「一期…ご、ごめんなさい…」

小さく謝罪を口にしてそろりと視線を上げる。そこにはいつもの慈愛に溢れた笑顔とは程遠い顔をした一期一振がいる。どうしても一期と真正面から向き合うことが出来ず、わたしは再び視線を彷徨わせた。

「一期…ごめんね…?」

わたしはもう一度謝罪を口にする。ここまで一期がだんまりを決めるのは珍しくわたしも焦りを感じてしまう。小さくため息をついた一期にびくりと肩を震わす。嫌われてしまっただろうか。わたしたちは恋仲になって久しくない。一期がわたしの本丸に来てから恋心を感じていた一期からずっと、ずっと恋焦がれていた、と伝えられた時はどれほど嬉しかったか。そんな相手に愛想を尽かされてしまったらどうすれば。ぐるぐると不安が渦巻き、しまいには涙が出そうだ。

「主、」
「はいっ」

一期の呼びかけに再び顔を上げる。そこには先程とは違い眉を下げ少し申し訳なさそうな顔をしている一期がいた。わたしと目が合うと、一期は少し口元を緩めた。するりと、一期の細い指先がわたしの頬を滑る。わたしがここにいることを確かめるかのように、ゆっくりと触れる指先が心地よい。頬を滑っていた指先が唇に触れる。幾度となく身体を重ねたことがあるわたしにはこの触れ合いは少し毒だ。唇を滑っていた彼の指先は目尻に、耳に、また頬に。最後に両手で私の頬を包んで、ぎこちなく笑った一期がわたしを抱き寄せる。

「…すみません。少し、嫉妬をしました」
「うん、ごめんね…」

事の発端は演練のとき、わたしが相手の本丸が連れていた一期一振を見つめてしまったからだ。向こうの本丸の一期一振はまだ練度が低いようで、わたしの本丸にきた当初の一期を思い出したのだ。それを見た一期は「貴方には私だけでしょう」と。本丸に帰るなりそのまま彼の自室に連れられ今に至る。
ゆっくりと言葉を紡ぐ一期の声に耳を傾けた。

「昔の私の方が、いいのかと、少し不安になりました」

不安そうに揺れる声に心が痛くなる。どんな一期でもずっと愛しているとわたしは胸を張って言える。わたしを撫でる彼の手が少し震えていることに気が付いて、その震えを止めてあげたくて彼の目を正面から見据えて笑いかけた。

「わたしの一期は一期だけだよ」

抱き寄せる彼の腕の中が心地よくて、身体をすり寄せる。慈しむようにわたしの髪を梳く彼の指先がくすぐったい。わたしの一期一振は貴方だけ。その気持ちを込めてわたしは彼を抱き締め返した。

「…いけませんね。貴方のこととなると少し臆病になってしまう」
「それだけわたしのことが好きってことだよね、嬉しい」

わたしも一期が好き。わたしのその言葉に抱き締める腕に力を込める彼が愛おしい。嬉しくなって猫のように彼の首筋に頬を寄せていると、名前を呼ばれる。

「本当に、お慕いしております。ずっと」

ゆっくりと近付く彼の顔に目を閉じれば唇に触れる温もり。唇の温度を確かめるように、小さく何度も触れる唇に安心を覚える。初めは触れるだけのそれは、だんだんと激しく。彼の舌がわたしの唇を舐め上げるから薄く開くとわたしのそれと絡まりあう。
小さく鳴る水音が恥ずかしくてきゅ、と一期の袖を掴むとそれに気が付いたのか彼は離れていってしまう。わたしと彼の間に出来た銀の糸が月明かりに照らされる。

「本当に、貴方という人は…」
「え、…わっ」

ゆっくりとそばにあった彼の布団に寝かされる。目を開くとそこには一期の顔があって、もう一度舌を絡め合う。一期の舌がわたしの舌を吸い上げる度に漏れる甘えたような声が恥ずかしい。

「ん、ん…っ」
「…は、主、」

可愛い、と囁く砕けた口調の一期にどきりとする。普段からきちんとした言葉遣いで話す一期は二人きりのとき、気を許した時は砕けた口調になるのだ。ずるい。本当に。もっと、名前を呼んで欲しくて、もっと愛して欲しくて必死に腕を伸ばす。

「一期、一期…っ」
「…ここにいますよ」

指を絡め、ちゅ、とあやす様にわたしの額に口付ける。まるで王子様のようだ。魔法が解けたら一期がいなくなってしまうかもしれない。そんなこと起こるはずもないのに、不安になって彼の手を握る指先に力がこもる。

「貴方は、ずっと、ずっと私のものです」
「あ、はっ、…あ、ん」

一期の指先がわたしの下着の上から弱いところをなぞる。するすると上下する彼の指と首筋を這う舌に身体が震える。それに気が付いた一期はわたしの頬に口付けると、下着をずらし秘部に指をさしこんだ。

「ふふ、濡れてる」
「…ね、言わないで」

恥ずかしい、と言って顔を隠すわたしに可愛い、と繰り返す一期が悪戯に笑う。秘事をするとき、彼は少し意地悪になるのだ。わたしをどうしてやろうか、と企んでいる顔もかっこよくて、彼の指を締め付けてしまう。

「主、舌を出して」
「ん、んんっ」

素直に舌を出すと一期がわたしの舌を唇で食む。ちゅ、ちゅ、と可愛いらしい音をわざと立て一期はわたしの羞恥を煽る。それが何故か悔しくて、一期の首に腕を回して自ら口付けを強請った。

「…素直な貴方も、いつも素直になれない貴方も、いつだって愛らしい」

唇を触れ合わせながら一期が呟く。返事をしようとしたのに侵入してくる彼の舌。それに応えようと必死に彼にしがみつく。突然、弱いところを刺激する一期の指にわたしは身体を震わせた。彼の綺麗な指がわたしの体内にいる。それがどうしようもなくわたしを興奮させる。

「そんな顔して、どうされても文句は言えないよ」
「…いつも好きにしてるじゃん…」

素直に好きにしていいよ、と可愛らしく言えないわたしを愛おしそうな目で見つめる。口付けに応えていると彼の唾液が流し込まれて、それを零さないよう飲み込んだ。従順に彼に作り替えられた身体を彼に好きにされ頭がどうにかなりそうだ。

水音を響かせて彼の指がわたしの中を自由にかき回す。その度に嬌声をあげるわたしを見て一期は熱い息を吐く。

「…ね、もう、…っいいから、挿れて…っ」
「…痛かったら言ってください」

何度も身体を繋げているのだから痛いなんてことはないのだけれど、いつまで経っても優しい一期に自然と笑みが零れる。ぬるぬると入り口で擦られ敏感になったわたしの身体が小さく震える。はやく、と言っても具合を確かめるように彼は中には入ってこない。我慢が出来ず、彼の腰に足を絡めて催促すると唇を合わせるだけの口付けを落とされ、その刹那彼の熱い昂りがわたしを貫いた。

「…あぁ、あっ、ん、…っ」
「…ん、」

入ったよ、とわたしのお腹を一期が撫でる。その動きだけでもう達せそうだ。くちゅ、と一期が動くたびに結合部から水音が響くのが羞恥を煽る。それを見た一期が口付けを落とし、わたしの耳を塞いで口内を舐め上げた。耳を塞がれたことで頭の中に響き渡る音に、一期が穿くたびに得られる快感に意識が飛びそうなほど気持ちいい。

「は、ぁん…、っあ」
「…主…は…っ」
「一期っ…ぁ、んっ…は」

一期の動きが早くなる。奥を突かれると絶え間なく嬌声が止まらない。一期も終わりが近いのかわたしの手を握る力が強くなる。

「…あ、も、…むり…っ」
「っは、私も…」

達する直前に一期がわたしを強く抱き締める。それがすごく幸せで、ずっと、ずっとこの時間が続いて欲しくてわたしも一期を強く抱き締め返した。お腹の中に広がる熱が無性に嬉しい。情事が終わったあとも離れたくなくて子どもの触れ合いのような口付けを繰り返した。


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



「ねぇ、一期、ずっと一緒にいてね」
「ええ、ずっと貴方といさせてください」

約束だよ、と差し出したわたしの小さな小指に一期の細長い小指が絡まる。わたしと一期は審神者と刀剣男士。いつまで一緒にいられるか、明日もこの愛しい人の温もりを感じていられるか一寸先の未来も定かではない。けれど、それでも約束をせずにはいられなくて、一期の指切りげんまんを歌うような声に耳を傾け彼に身体も心も預けた。
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