(( lussuria ))


近頃彼の仕事が忙しそうだと解っていても、彼と唇を重ねてしまえば求めたくなってしまう。優しく添えられた大きな掌も、甘く食む唇も、彼からの愛情が感じられてますます好きになる。もっと、もっとしたい。おずおずと舌を出し、彼の唇を一舐めすると、彼は小さく笑って口を開いた。わたしの口の中へ彼の熱が入り込む。熱い舌はわたしの頬の内側の粘膜を舐め、歯列をなぞり、唾液を混ぜた。ぬるぬると絡まる感触が気持ちいい。自分のか彼のか解らない唾液が口端から溢れそうになると彼が口内を吸い上げ、ごくりと喉を鳴らした。途端に顔が熱くなる。

「ブチャラティ…、」

離れた唇から糸が引く。もっと彼が欲しい、もっとキスを交わしたい。彼の袖口を掴んで強請れば、彼は再び唇を重ね、舌先を探って絡めてくれた。甘く、甘く、深いキス。舌先を遊ぶようにちろちろ転がされ、これに弱いわたしは少しだけ身体を捩った。彼はそんなわたしを嗜めるように後頭部に優しく手を添えて、舌先を舐め啜るように吸い上げる。

「ん、っ、…ぁう」
「は…、」

小さく漏れた声と、乱れていく息遣い。ちろちろと小刻みに舌を遣われ、先端だけを丹念に舐められるとどうしても声が我慢できなくなる。思わず彼の服を握り、更に深く入り込む愛撫に必死に耐えるが、じわじわと下着を汚す感覚に身体が火照っていく。抱かれたい。このまま彼を強請ってしまいたい。しかし、彼は連日の任務で疲れているはずなのに。

「ん、はぁ…っ、ぅ、ブチャラティ…」

次に唇が離れたときには、瞼が重くなり、完全に下着を汚していた。両手で彼の服の裾を握り、自分をそうした魅惑的な彼を見上げる。穏やかな表情が性を感じさせず、ますます欲しくなってしまう。

「ブチャラティ、もう寝る…?」
「そうだな。疲れているだろうからもう休め」

下腹部が疼いて仕方ない。彼のことを訊いているのに、彼はこちらの事情ばかり考慮してわたしを寝かせようとする。こんなに熱を欲しているのに、彼に欲を突き立てられて快感を得たいのに、彼の気遣いが拷問のようだ。

「わたしはまだ眠らないわ。ねえブチャラティ、貴方は…? 貴方が眠らないならわたしは…、」
「どうした? 今日は甘えたがりだな」

宥めるような口付けにもどかしくなる。もっと舌を絡めて、もっと厭らしい気持ちになればいいのに。舌を出して大胆に彼の唇をなぞると、彼は薄く唇を開いて舌を出した。今度はわたしからちろちろと彼の舌先を舐める。

「…、名前、」
「ん……っ?」

舌を引き抜いて彼を見詰めると、彼の掌がわたしの腰を撫でた。期待でずくんと下腹部が熱くなる。睫毛を伏せ、じっとわたしを見下ろす彼にもっと口付けたい。彼の頬を撫でると、彼はわたしの指を自分のそれと絡めてしまう。

「まだ寝たくないか? それとも俺を試してるのか?」
「た、試す…?」
「俺はただ可愛いテゾーロを労りたいんだがな。お前にその気がないなら、後で眠いと文句を言うなよ」

本来なら寝かし付けたいのだが、わたしが欲しているのを察して夜更かしを許してくれるらしい。どこまでもわたしに甘い人。わたしの小さな誘惑に気付き、欲するままに熱を与えてくれる彼に少し恥ずかしくなり、それを誤魔化すように彼に縋った。服に手を忍ばせた彼が下着のホックを器用に解く。

「色っぽいな。これは名前の好みなのか?」

たくし上げて下着を眺める彼の胸板をトンと叩いた。恥ずかしいからまじまじ見ないでほしいけれど、これは彼の為の下着なのだから。

「いいえ、貴方はこういう方が好きかと思って…、違った?」
「名前が俺を想って選んでくれるものなら何だって魅力的に見えるさ。俺に抱かれる為に、なんだろ?」
「もう…意地悪言わないで…」

恥ずかしくて顔を背けると、頬にちゅっとキスをされる。彼はわたしの胸を掌で包んだ。やんわり感触を確かめるような手つきが心地好い。わたしが背中を倒すと、彼は追うようにしてわたしの上へ被さり、何度もキスを重ねる。掌に当たる突起がどんどん主張を始め、それに気付いた彼は唇を離さないままそこを指で弾いた。

「っ、ん…、」

指の腹で優しくなぞる。爪先で刺激されるのが好きなわたしには少々物足りないが、彼を強請った上にその仕方についても注文をつけるわけにはいかず、何度も何度も優しく嬲られた。それから、彼は唾液の乗った艶かしい舌でそれを愛撫する。指の腹よりももっと柔らかくて熱が籠った感触に息が漏れた。

「ん、ふ……っ、」

固くした舌先でちろちろと刺激され、時折唇で吸い上げられる。びく、と腰が跳ねそうになるのを必死に抑えた。彼はわたしに視線を遣り、バチッと視線が絡まった瞬間、歯を立てるのだ。愛しい瞳に見詰められながら我慢ができずにびくんと上がる腰。柔い愛撫で焦らされ続けた身体には強すぎる刺激で、とろとろとショーツの内側が満ちる感覚が自分でも解る。前歯を引っ掻けてもう片方を指で摘まむ彼に、自分からショーツを下ろそうとしてしまう。

「その可愛い下着を俺に脱がさせてくれないのか?」
「だって…早く脱がないと汚れちゃう…」
「もう手遅れだとは思うが…、お前は腰を上げてくれればいいだけだ。俺がする」

言われた通りに腰を浮かせると、やはり手遅れだった。ショーツに粘着質な糸が引く。思わず顔を反らすと、彼はわたしの内腿をゆっくり撫でて「恥ずかしいのか?」と訊いてきた。

「だってわたし、おかしいのよ。貴方に何度も抱かれているのに、未だにすっごく緊張するし、ドキドキするわ。それに、こんなに濡らして…、」

言い終わらないうちに顔が熱くなる。はしたないと思われただろうか。何度しても慣れない行為と、回数が重なる度に敏感になる身体を、彼はどう思っているだろう。

「俺が、そうなるようにしてるんだ」

えっ、と訊き返すと、彼ははにかむように微笑んで自分の指を舐める。濡らしたそれをわたしの蜜と絡ませて、ゆっくりゆっくり挿入してきた。入り口が少しずつ開いていくこの感覚。思わず脚を閉じたくなるのを必死に堪える。

「あ、っ、ん、んん…っ」
「もうここでも十分感じるだろ? そうなるようにしたからだ。俺が教えてるんだぜ、名前」

そういえばそうだ。初めの頃は膣内よりもクリトリスが敏感で、性の経験が浅いからだろう、なんて言われたことを思い出す。彼の指は細長くて綺麗なのに、いざ咥え込んでみればしっかりと太い男の指だ。彼の指をきゅうきゅう締め付けながら快感を拾っていく。お腹側に指を折って小刻みに擦られれば、クリトリスで善がっていた頃より何倍もの刺激に腰を浮かせた。

「あぁっ、あんっ…! ブチャ…、ラ、待って…っ」
「お前が急いたんだろう、俺としてはもう少し時間を掛けた方が好みなんだが」

とん、とん、内壁が揺さぶられる。押し出されるような短い嬌声と、攣れてくる内腿にシーツを握った。触られていないクリトリスまで勃起して、皮の中で窮屈そうに膨らんでいる。神経が繋がっているのかと錯覚しそうになるほどどっちも気持ちいい。

「あっ、あぁっ、っ、あぁ、いやあぁ…、ブチャラティ…ッ、あんっ、ああ…っ」
「怖がらなくていい。お前に酷いことはしないさ」

ぐちゅぐちゅと気泡を含んで掻き混ぜられる水音に羞恥が煽られる。指だけで達してしまいそうだ。強すぎる快楽に恐怖しているのさえ感じ取られ、手を握られるが、それならいっそより強い快楽で溺れさせられた方が気が楽なのに。

「ねえ…っ、まだ…っ? まだシない…っ?」
「あぁ、まだだな。こんなものじゃあ愛し足りないってもんだ」
「でも、もうあなたのがほしいのよ、ブチャラティ……ッ、」
「っ…!」

ずぬぬ、と指が引き抜かれると、彼の指は真っ白な雌汁を覆って酷く厭らしい糸を引かせていた。なくなった刺激を無意識に追おうと腰が持ち上がるのを止められない。彼はそんな姿を見て静かに服を脱ぎ出した。性急な行為は滅多にしないが、今夜ばかりはわたしの我が儘を聞いてくれるらしい。シーツを濡らし、べそをかくわたしに、彼は優しく宥めるようなキスを落とす。

「痛かったら言うんだ、いいな?」
「えぇ…」

いっそ痛い方がマシなのに。彼にこんなにみっともない姿を見られるくらいなら、情けなく乱れてあっという間に絶頂に導かれるのなら、痛いくらいが丁度良いのに。彼の男根が宛がわれるだけで期待で蜜が垂れてくるはしたない身体に、自分で悲しくなる。

「ん、くうぅ……っ!」

彼の熱が内壁を押し割ってわたしの中へ埋まった。先程の愛撫では足りないと彼は心配そうだったが、十分過ぎる。ぬめる膣内で熱を馴染ませるように彼は奥まで挿れて、ゆっくり引き抜いた。粘着な音が響く。挿れて、抜いて、挿れて、抜いて。大丈夫だと言ってもきっと彼はゆっくりと始めるのだから、わたしは必死に奥歯を噛む。だって、そうじゃないと彼の熱には弱いのだから。

「あ、ああぁん…っ」

びくんっ、と腰が上がり、彼はわたしを見下ろした。全身から噴き出る汗も、押し出されるように溢れる涙も、淫らな女として見られたくないのに抗えない。更にゆっくり繰り返す。挿れて、抜いて、挿れて、抜いて、気が狂いそうだ。ぴくぴくと内腿が攣り、彼がそれを優しく撫でる。

「オーガズム、とまではいかないか。これじゃあ生殺しだな」
「あ、あ、ぅ、やだあ…っ、うごかないで、ぇ…」
「あぁ」

腰を止めた彼を一生懸命締め付けた。動きを止めてもぴくぴく震えている内腿が止まらない。甘い絶頂を長引かせたような快楽に目の前がくらくらする。もっと激しく、深い絶頂を、知っているのに。

「い、いやあっ、とまらないでよぉ…っ、く、くるしい、っ」
「だろうな」

にや、と口端を引き上げる彼を睨むと、彼はわたしの頭を優しく撫でて腰を動かす。ゆっくり、ゆっくり。時間を掛けて愛したいだなんて本当かどうか解らない、彼はわたしが狂っていく様をこうして眺めるのが好きなだけかもしれない。普段はとびきり優しくて頼りになる彼が、意地悪くわたしを焦らす姿は、悔しいけどとっても官能的。温もりをせがむと彼がわたしを抱き寄せてくれる。

「ブチャラティ…ッ、あぅ、き、きもちいぃ……っ」
「あぁ、俺もだ。もっと顔をよく見せてくれ」
「あ、あ、ああぅ…っ」

両手で頬を包まれて、額同士を重ねられた。近距離で見詰め合うと視界が完全に彼だけのものになる。彼もまた同じだ。ゆるゆると次第に速度がついてくる動きに大きく口を開けて酸素を貪った。苦しい、だけど、堪らない。

「あっ、だめぇっ、ブチャラティ、っ、もうわたし…っ、」
「待たなくていい……、俺はもう少し掛かるからな……、」

耳を疑いたくなる声が聴こえたところで、膣内が激しく攣縮した。彼の精を出させようと蠢く内壁に、気持ち良さそうに吐く甘い息。このまま達してくれればいいのに、なんて願うのに彼は腰の動きを緩くしただけで、ゆっくりと欲を擦り付けていた。気持ち良さそうな顔が愛おしい。彼の首に腕を回すと、小さく笑って「苦しくないか?」と訊いてきた。苦しいに決まっている。

「たまには、わたしがシましょうか…?」
「魅力的な誘いだが、俺はこっちの方が好きなんだ。お前を満たしているのが俺なんだと自覚できる」

珍しく甘えるように頬にキスする彼にわたしも笑う。絶頂後の倦怠感を引き摺りながら彼にキスを返すと、再び腰が動き出した。

「お前の顔を見ているだけで、っ、結構クるんだぜ、」

そのわりには直ぐに出してはくれない。いつもわたしの体力が試されているではないかと、後で文句を言ってやるのだ。

「あ、あぁ、っ、んあ…っ、ゆっ、くりいぃ……っ」
「、まだ焦らされたかったのか? お前がそんなにマゾだとは、っ、知らなかったな…っ」

散々わたしを愛した後は、だんだん自分のペースに持っていく。激しく奥を叩く熱も、わたしを見下ろす目付きも、先程とは違う。甘やかすようにスキンシップを取っていた掌だって、今はわたしの腰を掴んでいるのだ。射精前のピストンに悲鳴に近いような声で泣きじゃくる。

「ああっ、あ! あぁ! は、はやくぅ…っ、もう、もうでき、ないぃ…っ!」
「注文が多いな、言っていることが、ちがうぜ…」
「ああぁあ、あぁ、ああぁ…っ!」

背中を退け反らして全身を痙攣させると、彼も内壁の収縮に眉を歪めて欲を吐き出した。びくびく、びくん…。快感の波が嫌に長い。舌を突き出して酸素を喘ぐと、彼は前屈みになって腰を震わせる。最後までわたしの中で果てるように。

「はぁ…、はあ、名前、息できるか?」
「あ、あ、ぅあ…」

痙攣が止まらない。目の前がチカチカしたまま焦点の定まらないわたしの手を、彼はそっと握って甲にキスをする。

「ゆっくりでいい、呼吸をしろ。また無茶をさせたな」
「っ、あなたの愛は…、はぁっ、重すぎるのよ…、」
「あぁ、悪い」

嬉しそうに笑う彼は謝罪の意がない。愛おしそうに、慈しむように、わたしの髪を掻き上げて撫で付けた。頭皮を掌で刺激されるのは何とも心地が好い。

「ねぇ、ブチャラティ…、今夜はここで寝るのよ。わたしと朝まで居るの」
「朝まで? 随分欲しがりだな」
「馬鹿ね、子守唄を歌わせるわよ」

笑えないジョークを睨むと彼はコンドームを片しながら一人でくつくつと喉を鳴らした。漸く隣に潜り込んだ彼に擦り寄り、まだ汗ばむ肌に自分のを重ねる。

「ブチャラティ、愛してるわ。どうか朝までわたしの我が儘を聞いてちょうだい」
「あぁ、可愛いテゾーロが望むなら」

彼を少しでも休ませたかった。自室に戻れば何をするか解らない彼を、わたしの部屋に閉じ込めてでも休ませたかったのだ。どうか朝まで、安らかに。

「Buona notte(おやすみ)、名前」
「ええ、貴方も。Buona notte(おやすみなさい)」

一時でも多く貴方を欲張りたいわたしを、どうか赦して。

END
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ブチャラティの口調これで合ってますか…? もう少しお勉強してきます。名前様、お付き合いありがとうございました。
20190210
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