(( 猫に齧られる ))


傲慢で無神経で天の邪鬼。彼は結構面倒臭い性格をしている。付き合い始める前はこの素直じゃない態度に何度頭を抱えたか解らないが、恋人になった途端意外や意外、あの彼がころっとわたしに懐いたのだ。懐くという表現は上からの物言いであまり相応しくないかもしれないが、あの気紛れな岸辺露伴が自分に甘えていると思うとその表現がしっくりくる。野良猫を手懐けたような感覚だ。

「まだ読んでいるのか?」

少年誌にはまだ当分載らない先の原稿まで読めるのは、彼の家に来る特典のようなもの。この為に来てる、とまで言えば少々大袈裟なのだが、実際その通りなのだ。原稿がなければこんな危険な場所には寄り付かない。

「っ、まだ読んでますって……」
「ノロマだなァ、さっさと読み終われよ。このぼくをどれだけ放っておく気なんだ?」

後ろから腰を抱かれ、項を舐められる。原稿に皺が寄るといけないので渋々机に置くと、それが合図とばかりに彼は更に舌を這わせた。腰を抱いていた掌もするすると布越しに肌を撫で上げ、胸に辿り着く。この男、性欲なんて無縁そうな顔をしていたくせに、わたしを求める頻度がかなり高いのだ。

「先生……っ、やめて、」
「オイオイ、何嫌がってるんだよ、恋人だろ? それともそういう演技なのか?」

服の中に手を入れる彼を止めようと体を捩るが、びくともしない。下着をぷつんと外されて解放された胸を優しく手で包み込む。

「はあ……っ、先生って、結構甘えん坊ですよね……」
「何?」

ぴくりと彼の片眉が上がった。こうして彼を制止させたいときは体で抵抗するよりも彼が怒りそうなことを言葉にした方がよっぽど効くということはここ数ヶ月で実証済みなのだ。彼の手の力が緩んだところで体を逃がし、その腕の中から何とか抜ける。

「何だよ急に? ぼくが甘えん坊? 言うじゃあないか、ナァ?」
「だって、そうじゃないですか。わたしを家に招く度こうして……、たまにはゆっくり過ごしたいです」

むくれて見せると、彼は大きな溜め息を吐いてふいと顔を背けた。わたしの勝ちだ。こうして「仕方ないなあ」風の雰囲気を主張する態度には少々腹が立つが、こちらの体力も考えてほしい。安全に過ごせるのだと解ると途端に気が楽になり、早速続きの原稿を読み始めた。

「ねえ先生、この後のお話はないんですか?」
「あっても見せたくないね。生憎、ぼくは都合のいい漫画家じゃあないんだよ。恋人のきみを家に招いているだけで、読者としてのきみを求めているわけじゃあない。意味が解るか?」

拒絶されたのがどれだけ悔しかったのか知らないが、彼のご機嫌は完全に損なった。どっかりソファに身を投げて唇を尖らせている。子供みたいだ。

「都合のいい漫画家だなんて思ってませんよ。もっとも、先生の漫画は本当に素晴らしいですけどね。わたしは漫画家だから先生に恋した訳じゃありませんから」

小さい子をあやすように、ゆっくりと、落ち着いたトーンで言い聞かせる。隣に座って指を絡めると、彼は満更でもなさそうに手を握り返した。

「じゃあその先生って呼び方もよせよ」
「え?」
「きみがぼくのファンだったってことは解ってるよ、前に聞いたからな。でも恋人は恋人らしく、名前で呼び合うべきだろ?」
「ふふ、そうですね。それじゃあ、先生もわたしのことを名前って呼んでくれるんですか?」

彼は顔を赤らめて「ああ言えばこう言うな、きみはッ」と悔しそうに言った。愛らしい。常に主導権を取られてしまうベッドの上より、こうしてわたしの言動にどぎまぎしている彼を見ている方がよっぽど楽しいのだ。しかし、それは彼も同じことのようで。

「ナァ、……名前、名前を呼べば触れていいんだろ?」

どんな原理なのか解らないが、彼の掌はもう既にわたしの太腿へ置かれていた。慌てて脚を閉じても、彼の手を脚の間に閉じ込めてしまっただけだ。焦るわたしを見て彼はくすりと鼻で笑う。

「やっぱり演技だったのか、イヤって反応じゃあないよなァ。本当はぼくとスるの、好きなんだろ」
「っ……、先生こそ、わたしとスるのがそんなにお好きなんですか?」
「ああ好きだよ、悪いか?」

あっさりと開き直り、脚の付け根をゆっくりと撫でた。触れたところがぞわぞわと栗立ち、たちまち熱を孕んでしまう。わたしがどんなに口で拒絶しようと、身体は彼からの刺激を追ってしまうのだ。

「ぼくの名を呼べよ、そうしたら抱いてやる」
「はぁ……、甘えん坊なのに甘え下手ですよね、先生は」
「口の利き方の指導は後でしてやるから、素直になれよ」

素直じゃないのは彼の方なのに。小さい子が駄々をこねるようにわたしにお望みの言葉を言わせようと誘導する。言葉で伝えられない分、温もりで愛を囁いているつもりなのだろうか。誘惑するように掌がショーツの上を往復し、それに反応して出てくる突起に指を引っ掛けられる。それが弱いと知っているくせに。

「ほら、可愛く強請れよ」

指先で遊ばれ、どんどんショーツが湿っていった。たまにはゆっくり過ごしたいと言ったのはわたしなのに、少し撫でられたくらいで彼を受け入れる態勢が整ってしまうなんて。悔しくて彼の首へ腕を回し、思いっきり抱き寄せた。

「まだキスもしてないじゃないですか。時間をかけて愛してくださいよ、露伴先生」
「……本当に生意気だな、名前」

名前を呼び合ったのを合図に激しい口付けを交わす。また今日も、彼のシナリオ通りだ。

END
--------------------
Twitterの「#夢書きの同キャラ台詞御題企画」というタグに参加しなかったボツです。えっちな露伴先生が書きたかったなどと供述しております。名前様、お付き合いありがとうございました。
20190210
(  )
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -