ドアを開けると、暗闇に光る炯眼がわたしを見下ろしていた。招く前に彼の足が玄関へ踏み入れられる。また、だ。普段はおちゃらけていて無邪気な笑顔を見せる彼がにこりとも笑っていない。そして、そういうときの彼は決まって血生臭いのだ。

「ボナセーラ、ミスタ。こんな時間にどうしたの?」

わたしは彼を知らない。心から彼を愛し、心から彼を信頼しているが、実際のところ彼がわたしに何を隠しているのか解らないのだ。彼もまたわたしを愛していると言ってくれているのだから、それでいい。そう思ってはいても、彼がこうなってしまう理由は少しだけ気になる。わたしの問い掛けにすら答えず、彼はわたしの腰を乱暴に抱き寄せてそのまま担ぐように宙へ浮かせた。突然のことに小さく悲鳴を上げることすら忘れ、大人しく彼に抱き上げられる。行儀悪く寝室のドアを足で開けると、彼は漸くわたしをベッドの上へ降ろした。

「ミ、ミスタ? どうしたの?」
「…抱かせろ」
「待って、あなた、」

どうしたっていうのよ、と続くはずだった唇を塞がれる。彼は触れるだけのキスを遊ぶように重ねるのが好きなはずなのに、今日は早々に舌を捩じ込み、口内を貪るようだ。



(( 赤く濡れた暗夜 ))



肉厚な舌が粘膜を擦り、根本深くまで絡め取られる。唾液を口内で混ぜる水音が籠って厭らしい。キスは続けながらわたしをゆっくり押し倒す彼は、そのまま上に股がりわたしに影を落とした。流れてくる唾液がわたしの口内へ溜まり、それを上から舐め啜られる。彼の節くれ立った掌はわたしの服の中へ入り込み、手慣れたようにそれを剥いでいった。

「ん…っ、ミスタ…!」

彼の目はわたしを捉えているのだろうか。感情が読めない。ただわたしを見下ろし、少し余裕がないように下着を剥ぐ。幾度と身体を重ねてわたしの弱点など熟知している彼は、手始めに胸の尖りにキスを落とした。

「さみィのか? 勃ってるぜ、ここ。それとも、期待か?」
「あ、う…っ」

片方は爪先で小刻みに、もう片方は彼の熱い舌でべろりと嬲られる。それを何度か繰り返されてぱっくり口の中へ咥えられると、次に前歯を立てて乱暴に刺激を与えられた。これに弱いわたしはすぐに腰を跳ねさせる。こうすると上に股がる彼の腰に自分の腰が当たってしまうのだ。

「何だよ、もう強請ってんのかァ?」
「ちが…っ、ミスタ、ちょっと待ってよ…!」
「待たねェ」

きゅ、と乳首を摘ままれ、言葉が喘ぎへと変わっていく。彼は両手で胸全体を揉みしだき、舌でちろちろと先端だけを刺激した。肌の表面だけを這うようなぴりぴりとした性快感。それが身体の全体へじんわりと広がっていくようで、もどかしい刺激に眉を下げる。彼の掌はするすると下り、胸の下を、腹を、臍を、そして腰、足の付け根、それから。

「濡れてる、よな」

ニッ、と笑う。突然押し掛けてきて突然好き勝手にして、それでいてわたしが一方的に感じているような物言いに顔が熱くなった。はしたない身体に仕込んだのは彼本人だというのに。湿ったショーツをずらし、指でにちにちと音を確認すると、満足そうに口角を上げてショーツを剥いだ。それから、彼はわたしの内腿に上から体重を掛けて大きく開かせ、自身の顔をそこへ埋める。

「ミスタ、っ、だめぇ……っ」

散々乳首を弄んだ舌がぷっくり膨れたクリトリスを撫でた。親指で皮を持ち上げると、そこは真っ赤に充血し、男を誘っている。そこに吸い付いて口の中で舌を動かす彼の頭を強く押し返したところで彼はびくともしないのだ。

「あ、あぁ…っ、や、やだあ…っ」

くちくち、ぢゅるう、唾液を絡めながら固くした舌先に小刻みに刺激された後、下品な音を立てて吸い上げられる。痛いくらいの吸引につい腰を上げるが、それがまた彼の顔へ腰を押し付けるようではしたない。快楽を求めてのことでなくても、そう見えてしまうのだ。クリトリスの根本へ舌先をくっ付けると、上へ押し上げるように何度も何度も力強く舐められる。丸く固くしこったクリトリスが男に舐められやすいようにどんどん存在を主張していった。

「あん…っ、あっ、や、やあぁ…っ」
「イヤじゃあねェんだろ? 垂れてるぜ」

後ろへ垂れる蜜がお尻の穴まで濡らしてシーツを汚す。それを指で掬って馴染ませると、膣口をとんとんと軽く叩いた。入り口を叩かれただけでびくんと過剰に刺激を拾う。

「、んぅ…っ!」

クリトリスは舌で弄りながら、指を僅かに押し進めると、幾度と彼を受け入れてきたそこは抵抗なくすんなりと埋没していった。浅いところを焦らすように、第一間接を挿れて、出して、挿れて。もっと奥に教えられた性感に彼の熱が欲しくなる。

「あ、ぁん…っ、ミスタ…ッ、ねえっ、もう…っ」
「まだダメだ。ここで善がるオメーを眺めるのが好きなんだよなァ。こんなちっせえトコロですぐ気持ちよくなっちまうからよォ、可愛くて仕方ねーぜ」

気分が乗ってくると意地が悪くなるのが彼の嫌なところだ。尖らせた舌の先端でクリトリスを小刻みに舐め回し、そんなもので腰を浮かせる自分がちょっぴり悔しい。本当は膣の中に招いて熱を感じたいのに、最奥を求めて腰を振る彼にしがみつきたいのに、彼はそれを許してくれない。とろとろと溢れて止まない蜜を時折吸い上げながらただクリトリスだけをじっくりと愛撫する。指よりも柔らかくしっとり熱い舌で、ゆっくりと。

「あっ、ああぁあ……っ!!」

びくっ、びくんっ、高く持ち上がる腰と細やかな痙攣をする内腿。彼が満足そうに顔を上げると、唇からは厭らしく糸が引いていた。暫く続く絶頂感に身体の全ての力を抜いていると、彼の中指がふと中にずるりと挿入される。

「っ、いやあ…っ、ミスタ…!」
「よく解れてんなァ。もう一本余裕がありそうだぜ」
「待って、今…っ」

二本の指が無遠慮に内壁を割り裂いた。中で隆起した弱点に指が触り、彼はそこを丁寧に押し上げる。出し入れするのではなく、中で指を折るように。ぐぢゅぐぢゅと響く水音が羞恥を煽り、ぐったりとしていた身体には再び力が入っていった。

「あぁん、あ…、ミスタァ…ッ、わたし、あうぅ…っ」
「あァ、解ってるぜ。もう俺が欲しくてたまんねーんだろ?」
「ぅん…っ、うん…っ!」

太い指が狭い膣内を器用に動く。彼が指を引き抜くと大して掻き混ぜられたわけでもないのに真っ白に染まった蜜が一緒に垂れ出てきた。慣れた手付きでコンドームを被せ、彼の容赦のない男根が入り口へ宛てがわれる。

「息してろよ」

ぐ、と彼が入ってくる。蕩けた内壁を掻き分けてわたしの弱点を探るように。彼の熱が奥を貫き、脳髄へと駆け巡る快楽に背を反らした。続けた絶頂というのはあまりにも耐え難く、腰を捩って彼から逃げようとしても上から自身の腹を密着させて体重を掛けられれば動けない。汗ばんだ硬い筋肉がわたしの肌と重なり、何とも心地好い。攣縮を繰り返す内壁に熱を擦り付けるように、快楽を求めて彼はわたしを貪る。無遠慮な腰遣いにわたしは酸素を求めて舌を突き出すしかない。

「あっ、あっ、あぁっ、ミスタ、っ、いやっ、いやあ…っ!」
「頭でイヤだと思ってるときってよォ、スッゲー気持ち良くなってんだよ。そうだろ? 中がうねって俺を離さねェ」

彼こそ気持ち良さそうに眉を寄せている。快楽に溺れそうだ。こんな強引に身体を求められる理由も解らないまま抱かれ、気持ちよくてどうしようもないなんて。

「ミスタ……ッ」

また絶頂。彼を締め付ける度に切なそうに息を荒げ、わたしの髪を掻き上げる彼が愛おしい。奥に欲を放とうとする男の本能に倣い、子宮目掛けて熱を進める。

「はァ…ッ、くそ、オメーを抱いてるとよォ…、可愛くおしゃぶりしてくれちまうもんだから、つい錯覚すんだよなァ…ッ」

彼は自嘲じみた笑みを口許に広げた。

「お前だけは俺を肯定してくれる…、っ、どんな俺だって受け入れてくれそうな、気がしちまうんだよ…ッ! なァ、名前、愛してるぜ…、あァくそ、気持ちよくて、何も考えらんね…、」

快楽を楽しむ動きから、欲を吐き出そうとする動きへ移行していく。彼はわたしの腰を両手で掴み、それまでの動きは前戯の一環だったのではないかと思わせるほどの激しい突き上げを繰り返した。内臓が持ち上がるような荒々しさに爪先がピンと張り、それを見下ろす彼も額に汗を滴らせている。彼の溢した言葉を理解できるほど脳は働いていなかったが、寂しげな表情を浮かべていたように見えたので彼の背に腕を回した。彼の憂いが少しでも消えるように。

「ミスタッ、あぁ…っ、あ、ああん…っ、あぁ…っ!」
「は、ぁ…っ、」

掠れた声の交じる彼の甘い吐息。鼓膜を揺さぶるそれがどれだけ官能的なことか。腹の奥に感じる彼の熱い欲望を味わうと、彼は腰を震えさせながら最後までわたしの中へそれを吐き出した。わたしを抱き締める腕が力強い。

「ミスタ…、」
「…悪かった…」

彼はぽそりと声を漏らし、わたしの中からゆっくり自身を引き抜く。どろりと熱いものが一気に引いていく感覚が妙に寂しい。彼の謝罪は、わたしを強引に抱いたことへなのだろうか、それとも。

「今夜は泊まっていくんでしょう?」
「…あァ」

わたしの言葉に安堵したように彼は隣へ寝そべった。胸元に顔を寄せると腕を回して抱き寄せてくれる。汗のにおいに僅かに交じる血のにおいに、わたしは気付かないふりをして一層彼の胸へ顔を埋めさせる。

「ねえミスタ、愛してるわ」
「俺だって、愛してる」

きっとその理由は、いつか貴方の口から。

END
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自分は人殺しなのだと打ち明けられないミスタと薄々感づいている一般人夢主ちゃん。フォロワー様より素敵なイラストを頂いたお礼です。名前様、お付き合いありがとうございました。
20190306
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