(( 舌の温度 ))




「は?今なんて?」

この男は今何を言ったのか理解が出来なかった。目の前で何でも無さそうにぼりぼり頭を掻くその男は気だるそうにこちらへ視線を投げ、もう一度口を開く。

「だから、ディープキスで移したんだって」
「ディープキス」

復唱すると、なに、と短く言葉を吐かれる。なにって、こっちが聞きたい。兄弟でディープキス?冗談でも普通はしなくない?

「よくするの?」
「は?」
「おそ松くんとはよくするの?」
「するって何を」
「ディープキス」
「ばかなんじゃない?」

相変わらず冷めた目をしたその男はわたしの質問に呆れたように目を細める。

「そんな趣味ないよ」
「でも、してるじゃん」
「冗談だって、分からないの?」
「冗談なら他のひとにしていいの?」
「何が言い、」

やっとこちらを見たと思えばそこで言葉を止めた。男の口角がにたぁ、と上がる。普通であれば恋人の笑顔は嬉しいものだけど、この男の場合は違う。何か良からぬことが起きる前兆だと分かっているわたしはその笑顔にぎくりとした。

「なるほどね」
「なに」
「おそ松兄さんとしてること怒ってるんだ」
「怒ってるよ」
「妬いてるんだ」

男はわたしの横髪を耳に掛け、わたしの髪を撫でる。まるでわたしが猫であるかのように毛並みを確かめられ、わたしは落ち着かなかった。

「どうしてほしい?」

男の手が触れる髪が揺れる。一瞬にしてわたしが怒っている理由を当ててしまった男にわたしは視線まで揺らしてしまった。気づいていて、それでもわたしの口から言わせようとしてくる。いつもそうだ。

「なに、が」
「してほしいんじゃないの?おそ松兄さんとしたこと、怒ってるんだもんね。恋人の自分はまだされたことがないのに兄弟としてたら嫌な気持ちにもなるのかな」
「なに、」
「もう1回聞くけど、どうしてほしい?」

男の目はわたしから逸らされなかった。わたしの答えが分かっていて、それをじっと待っている。ずるいやり方ばかりして、こういうところが嫌いだと思うのに逆らえない。男の手がわたしの輪郭をなぞり、ぐいっと前を向かされる。

「わ、わたしにも、して…」

自分でもびっくりするくらい弱い声が出た。聞こえてるか不安になって彼の目を見ると、見たことのないギラギラした目をしている。

「舌出して」

ドキドキしすぎて言葉がよく聞こえなかった。理解してないくせに体はしっかり反応して、わたしの口はおずおずと開かれる。まだ舌を出していないうちに、男は噛みつくように唇を重ねた。

「ん、う」

ぬる、と口内に舌が入ってくる。強引に舌を絡め取られ、吸われた。熱いほどのそれに絡まれると溶けてしまいそうな感覚に陥る。唾液が混ざり合って厭らしい水音が口から漏れた。息が、苦しい。

「ん、ふう」

ぢゅぷ、と口から零れそうだった唾液を吸われた。男の喉からごくんと音がして、わたしの唾液が飲まれたと理解する。途端に恥ずかしくなり、思わず舌を引っ込めようとしたら男は今までねっとり絡ませていた舌を尖らせ、わたしの舌先をちろちろ遊ぶように舐めた。

「ぁっ、ふ」

背がぞわぞわする。今までこんなキスをしてこなかったせいか、キスでここまで気持ち良くなれることを知らなかった。舌先を嬲られる度びりびりと痺れ、居ても立ってもいられずに男のパーカーを掴むと、男はそれに手を重ね、更に舌先を舐めた。

「あっ、んん、は、」
「…」

全体を嬲られるより舌先を遊ばれた方が遥かに刺激が強く、勝手に腰が跳ねてびっくりした。男はぬぷっとわたしの口の中から舌を引き抜くと、相変わらず細い目でわたしを見つめる。熱っぽい表情にこちらまで酔いそうになって、乱れた息のまま男を見上げた。

「いちまつ…」
「あのさあ」

男がわたしの体をぐっと押した。一瞬何が起きたか分からなかったけど視界が一変し、天井を見上げながら男の手がわたしの顔の横に付かれるのを感じる。男はわたしを見下ろしながら、わたしの足の間に自分の体を捩じ込ませた。

「おそ松兄さんみたいにこれで終わりなんて無理だけど」
「えっあの」
「分かってて強請ったんだよね」

男の手がわたしのスカートの中を滑る。

「ひゃ、あ」
「だって僕らは男と女だから」

わたしに反論の隙を与えず男は唇を塞いだ。再び口腔に捩じ込まれる舌の熱さが心地好くて、癖になりそう。舌の裏をなぞられ、この先何をされるのか分かっていてわたしは体から力を抜いた。


END
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一松にべろちゅーで風邪うつされたい病です。名前様、お付き合いありがとうございました。
20160112

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