ジョルノは少し考えたように顎に手を当てて無言を貫いた。重たい空気にわたしも居心地が悪くなる。標的に喋らせることには成功したのだけど、やはり今回のは外部からの宣戦布告と受け取っていいだろう。パッショーネの裏切り者ではなかったということだけでも善しとするか、それとも。
「…ジョルノ、どうか気分を悪くしないで。貴方はとても熱心だわ。いつか貴方の考えを皆解ってくれるわよ…」
「いいえ、解ってくれません。悠長なことを言っていたらいつまでも解決しないんです。昨年のジューニョから幾つの組織が麻薬商売から身を引いたか覚えています? 数えられる程しか実績がない。考えなしに奴らを潰すんじゃあ意味がないんだ。先ずは経路と抱えている薬の種類、それから生産地を洗うところから始めないと。名前、ブチャラティとフーゴを僕のところに呼んでください。重要な任務、ご苦労様でした。貴女はゆっくり休んで」
彼はそれだけ言うとわたしに部屋を出ていくように視線で促した。これだけ話してくれたのだからわたしだって協力したいのに、今日の仕事はここまでですって? ゆっくり休んで? 彼はこの件にわたしを関わらせたくないのだろうか。だったらどうして中途半端にわたしを遣うのだろう。
「こんな休暇、嬉しくないわよ…」
ドアを閉めた後、小さく呟く。わたしはただ仲間として認められたいだけなのに。よく聞き出してくれましたね、それじゃあ次はこれをお願いします、と、そういう言葉が欲しかったのだ。それでなくてもスタンド使いではないという引け目を感じているのに、尚更落ち込みそうだ。

ホルマジオと会うときは決まってホテルだ。ヒットマンチームは自宅には招かない。わたしに過保護なジョルノがいつ自宅に来るか解らないからだ。ヒットマンチームと関係を持っていることを、彼は知っているのかもしれないが今のところは訊かれたことがない。本当に隠さないといけないのは更に過保護なブチャラティの方だけれど。
「訊きたいことがあるんだろ?」
シャワーを浴びたホルマジオがベッドに片膝を着く。小さく鳴くスプリング。ベッドの上でなんて色気のない会話だろうか。
「ええ。でも先ずはわたしを慰めてちょうだい」
「お前が俺を呼び出すときは何か探りを入れたいときだ。違うか? 美人に泣き顔見せられたら悪い気はしねーけどな」
「慰めてって言ってるのに」
彼はわたしを抱き寄せて隣に寝そべった。早く彼の熱が欲しいのに、惨めなこの気持ちを紛らわしてほしいのに。優しく髪を撫でられ、彼の胸に顔を寄せる。
「リゾットから指令はあった?」
「…あァ、成る程。あの日の指令、お前は聞かされてねェのか」
「ブチャラティはわたしに何も教えてくれないわ」
「誘惑する相手を間違えてんじゃあねェか? 俺じゃあなくてブチャラティに迫って吐かせればいいだろ」
「そんなことできないわよ」
だってわたしは、ブチャラティと寝たことがない。こんなにも取っ替え引っ替えしているくせに彼にだけは身体を許したことがないのだ。彼はわたしを娘のように可愛がってくれるのだから。しょうがねーな、とホルマジオは困ったように笑い、わたしの頬を指甲で撫でる。
「話さねェってことは巻き込みたくない事情があるんだな。蚊帳の外で面白くないだろうがよォ、少なくとも悪い意味で遠ざけてるわけじゃあないと思うぜ。これ以上はいくらお前の頼みでも今回のことばかりは漏らせねェ。俺もリゾットは裏切れねェんだ、解るよな?」
「貴方も同じ事を言うのね…」
「そりゃあ誰でもそう思うぜ。ブチャラティはお前を溺愛してる」
度が過ぎた愛情は、時としてわたしを苦しめる。ブチャラティはわたしを生かしてどうしたいというのだろう。わたしの生きる理由はとっくにこのパッショーネにあり、人生を委ねているというのに。
「…酷くしてちょうだい、ホルマジオ」
「優しく、ってのはブチャラティだけの特権なのか?」
煩い彼の唇を無理矢理塞ぎ、べろりと舌でなぞる。薄く開いた唇から彼の舌が覗き、わたしの口内へと入り込んだ。腰を抱き寄せ、少々乱暴に身体を押し、わたしの上へ股がる彼は、どうやらわたしの要望に応えてくれるらしい。手慣れたように服を剥いでいき、素肌に指が滑った。
「ん…、ホルマジオ…」
「解ってるぜ、酷く、だろ」
彼の指は迷わず脚の間へ進んでいき、クリトリスを優しく摘まむ。皮の上からとんとんと叩き、その間に乳首に舌を這わせた。いつものようにたっぷり時間を掛けた愛撫ではなく、挿れる為に濡らすだけの行為。敏感なところを弄られ、わたしの身体は熱を孕んでいく。
「ん…っ、くぅ…」
「今日は声出さねェのか?」
「だって、みっともないじゃない…っ、仲間に捨てられそうなわたしを、貴方だって哀れんでいるんでしょう…っ?」
「…しょうがねーなァ…」
よしよし、と宥めるようにキスを贈られた。弱点を責める手つきは相変わらずだけど、重なる唇がいつもより優しい。触れるだけのキスを何度も落とし、漸く蜜を垂らした膣に指をゆっくりと押し込む。
「弱ったお前を見てると甘えられてるって勘違いしそうになるぜ。なァ、名前。ちっとは頼りにしてくれてんだろ?」
くちくちと弱く音を立てて出入りする節くれ立った指がわたしを喘がせた。もっと酷くして、何も考えられないように。彼の首に腕を回して催促すると、口端が僅かに上がる。
「ん、んん…っ、はぁ、ホルマジオ…ッ」
漸く熱が突き立てられ、背を反らした。その姿を見下ろし、彼はわたしの腰を両手で掴む。いつもなら優しく絡めてくれる指で、慈しむようにわたしの髪を撫でる掌で、わたしの動きを拘束するように腰を押さえ付けるのだ。馴染むまでゆるゆるとした動きだったのに、徐々にピストンが激しくなる。
「あ、あっ、ホルマジオ、っ、あぁん!」
「痛ェか?」
「ううんっ、あ、あぅ、きもちいい…っ」
「…ったく、可愛いなァ」
ぐ、ぐ、と奥を叩く熱が堪らず思考を溶かしていく。何も考えたくない。不安になりたくない。わたしは護られるだけの存在なのだと、思いたくない。必死に喘いで彼からの欲を受け取り、ただその快楽に溺れたい。弱いところを無遠慮に突く彼へ手を伸ばし、その背中に爪を立てた。
「あ、あぁん…っ!」
彼はわたしの絶頂を見下ろし、尚も腰を振りたくる。泣きたいほどの快楽だけが、わたしを満たすのだ。

命を懸けて尽くすから、どうかわたしを捨てないで。
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