うとうとと瞼が重たくなり出す亥の中刻。慣れない遠征への疲労からなのか、日中緊張感を保っていた身体が心地好い睡魔を誘い出す。床に就こうかと隣を見ると清光と一瞬目が合うが、ふいと即時に逸らされてしまった。主、主、と普段であれば甘えてくる彼が、どうしたものかこの対応。不思議に思って暫く視線を送っていても、清光はこちらを見ようとしない。

「清光?」

優しく声を掛けてやるとおずおずとこちらへ視線を遣るが、清光は返事を寄越さなかった。ただ唇を固く結び、そして再び視線を落としてしまうのだ。

「清光? どうしたの?」

体調が優れないのだろうか。座椅子から腰を上げて清光の許へ寄ろうとすると、女性の小さな声が隣の部屋から漏れてくる。

「っ…ぁ…、はぁ……」

苦しげであり、切なげな、呻きに近い声。それがどんなときに漏れる声なのか理解しているわたしは思わずその場で固まってしまう。吐息が混ざり、熱を押し殺す、雌の声だ。

「あ、ぁう……っ、はぁ、あ…っ」

少しずつ大きく漏れ出す声に耐えられず、ふいと清光に背を向けると、今度は清光がわたしに歩み寄る番だ。後ろから、一歩、二歩、そして、二の腕を掴まれる。

「なんて顔してるの、主」

視線が絡むと、彼は熱を孕んだ瞳でわたしを誘惑した。わたしを欲する情熱的なそれにごくりと静かに喉が鳴る。こうしている間にも隣の嬌声は更に激しく、気持ち良さそうにわたしたちを欲情させるのだ。男を突き立てられて押し出される甘く狂おしい女の喘ぎに、じんわりと腹の底が清光を欲する。

「手、離して……」

蚊の鳴くような声を喉から絞り出すと、清光はわたしの腰を抱き寄せて唇を優しく重ねた。しっとりと合わさるそれが角度を変えて、二度、三度。肉厚な舌がわたしの唇をべろりとなぞる。

「本当に離していいの?」

わたしの鼓膜を揺さぶる甘い声。気持ち良さそうな喘ぎと、行為の激しさを物語る布擦れ音に、脳が正常に働かなくなる。早くわたしも気持ちよくなりたい。彼の熱を咥え込み、声も殺せない程に欲を注がれたい。この誘惑に勝てない欲の弱さに嫌気が差す。

「清光……」

清光の背中へ腕を回すと、彼は穏やかに微笑んでわたしを軽々抱き上げた。優しく降ろされると同時に彼がわたしへ覆い被さる。影が落ち、彼の瞼が伏せられ、何とも妖艶な瞳で見下ろされるのだ。

「俺は聞かせる趣味ないから、我慢してよね」

にや、と意地の悪い笑みを最後に、彼の身体がわたしへ重なる。唇に、耳に、首筋に、彼の愛撫が肌をなぞった。声を殺し続けられるのだろうか。

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「#旅先で隣の部屋からギシアンが聴こえてきた刀さにの反応」というタグでの短文です。
20190716
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