「お、結野アナだ」

どういうときか解らないけれど、彼の言葉がストンと落ちてくる日がある。普段は笑って聞き流せる言葉も、大したことない日常的な言葉も、そんな日はどういうわけかわたしの中にストンと落ちて小さな穴を開けていくのだ。ふと彼に視線を遣ると、普段と変わらない笑顔でテレビを眺めている。

「今日もかわいいなぁ、あれ、ちょっと髪型変えた?」

うんともそうとも言えない。言葉が出てこなかった。普段何でもない彼の言葉がじわりじわりとわたしの中に広がってくる。彼は女性が極端に好きなわけでも、極端に嫌いなわけでもない。ごく普通。世間一般の男性が異性に対して抱く感情と変わらない。それが普段はきちんと解って聞き流せていても、そういかない今日は表情が固まる。彼はいつもわたしを愛してくれて、大事にしてくれて、それを理解しているつもりでも、どういうわけか見失ってしまうわたしは欲張りなのだろうか。

「…名前ちゃん?」

目が合って、名前を呼ばれる。彼は確かにわたしを捉えているはずなのに、返事ができない。ぼうっとただそちらを見詰めているともう一度名前を呼ばれる。名前。それでも返事ができないでいると、彼はわたしを優しく抱き寄せて膝の裏にも腕を回す。

「よいしょっと」
「、うわ」

ソファから体が浮いて、ワンテンポ遅れてやっと声が出た。軽々と横抱きにされてしまったわたしは慌てて彼にしがみつくが、彼は涼しい顔で部屋を出ていってしまう。

「え、な、何?」
「んー」

教えてもらえないまま、彼が行儀悪く足で寝室のドアを開ける。訳が解らないでいると、ベッドの上へぽいっと放られて軽くバウンドした。スプリングが軋み、部屋が暗いままに彼を見上げる。

「なにする、の、」

ぎょっと目を見開く。目の前で彼が服を脱ぎ出しているのだ。理解が追い付かないまま鍛えられた身体を見せ付けられ、薄暗い部屋で小さく喉を鳴らす。

「銀ちゃん、急に、」
「シたくなった」

先程までの笑顔はない。じっと真面目な顔でわたしを見下ろす彼からは何も読み取れない。ただ、察しの良い彼が何の為にこんなことをしているのかは何となく理解する。

「…うん」

体重が掛からないようにわたしの顔の横に腕を付いて覆い被さる彼を、抱き寄せるように首へ腕を回す。こんなにも愛してもらっているのに更に欲しがってしまうわたしは、彼にとって面倒ではないだろうか。それを訊いたらきっと更に面倒な女になってしまうだろうから、唇に重なった熱を感じながらゆっくり目を閉じた。

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言葉なんていらないの図。
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