柱は多くの人命を背負って闘っている為、担当する地域も鬼の数も他の鬼殺隊とは大幅に異なる。特にこの煉獄さんは誰一人犠牲者を出さないよう、例え多くの人命が懸かっていても自分の身を挺して闘い抜くので信頼も厚く、任される任務が多く感じてしまう。いつか疲労で倒れてしまわないか、傍で見守るわたしの方がひやひやしてしまうというものだ。

「美味い!美味い!」

しかし煉獄さんの体力には驚かされる。どんなに酷く疲弊していても、きちんと自力で藤の花の家へ戻り、湯浴みをして着替え、食事を摂ってから身体を休めるのだ。当たり前に思えるような行程だが、これが案外実行できる者は少ない。現に今も湯浴みを終えて大好物の芋御飯を食しているところだ。茶碗の持ち方や箸の持ち方すら綺麗なのに、豪快な一口が男らしい。加えて煉獄さんは本当に美味しそうに召し上がるので厨房担当の者達は作りがいがあるといつも喜んでいる。わたしもそれを見ていて癒されていると、あっという間に食事を終えた煉獄さんがパンッと自身の目の前で手を合わせた。

「御馳走さま!」
「あっ、はい…!」

何度も御代わりをしていた煉獄さんに比べてわたしは一杯しか食べていないのに、のんびりとその様子を眺めていたら食べ終えられなかったので、慌てて残りの味噌汁を掻き込む。一呼吸遅れて手を合わせ、「御馳走さまでした」と言うと煉獄さんは満足そうに少し微笑んだ。行くか、と立ち上がる煉獄さんの後を続き、わたしも立ち上がる。

「それでは煉獄さん、日が暮れたらまた伺います。ゆっくりと休んでください」
「うむ……」

煉獄さんの部屋の前まで付き添うと、煉獄さんは静かにわたしの手を引いた。ふたりきりのときだけの、そんなに大きくない声。煉獄さんはわたしの前でだけ、皆の知る炎柱ではなくなるときがあるのだ。

「身体は辛いか?」
「い、いえ、今日は主に煉獄さんが御一人で護ってくださったので……」
「君だって充分活躍していた。だが、君の負担が少なくなるよう配慮していたのは事実だ」
「……すみません。煉獄さんの足を引っ張らぬよう更に鍛練を、」
「そうじゃない、名前。俺の下心だ」

煉獄さんがわたしを部屋に招く。下の名前を呼ぶということは、煉獄さんは、改め、杏寿郎さんは今日、わたしを欲してくれていたのだろうか。部屋に入ると直ぐに休息がとれるようにと布団が敷いてあり、杏寿郎さんは躊躇わずわたしをそこへ連れていく。湯浴みしたばかりなのにもう汗をかいてしまいそうだ。何度肌を重ねていても、あの杏寿郎さんと恋仲なのだと信じられない。

「疲れているなら無理はさせない」
「いえ、大丈夫です……」
「名前は直ぐ俯いてしまうな。それでは口吸いもできない」
「は、はい……っ」

杏寿郎さんの両手がわたしの肩を掴み、わたしは杏寿郎さんを見上げる。この瞬間が一番緊張するのだ。夜は任務があるから仕方ないとはいえ、こんな日の明るい時間から大好きな杏寿郎さんの顔を見上げるのが、とてつもなく恥ずかしい。真っ直ぐにわたしを射抜く双眼が欲に濡れて直視できない。それでも杏寿郎さんはわたしの頬を優しく撫で、愛おしそうに目を細める。

「ん……、」

唇同士が優しく触れ合った。押し付けるだけの優しい口付けから始まり、二度、三度、それから唇を挟み込むように愛撫され、角度を変えてもう一度。はむはむと唇を擦られるとその柔らかな感触が堪らず気持ちいい。杏寿郎さんの手がわたしの顎に添えられる。そして、くい、と下に引かれて口を僅かに開いた隙間に熱い舌が入り込んだ。口内に引っ込むわたしの舌を探り当て、絡め取る。唾液を纏ってぬめる舌が厭らしく中を愛撫していった。

「ん、んぅ……っ」

顔が熱くなってくる。息が浅くなってくる。杏寿郎さんが、わたしの舌を舐め回している。元から持ち合わせていない余裕が更になくなり、杏寿郎さんの腕へ手を添えた。くちくちと唾液の絡む音が口内に響く。

「ん、っ、ぅ……、杏寿郎、さ……」
「……名前」

こくんと喉が小さく鳴り、わたしの唾液が杏寿郎さんに飲まれてしまったのを知ると、顔から火が出そうになった。幾度と繰り返しても慣れていかない。杏寿郎さんはそんなわたしが怖がらないよう、丁寧に行為を進めてくれるのだ。大きな掌が服の上からわたしの肌を撫で、欲情させるように優しく何度も行ったり来たり。また舌が口の中に入り、内側の粘膜までゆっくりと舐められる。杏寿郎さんにされるがままでわたしからは上手く舌を動かせない。それでも杏寿郎さんは、ゆっくり、ゆっくり、わたしを怯えさせないように愛を与えてくれるのだ。どんどん好きになってしまう。

「むぅ……っ、ん、ん……」
「名前、苦しくないか」
「ん、は、はい……」

多少苦しくても、それは嬉しいのでわざわざ言わない。杏寿郎さんはわたしに息継ぎの隙を与えてくれたり、体重を預けやすいように身体を倒してくれたり、細かく気遣ってくれている。ただ一つわたしが杏寿郎さんに注文をつけたいのであれば、それは。

「疲れているなら無理はさせないと言ったが、すまん、出来そうにない。君が愛おしくて堪らない。名前。少しだけ無理をさせてもいいだろうか」
「……はい……」
「有難う。あぁ、愛い。もう目が濡れている。せめて優しくするよう心掛けよう」

杏寿郎さんの性欲の強さだ。よく食べ、よく眠る杏寿郎さんは、それに倣って性欲も強い。一度始まるとなかなか解放してもらえないのだ。大好きな杏寿郎さんに愛してもらえるのは勿論嬉しいことなのだが、その後の任務に支障が出てはいけない。

「はい……、どうか、優しくお願いします」

杏寿郎さんの首へ腕を回すと、杏寿郎さんはわたしへ腰を押し付けて布越しに昂った熱を感じさせた。もう固く存在を主張している。

「き、杏寿郎さん……っ」
「心掛けはするが、あまり可愛らしい反応をしないでくれ」

耳許で漏らされた杏寿郎さんの声は色欲を孕み、じんわりと自身も濡れてきたのを感じた。わたしの中を愛撫しているときと同じ声なのだ。あの熱をこれから受け入れるのだと思うと腹の底が疼いてくる。

「名前、」

杏寿郎さんの唇がもう一度、わたしのそれへ重ねられた。

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煉獄さんは1回で終わることはなさそうなイメージです。
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