ごくり。名前ちゃんは緊張のあまり眉間にシワを寄せていますが本人は気づいていませんでした。今は眉間のシワより重要な、小悪魔テクニックを彼氏に試すことで頭がいっぱいです。同じ部活動の先輩に教わった、自分からキスするテクニック。自分からキスなんかしたことがない名前ちゃんは想像しただけでお顔が熱くなってしまうのですが、洋一くんと同じ学年の先輩があまりにもけろりとした様子で教えてくるので、上級生ができて自分にできないなんて悔しいと思ってしまったのです。いつもは洋一くんがリードしてくれるので何とか成立しているキスですが、果たして名前ちゃんにできるのでしょうか。

「く、倉持先輩…」

名前ちゃんは喉から捻り出したような小さな小さな声で洋一くんを呼びます。しかし流石は彼氏、そんな可愛らしい声もしっかり拾ってくれるのです。「ん?」と視線がこちらに向いただけなのですが、名前ちゃんはバクッと大袈裟に心臓を跳ねさせました。これからキスを仕掛けるのですから、意識して上手く目が合わせられません。カラカラに張りついた喉を再び鳴らすと、名前ちゃんはスマホの画面を少しだけ洋一くんに向けてみます。

「こ、これ、みてください」
「どれ?」

画面の明るさは最大限に絞ってあるのです。真っ暗な画面では顔を近づけないと見えません。そこで、ぐっと顔を近づけてきた洋一くんに名前ちゃんは心臓が口から出そうになるのを必死に堪えました。もうすぐそこへ唇が近づきます。名前ちゃんは思わず息を止め、そして覚悟を決めて洋一くんへと振り向きます。瞼もしっかりぎゅっと瞑り、いざキスへ。

「っだ!」

ですが。
ごちんと鈍い音がして名前ちゃんのおでこが洋一くんの鼻へとぶつかります。洋一くんもあまりの勢いに鼻を押さえて声を上げるので、名前ちゃんは目を開けてあわあわと手を震わせました。可愛らしくキスする予定が、これでは力強い頭突きです。洋一くんがじろっと睨んでくるので名前ちゃんは勢い良く頭を下げました。

「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「なんだよ」
「はあぁ…ごめんなさい…」

洋一くんが鼻から手を離すと、少しだけ赤くなっていました。名前ちゃんはとんでもないことをしてしまったと慌て、謝罪以外の何を口にしていいのか分からなくなります。洋一くんは少し呆れたように笑って息を吐くと、名前ちゃんの両頬を両手で包みます。

「落ち着けって」

洋一くんの大きな手のひらが名前ちゃんの両頬を大切に包むので、これが大好きな名前ちゃんはぴたりと黙り込み、素直に洋一くんを見上げます。洋一くんは手を離しません。

「怒ってねぇよ、どうした?」
「でも、痛いんじゃ…」
「ヒャハハ、勢いあったからな」
「ひっ…ごめ、なさ…」
「だから怒ってねぇよ」

じっと見つめられると申し訳ないやら恥ずかしいやらで言葉が出てこない名前ちゃん。洋一くんはなるべく優しい声で「どうした?」ともう一度訊いてくれます。

「あ、あの…、きすをしようかと…思いまして…」
「はっ?」
「すみません…」

思わず謝ると、今度は洋一くんが黙り込んでしまいます。しかも、そっと手を離されてしまうのです。急に不安になった名前ちゃんは再び顔を真っ青にしますが、洋一くんは深く深く息を吐いた後、少しだけ背を屈めてきゅっと目を閉じました。

「ん」
「えっ…? 倉持先輩…??」
「なんだよ、しねーの」

ちら、と片目だけ開ける洋一くんに名前ちゃんはハッとし、慌てて頬に手を添えます。自分からキスすることに洋一くんは気分を害したわけではないと分かったのです。そうとなれば再び心臓の高鳴りが戻ってくるのですが、こんなに近くで見る洋一くんはかっこよくて、本人が目を瞑っていることを良いことに思わず凝視してしまいました。いつもは洋一くんからの行為を、自分から。あまり待たせるわけにもいかないので、名前ちゃんはおずおずとそこへ唇を近づけます。

「っ…」

ふに。
唇と唇が一瞬触れ合い、名前ちゃんは驚いて思わずビョインと跳ねました。ほんの一瞬の行為なのに心臓が破けそうで、距離をとって深呼吸を繰り返します。洋一くんはその様子を呆れながら見つめ「いや、今のはキスっていうか…」とやや不満そうです。

「名前」
「やっ、ま、まってください! すみませんでした!」
「何に謝ってんだよおまえは」
「わたしが経験不足なばかりに…!」

ぐるぐる目を回していると、洋一くんは名前ちゃんの腕を掴んで上から覆い被さるように唇を重ねてきました。ちゅ、と可愛らしいリップ音。二回、三回、その音を響かせていきます。ただ唇を合わせるだけでなく、吸い付くように挟んだり、角度を変えて唇を愛撫し、その優しい感触に名前ちゃんは爆発寸前です。洋一くんから与えられるキスはいつだって甘く優しいキスなのです。

「ん…、名前」
「は、はい」

洋一くんが名前ちゃんを抱き寄せます。

「…嬉しかった…」
「はい…?」
「お前からされんの、やばいな」
「はい…」

わたしも、やばいです。名前ちゃんは心の中で返事をすると、耳許で感じる照れているであろう洋一くんの声に幸せを感じ、震える手を恐る恐る洋一くんの背中へ回すのでした。

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頭の悪い殴り書き文です。
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