろうろと落ち着きのない姿までもが犬を連想させる。こんなに大きいのにそれはまるで子犬のような行動で。

「名前!あの、何に怒ってるか分からないッスけど…、俺は名前が大好きッスよ!!!!」

刹那、体育館がしんとする。彼の声だけがよく響いて、これでは会場にいる全員に愛の告白を聞かれてしまったみたいだ。鈍感はこれだからこわい、と黒子はため息をついた。

「なっ…あんたばかじゃない!?皆いんのよ!?」
「え?ぎゃー!!恥ずかしいッス!!!」
「ほんとばかでしょ」
「で、でも名前怒ってるし、俺が好きなのは名前だけなのに俺のせいで不安にさせたみたいッスから…」

あわあわと取り乱す彼。いつもは笑顔を見せれば騒がれるはずなのに彼女の機嫌を直すのにはかなり必死だ。今も顔を真っ赤にさせて涙目になっているのにまだ彼女に自分の気持ちを伝えようとしている。

「あの…名前、俺名前だけッスよ」
「ああもういい!分かったから!」
「ほ、ほんとッスよぉ…」
「分かった、信じる、信じるから黙りなさいっ」

カァァッと赤面する彼女を見てハッと顔を上げる。自分達がどれだけ注目を浴びているか痛いほどに思い知らされて。

「……ッス…」

下を向いた彼の顔は火が出ているように赤い。その顔を見ているだけでも彼からの強い想いが十分に分かる。

(分かるけど…、)

チラッと後ろに目をやれば女の子達の視線。もしかしてあの子黄瀬くんの彼女?とザワザワされている。こんなところにもいちいち妬いていたらキリがないとは分かっているのだが。

「…ムカつく」
「へ?」
「涼太、今日は部活終わるまで待っててあげるから一緒に帰るよ」

じろっと睨みながら言うのにそんなことに気づかない彼はパァッと無邪気に笑う。

「えっ、いいんスか!?夕方になっちゃうッスよ!?」
「いいから、今日は一緒に帰るの」
「嬉しいッス…!!!」

彼はふるふると感動して涙目になる。思わず笑いそうになるのを必死に堪えた。

「じゃあ俺戻るッスね!名前、また後で!黒子っちも今日は来てくれてありがとうッス!」
「いえ。じゃあ練習頑張ってください」

彼女の隣にずっといた黒子がさらっと答える。途端に彼女はぶわわわっと顔を赤くした。

「テツくっ…」
「ずっといましたよ」
「聞いてたんだね…」
「はい。こっちまで赤面してしまいそうでした」
「うわあ消えたい…」
「でも、」

“照れてる苗字さん、意外と可愛いです”
黒子の口からは一生出ることがないと思っていた内容がぽろりとこぼれる。彼女はギョッと目を見開いた。

「な、えっ、」
「じゃあ僕帰りますね。失礼します」

黒子は驚く彼女を置いてすたすたと体育館を出ていった。

(自意識過剰か…桃ちんには普通に可愛いって言ったことあるもんね)

彼女はぐっと背伸びをした。

(でも、涼太以外の子に好意を寄せられたら、今はそれが誰でもその場で断っちゃうだろうな)

ぼんやりそんなことを考え、彼を見た。無邪気に先輩とじゃれあっている。

(ばかだけど…好き)

先輩に叩かれているところも、めげずに絡もうとしているところも。先輩の周りを犬のようにくるくる回って構ってもらっているように見える。そんな彼にも不本意だが心臓がきゅんと締め付けられた。


END
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響ヶ山高校って何ですか。ネーミングセンスなくてごめんなさい2回目でごめんなさい。
黄瀬くんがわんこすぎて困ります。黄瀬くんは無自覚な浮気者になりそうでこわいですね。気持ちは浮気してないけど行動が浮気、みたいな。あの子は友達だと思っている子とは平気でハグとかしちゃうと思います。そんなモテモテな黄瀬くんを書きたかっただけのお話でした。
名前様、お付き合いありがとうございました。
20120726
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