【version仗助】
「今何つった?」
地を這うような低音にギクリとした。彼の髪型の話はしていなかったし、いつも明るく優しい彼がこんな目で睨むなんて珍しい。そういえば今、間違えて名前を呼び間違えてしまった……ような気がする。
「あ、あれ? 仗助くんって言わなかったっけ……」
「言ってないっスよ」
「ごめん、間違えちゃってたね……」
笑って誤魔化そうとしても彼はにこりとも笑わない。その場に視線を落として無言の彼にどう言葉を紡げばいいか解らなかった。
「……はぁ」
「仗助くん……、」
「またガキだって思ってんだろ。もういいっスよ、ガキでも。自分の名前間違えられて嫉妬するくらいの小さい男で悪かったっスね」
まだ何も言ってないのに唇を尖らせてソファに身を投げた彼に慌てて寄り添う。
「わたしだって、嫉妬することあるよ……」
「えッ」
「だって、ほら、仗助くんモテてるし……」
弱い声で白状すると、途端に笑顔になった彼が「マジっスか!?」と身を乗り出す。感情の起伏が激しい。こくこくと頷くと彼は嬉しそうにわたしに抱き着いた。
「俺、モテてて良かったっス……」
「ちょっと! 酷くない!?」
「だってよォ〜、いつも俺ばっか妬いてんのかと思ってたから……」
俺ばっかということは、わたしは何度も彼に嫌な気持ちにさせてしまっていたのだろうか。彼の首に腕を回し、よしよしと背中を擦る。
「ごめんね。わたしも仗助くんのことが大好きだから、同じ気持ちだよ」
「同じ、っスか……。ならよォ、スッゲー幸せなこの気持ちのままキスしたいっつーのも、同じっスか?」
許可を得るようにわたしの顔を覗き込んだ。したいならすればいいのに、こうしていつもわたしの許可を待つのだ。それにも小さく頷くと、彼はその厚い唇をわたしに押し付ける。
「はぁ、可愛い……、ねぇ、この先は?」
「だめです! 卒業するまでだめっていつも言ってるでしょ」
「ちぇッ、アンタと俺じゃあやっぱりチコ〜ッと違うんスね!」
ムスッと唇を尖らせて拗ねる彼の頬を優しく撫でる。違わない。わたしだって早く抱かれたくて仕方ないのだから。さっさと卒業すればいいなんて思いながら、今日もキスだけで我慢するのだ。
【version露伴】
呼び終えたところで間違いに気付き、自分の口を両手で塞ぐ。このプライドの高い岸辺露伴が他人と間違えられるなんて許すはずがない。この人を前にうっかり考え事なんてしていたらこちらの命さえ危ないのだ。
「オイオイ、キミねぇ、今誰を呼んだつもりだ? まさかぼくのことじゃあないよな?」
キッ、と鋭い眼力に捕らわれ、謝罪の言葉を瞬時に考える。考え事をしていたら混ざってしまった? 正直に話せば許してくれるというわけでもない。
「ち、違うんです……」
「確かに呼んだよなァ? このぼくを? でも名前はぼくの名前じゃあなかったぜ。何がどう違うって言うんだよ」
「は、はい、 呼び間違えました! ごめんなさい!」
「オイオイオイ、ナァナァ、素直に言えばいいってもんじゃあないだろ、キミなァ〜〜、解っているのか? ぼくの名前を間違えたんだぞ? 恋人であるこのぼくの名をッ!」
やはり正直に話しても許されない。こんなにもストレートな謝罪をしても彼の眉は吊り上げるばかりだ。だとしたらどう謝れば彼は許してくれるのか、きっとどう謝ったって無駄なのだろうけれど。
「嫉妬ですか?」
「何?」
敢えて煽るような言葉を選んでみる。彼はピクッと片眉を上げ、腕を組んでわたしを見下ろした。更に険しい目付きだ。
「確かに間違えたのは悪かったなと思いますけど、ちょっと度が過ぎませんか? 先生はわたしのことになると余裕がないですからね〜」
彼の口調を少し真似しながら不敵に笑って見せた。プライドの高い彼はこれにも腹を立て、怒ってない!と言い張ってこの話は終息する、と予想したのだ。それなのに。
「……悪いか?」
かあぁ〜…と音が聞こえてきそうなほどみるみる顔が赤くなる彼に言葉を失う。てっきり認めないのだと思っていたのに、この反応。釣られてこちらまで顔が熱くなる。
「せ、先生、今日は素直なんですね……」
「随分上からの物言いだなァ、最近生意気なんじゃあないか、キミ?」
彼だって常に上から物を言うくせに。火照る顔を隠すように視線を逸らすと、彼は追うようにわたしの顔を覗き込んでキスをした。いつもの彼には似合わないほど優しいキス。
「……で? どうなんだ?」
「何がですか?」
「その男だよ。どういう関係なんだ?」
「まだその話するんですか〜…」
当たり前だろ、と睨む。プライドも人一倍だが、独占欲も人一倍らしい彼に溜め息を吐き、誤魔化すように今度はわたしからキスを贈った。
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4部の推しふたりです。とにかくかわいい。
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