血塗れの彼がシャワーを浴びる音を聴く。まさか先程彼が丁寧に乾かしてくれた髪を、今度は自分で乾かす羽目になるとは。今回のお掃除だってわたしは大したことをしていない、わたしはスタンド能力者ではないのだから。わたしが得意とするのは男性相手に戦意を喪失させ、甘い雰囲気で言葉を交わし、わたしの虜にさせてしまう所謂ハニートラップというものだ。その為情報収集は得意としているのに、ブチャラティはわたしにそれをさせたがらない。ジョルノだって滅多なことがない限りわたしを利用することがないのは、ふたり揃って過保護すぎる証拠だ。ドライヤーを終えてメイクを施していると、バスローブに身を包んだ彼が顔を出す。
「残念、もうドライヤーは済んでしまったんですね」
「ええ、わたしも残念。貴方の掌に撫でられるととっても気持ちいいのよ」
「それじゃあ今晩のお楽しみかな」
髪を結わえる前の彼は驚くほどに美しい。軽くウェーブした濡れた髪が、水滴を伝わせる色気ある首筋が、真っ白な肌を上気させて熱を帯びた肌が、何とも色欲を掻き立てる。年下だということを忘れそうなくらいに。
「ジョルノ…、キスをさせて」
「困ったな、貴女に求められると最後までしたくなる」
「…だめかしら?」
「時間が許してくれないんですよ、名前。そうでなければ大歓迎です」
ちゅ、と軽いキスを交わす。お互いに熱がつくと焦れるだけなので、今はこれだけだ。彼の唇に移ったリップを親指で拭うと、彼は愛おしそうにわたしの頬を優しく撫でる。
「だめよ、ジョルノ。そろそろドレスアップしないと」
「貴女が火を着けたくせに」
くす、と笑うと彼はわたしを離し、濡れた髪を丁寧に拭いていった。綺麗な髪を結わえるところをじっと眺めたい気持ちを押し殺し、わたしはわたしで自分の支度に取り掛からなくてはならない。彼が見立ててくれたシルバーグリーンのエンパイアに、以前アバッキオが贈ってくれた控え目で綺麗なプリンセスネックレスを身につける。
「忙しいところごめんなさい、後ろのファスナーを上げてもらっても?」
「勿論。とても綺麗です」
快くファスナーを上げた後、ちゅ、と項にキスを落とされた。だめだと言っているのにわたしに触れる手が劣情を誘う。
「ジョルノ…、」
「さて、僕もスーツに着替えないと」
仕返しだと言わんばかりにわたしから手を離す彼をじろっと睨んだ。意地悪で遮ったわけではないのに、彼のは意地悪だ。稀にこうして悪戯に仕返しをする様は成る程少しだけ子供らしさを残している。
「ディナーの後が待ちきれないわ」

食事と性愛は結び付いていると、モーパッサンも『脂肪の塊』で綴っていたではないか。彼が口に運ぶ一切れがなんと官能的なことか。

ホテルに倒れ込みたいのをぐっと堪え、自宅に帰った。玄関を潜るなり激しい口付けを交わす。彼の熱い舌が、節くれ立った掌が、わたしの肌に熱を孕ませた。
「んっ、んぅ…、」
舌先で小刻みに遊ばれると腰の力が抜けそうだ。ずるりと舌を引き抜いて唾液を垂らすと、彼は親指でそれを拭いながらわたしの腰を支えてくれる。
「ベッドじゃなきゃあ嫌よ……」
「声が漏れてしまいますからね」
ふふ、と笑う彼はわたしを宙に浮かせ、ベッドまでプリンセス待遇だ。皺になるのも構わず、ドレスのまま。わたしに覆い被さり、キスを交わしながら後ろのファスナーを下ろしていく。
「ん、ん…、ジョルノ…」
下着のホックが外され、胸を愛撫された。彼は指先で先端を、掌で全体を優しく刺激しながら感触を楽しむように何度も繰り返す。形を変えていく乳首にキスをし、舌でも弾いた。
「あ、ん…っ、」
幾らしたか解らないが、汚していい代物ではないのにショーツが濡れていく。ドレスに染みでもできたら大変なのに、彼はわたしのショーツを指で撫で、嬉しそうに舌舐めずりをした。
「僕とは久しぶりなのに、いい反応だ」
「ん…っ、い、意地悪言わないで…」
「意地悪なのは貴女でしょう? 昨晩は誰と寝ていたんです」
ベッドの上で他の男の話をするのはマナー違反だ。それなのに彼はわたしのクリトリスを撫でながら責め立てる。布越しの愛撫がもどかしい。
「あ、あぅ…、ナランチャ、よ…。ねえジョルノ…、ちゃんと脱がせて…」
「どういう風に抱かれているのか、興味があるな」
強請って腰を上げると漸くショーツを脱がせて指を膣に忍び込ませた。溢れる蜜が興奮を物語る。ドレスに染みができてしまったのは確実なことで、今更これも脱がせなどとは言わなかった。ぐちゅぐちゅと知ったような手付きでわたしの弱点を探り、追い込んでいく。
「あっ、あぁ…、ジョルノッ、ん、んん…っ」
「僕がこんなに愛しても貴女は他の男を求めるんですよね。酷いな。僕なら毎晩でも寂しさを埋めてあげるのに」
「や、あう! はぁ、あ、はあぁ…っ」
彼がベルトを外す頃には、シーツはどろどろに汚れていた。熱が肉壁をみちみちと割り、熟れたそこは彼に必死に吸い付く。気持ちいい。シーツを握って腰を逃がすほどに。
「ああっ、ああ! ジョルノ…ッ! あん、あ、はあぁ…っ」
「泣かないで、可愛い人。僕は貴女を心から愛しています。伝わりますか?」
「ん…っ、ぅんっ、ジョルノ…、わたしも愛しているわ…っ」
「嘘ばっかり。でも、今名前を抱いているのは僕だ」
「ああんっ、あぁっ…! あぁ…!」
嫉妬任せに腰を遣う。昨晩のナランチャとは全く逆の愛し方だが、彼もまたわたしを独占したいのだ。心が満たされていく。もっとわたしに溺れて、もっとわたしを求めて。

わたしは彼のものにはならないけれど。
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