体温を分け合うように、同じ夢を見るように。

カーテンの隙間から朝日が漏れる。同じ毛布にくるまった彼は確か朝型の任務じゃなかったかしらと彼の髪を撫でると、その手を引っ掴まれて抱き寄せられた。温かな彼の胸に顔を寄せるとまだ重たい瞼が下がってきそうなのだけれど。
「ねえナランチャ、起きなくていいの? ブチャラティに叱られるわよ」
「まだ、もうちょっと……」
「貴方のちょっとは長いのよ」
胸板を押して彼を見上げると、気怠げに瞼を擦り、あと十分は起きないであろう彼が更にわたしを抱き寄せようとする。確かに心地好い体温なのだけど、連帯責任で叱られるのは勘弁してほしい。
「ねえ、朝は起きないといけないのよ。ナランチャ。今起きるのなら目覚めのキスをしてあげられるのに」
指甲で彼の頬を撫でれば、彼はがばりと起き上がる。なんて現金な人。そのままベッドを下りるのかと思いきや、彼は上体だけわたしに覆い被さり、優しく唇を重ねてきた。一度でなく、角度を変えて、二度、三度。
「……お気に召した?」
「うん。名前の唇ってスゲー気持ち良くて病み付きになりそう」
「またいつでも誘って」
ちゅ、と彼の頬へキスを返せば、彼は面白くなさそうに口を尖らせた。前々から自分だけのものになってくれと口説いてくる彼にとってわたしの言葉は期待通りの返答ではないらしい。それでもわたしは一人に留まることがどうしてもできない。
「さあ、支度をしてきて。わたしはもう一眠りするから」
「一緒に行かねーの?」
「今日は午後からなのよ。ジョルノが迎えに来てくれるわ」
「……随分と贔屓されてるよなァ」
「拗ねないで。年上として慕われているだけよ」
勿論そんなの嘘、ジョルノとだって幾度と寝ている。悲しい真実を隠す嘘ならいくらだって吐くから、きっとわたしの体温をまた求めて。その意味合いを込めて彼の手をそっと撫でると、彼は漸くベッドを下りた。
「シャワー借りるよ」
「ええ」
慣れたようにバスルームに向かう彼の残り香に顔を寄せた。これで何度目か解らない。彼は感情のままにわたしに愛を囁き、独り占めできないと理解しつつ独占したがる。素直で可愛い人に愛されると心が満たされるからやめられない。毛布に包まれた身体は子供のように温かな彼を失って少し肌寒かった。ああ、仕事さえなければもう一度肌を重ねるのに。

次に目を覚ましたのはジョルノからの連絡があってからだ。まだ寝起きの声で電話に出れば「ボンジョルノ、お寝坊さん。約束通りに支度が出来ているならあと少しで迎えにいく予定だけど、どうです?」と笑われた。渋々ベッドを下りながら倦怠感の残る下半身を少しずつ動かす。
「ええ勿論、貴方が来て着替えを手伝ってくれるなら約束通りの時刻に出掛けられるわ」
「まったく甘え上手な人だ」
「だめかしら?」
「とんでもない、直ぐに向かいますよ」
ちゅ、と電話越しにキスをすると彼もリップ音を返した。恋人のようなやり取りに口許が緩む。さあ彼が迎えに来るまでにシャワーを浴びなければ。バスルームに向かうと、ナランチャが使ったタオルが無造作に洗濯カゴに放り込まれていた。

ジョルノはイタリアーノには珍しく、時間通りに動こうとする。と言っても彼の元は日本人であり、本人曰く黒髪でもあったと主張していたが、現在の綺麗なブロンドを見てしまえばにわかに信じがたい。わたしにドライヤーを施しながら、器用な指先を頭皮に滑らせた。
「今日は何をするの?」
「ブチャラティから連絡が回っていないんですか? 今日は以前から目を付けていた件の掃除と、その後意見交換を交えた食事会に同行してもらいます」
「以前から? 何だったかしら?」
「貴女は僕との晩も忘れてしまうのかな」
「酷い、貴方との思い出は忘れられるようなものじゃあないわ」
クスクスと笑い合い、クリームを塗り終えた顔で彼を振り返る。ナランチャと体を重ねることに集中していてブチャラティからの連絡を上手く受信出来なかったわたしを、咎めることはしない。
「どちらにせよ退屈そうなスケジュールね」
「そう言わないで。華がなければ僕の顔が立ちません」
「貴方の隣に居られるのなら会議や食事会も嫌じゃあないけど、畏まった空気は肩が張るのよ」
肩をすくめて見せると、彼はドライヤーを止めてわたしの髪を優しく撫でた。艶やかな彼の髪に負けず劣らずに手入れされたそれに鼻を埋めて匂いを嗅ぎ、彼はにっこりと微笑む。
「その代わり、夜はたっぷり甘やかしますから」
今夜の相手がここで決まる。誰かの欲に塗れなければ、誰かの体温に包まれなければ、安心できないわたしを知ってのことだ。グラッツェ、と彼の頬にキスをすると「いいえ、自分の為ですよ」と言って彼はコードを引き抜く。ドレッサーに向き直って顔を整える作業の開始だ。
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