あんなに明るかった主はあの日を境に別人のようになってしまった。部屋から一切出ようとせず、独りで泣いているようだ。遊んでもらっていた弟達は主を案じて同様に元気がない。主が泣いているのも、弟達が落ち込んでいるのも、見ているこちらも堪えてしまう。どうにか解決する方法はないだろうか。

「あ、あの…いち兄…、」
「うん?」

他の子よりも少し高くて弱々しい五虎退の声。後ろを向くと、やはり五虎退が私の袖口を掴んでいた。視線を合わせるようにしゃがみこむと、五虎退が私の耳に口許を寄せる。

「主さまのことなのですが…あ、あの…」
「うん」

丁度思い浮かべていた主の話題に耳を傾けると、五虎退は心底困ったような、一層弱々しい息を吐くような声で私の耳に言葉を漏らした。

「どうやら発作が起きているみたいなんです……様子がおかしくて、こわくて、どうしていいのかわからなくて……、」

発作という単語に血の気が引く。その対応を任せるはずの加州殿はつい先程遠征に行ってしまったばかりだ。そう掛からず帰還する予定とはいえ、主の病状が心配だ。

「有難う、私が様子を見てこよう」
「あ、あの……加州さんのお帰りは待っていない方がいいかもしれません……」

そんなに発作が酷いのだろうか。皆に知れたら主が傷付くだろうから誰にも言わないよう聞かせてから、報告をしてくれた五虎退の頭を撫でる。そして、足早に主の部屋へ向かった。


部屋の中からは激しい息遣いが聞こえた。成る程、これでは加州殿の帰還を待っているわけにはいかない。主、と呼び掛けても返事は返ってこないので私の声が聞こえていないのだろうか。無礼を承知で襖を開けると、中に充満していた甘ったるい匂いが一気に溢れてくる。慌てて部屋に入って襖を閉めるが、ここに長居すれば酔わされてしまうやもしれない。

「主、主、聞こえますか。お気を確かに」
「ん…、一期…?」
「私が解りますか」

文机にぐったりと体重を預ける主の許へ膝を着くと、主は頬を紅潮させながら私を見上げる。潤んだ瞳が熱っぽい。

「一期…、暑い、どうにかして…」

主は熱気を逃がすかのように胸元を開く。おっしゃる通り、部屋が少々暑すぎるので汗をかく理由も解るのだが、その姿がなんと劣情を煽ることか。体内の血液が沸騰するかのような熱さに、こちらがやられてしまう。

「発作が起きているのではないですか」
「ん…、」

主はぐったりとしたまま動かない。先日、こういうときは精液を摂取するまで発作が続くばかりか、主の病状を悪化させてしまうので迅速な対応を、と加州殿から聞かされていたばかりだ。しかし、加州殿が如何に主をお慕いしているのか、私は勿論本丸の皆が知っている。

「一期…、」

熱を孕んだ甘い声。体の底から欲望を引き起こされるような感覚に陥る。主を抱くなんて、私には出来ない。加州殿も、それから主のことも、傷付けることになる。それでも今の状況を長引かせるのは得策とは言えない。

「不躾にお訊ねしますが、それは経口摂取でも宜しいのでしょうか」
「けい、こう…?」
「…」

とろんと潤んだ瞳の主にこのようなことをお訊ねしたところで通じていないかもしれない。僅かな可能性に賭け、成るべく主を侮辱しないよう、主に触れぬ選択を選ぶ。主に背を向けて衣類を緩めると、自分でもぞっとするほどの昂りが欲を主張していた。

「…っ、…」

それを握って僅かに扱くと、思わず腰が揺れそうになる。人の身体を手にしてから性欲処理として何度か行ったことがあるこの行為が、今までで一番気持ち良かった。この甘ったるい匂いのせいか、はたまた叶うはずのない懸想人のせいなのか。徐々にやってくる吐漏感に眉を歪めると、ふと、背中から細い腕が伸びてきた。

「一期…、わたしが、やってあげる…」
「あ、主…!?」

驚いた隙に全体重を預けられ、不意を突かれたこともあってそのまま倒れ込んでしまった。主一人支えられぬ自分の力無さを恥じるべきだが、目の前の光景が信じられずそれどころではなくなる。主が、私の熱を口に含んだのだ。

「なっ…、主、何を…っ!」
「ん……」

うっとりと睫毛を伏せた主はそれはそれは艶やかで、思わず息を飲んだ。主は加州殿を想い、そして加州殿もそれは同じだ。誰もが知る当本丸の常識のようなものさえ、今この瞬間は忘れて勘違いしそうになる。主が私を求めて口淫をしているなんて、加州殿の為に、そして何より主の為に忘れようと必死になっていた恋慕をどうしたらいいのだろうか。

「な、りません、主っ、御離しください…っ」
「どうして…? 口からって言ったのは一期でしょう?」
「それは精液の摂取を…、っ、主にやっていただく必要はありません…!」
「いいの…、ん…」

ぬるりと舌が這い、熱い口内へ埋められる。無遠慮に舐め啜る姿がいつもの清い姿からは想像できずに興奮した。口腔内で下品な水音を立てながら私を見上げ、官能的な女の顔を見せてくるのだ。

「主…っ、もう出…っ、っ」
「んん!」

勢いよく吸い上げられると、欲に従って熱が放たれる。腰が震えるほどの長い射精に主は恍惚し、私の脚へ腕を回して精液を貪った。最後の一滴まで飲み干されるような感覚。熱を引き抜くと、主の唾液が私の熱へ、そして、私の精液が主の舌へ絡んでいる。

「はぁっ、はぁ…っ、一期ぉ…」

甘ったるすぎる声に心臓が苦しい。喰らいたくなる。加州殿を忘れさせたい、審神者と付喪神という関係を忘れてただの男女として欲を交えたい、そして、主を私だけのものにしたい。激しい衝迫に自分自身驚くが、それを必死に押し込めて主の頬へ触れると、主は気持ち良さそうにそれへ擦り寄り、瞼をゆっくりと閉じていった。

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久しぶり過ぎる更新で文章の書き方を忘れました…。名前様、お付き合いありがとうございました。
20190105
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