「ツイてるッ!ツイてるぜェ〜ッ!」

昨日は楽しかったわ、また会いましょう。
一通の連絡にミスタはにまにまと口許を緩めました。昨晩は高いお酒を水のようにがぶがぶ飲みましたが、賭けで大儲けしたので一銭も出していません。その場で知り合った人達と楽しく遊び、酔った勢いで好みドストライクな美人を口説き落とし、ホテルへ連れ込むことに成功。更に身体の相性も抜群で朝まで気持ちよく過ごした上に、連絡先を交換し、二度目の御誘いまで来ているのです。ミスタが上機嫌になるのも無理ありません。鼻唄を歌いながらソファに座ると、ミスタとは対称的に分かりやすく落ち込んでいるナランチャが大きな溜め息を吐きました。

「俺はツイてねーよ、ミスタ」
「げぇッ! ど、どうしたんだよ……」

どんよりとしたナランチャはミスタを見上げると、二度目の溜め息を吐きます。幸せが逃げてしまうかもしれないのに、構った様子はありません。そんな姿にミスタはギクリと肩を上げるのです。

「オイオイ、オメーよォ、何があったのか知らねーが溜め息は良くないぜ! 見てるこっちまで運が尽きちまうッ! 何だか幸運が逃げ出しそうでよォ〜……、悪いけど今のオメーにはあんまり関わりたくねーなァ……」

ソファに身を沈めたばかりだったというのに、ミスタは慌てて立ち上がりナランチャと距離を取ろうとします。何という無慈悲。ナランチャはそれを逃がすまいとがっしりミスタの腕を掴みました。

「待ってくれよ、ミスタ! 俺、どうすればいいかわかんねーんだよォ……、なぁ、話を聞いてくれてもいいだろ〜〜? もうだめなんだよ〜〜……」

べそをかくナランチャに、ミスタはその手を振りほどけなくて困りました。本当はこの幸運をなるべく継続させたいのですから、どう見ても落ち込んでいるナランチャとは傍にいたくないのですが、年下のナランチャが必死に引き止める姿に胸が痛みます。しょうがねえなァ〜、と頭を掻くミスタは面倒見のいいお兄ちゃんです。

「聞いてやるよ、どうしたって?」
「ありがとうミスタ……! 俺さぁ、最近失敗続きでブチャラティに迷惑かけてるんだよ。今まで出来てたことも急に出来なくなっちまうしよォ〜……、それに、何だか最近上手く眠れねーんだ。これって病気かなァ?」
「何だそれェ〜〜? まさかスタンド攻撃ってこたァねえよなァ?」
「だってここ最近ずっとだぜ? スタンド攻撃にしちゃあ熱心すぎるよなァ〜〜」

しかし、自動追跡型のスタンドの可能性も否定できないので、ミスタは頭を捻ります。射程距離から一旦抜け出すように提案してみる? と考えますが、その射程距離がどこか分からないのです。ナランチャは続けます。

「それから、最近心臓が痛いんだ。それも、決まって名前のことを考えてるときだぜ。あいつの能力にそんなものなかったよなァ〜? 気付くとあいつのこと考えてるしよォ、やっぱ病気なのかなァ? どう思う、ミスタ?」
「そ、そいつは……ッ! ナランチャ、ヤベー病気だぜ……ッ!」

ごくり。ミスタが唾を飲み込むので、ナランチャも釣られて飲み込みます。緊迫した空気が張りつめ、ナランチャは今にも泣きそう。やばい病気なんて言われたら目を患っていた頃を思い出すのです。

「な、なぁ、冗談だよな……? 俺死んじゃうの? そんなわけねーよな、ミスタ……?」
「……」
「ミスタ……オイ、返事しろって……」
「……」

ミスタが黙りを決め込み、視線を床に落とすので、ナランチャはみるみる顔を青くしました。なんてことでしょう。ブチャラティに出会ってからは毎日それはそれは楽しく過ごしてきたのは本当ですが、それが呆気なくこんなところで終わるなんて。ミスタは静かに唇を舐めました。

「ナランチャ……、オメー、名前に恋してるんじゃあねーのか?」
「えっ?」

喉がぎゅうっと締まったナランチャの声はそれはそれはか細いものでした。死を宣告されるのだとばかり思っていたのに、恋。知りもしない恋愛感情をまさかミスタから教えられるとは思わず、目を見開きます。

「恋? 俺が? あいつに? それってよくドラマや映画でやってる、男と女がキスしたり愛を伝え合ったりするやつ?」
「そうだぜ、間違いねェ。オメーは名前に恋してるんだッ。どうするよ、えぇ? オイオイ〜」

早速面白がるミスタはナランチャの肩を肘でつつきます。そんなことを言われても初めての感情なのですから、ナランチャはどうするべきか分かりません。

「でもよォ、恋っつーのはもっと楽しいもんじゃあないの? 俺、あいつのことを見ると苦しくなるんだぜ……」
「バカだなァ、恋っつーのはそういうもんよ。可愛いと思うのと同じくらい苦しいんだ。大切にしたいと思うのと同じくらい壊してーもんだぜ。分かるか?」
「わからねーよ……」

唇を尖らせて俯くナランチャの頭を、ミスタは優しく撫でました。何だか本当の弟ができたように愛おしく思えるのです。

「まずはオメーのペースで感情を整理した方がいいぜ。そんで、早いとこ好きだって認めちまえよ。名前のことを考えてると、ドキドキするんだろ?」
「……うん」
「今はそれだけで十分だぜ」

ポンポンと宥めるように撫でれば、ナランチャはようやく顔を上げます。真っ直ぐにミスタを見上げ、何か吹っ切れたようです。

「分かった! 俺、自分でちゃんと考えてみるよ。グラッチェ、ミスタ!」
「あァ、御安い御用だぜ」

幸運を吸い取られるなんて失礼なことを考えていたミスタは、にやにやと緩む口許に気付いて小さく笑いました。またもや幸せを見つけてしまったのです。身近に感じる春の訪れを眺めながら、やっぱり俺ってツイてるぜ、と呟くのでした。
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夢主ちゃんが登場しないので夢小説とはいわないですか…? ふたりが仲良くしてると(わたしが)嬉しいです。
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